関根信一の観劇!感激!

  

. 「タイタス」

★CAST★
タイタス:アンソニーホプキンス
タモラ:ジェシカ・ラング
カイロン:ジョナサン・リース・マイヤーズ
ディミトリアス:マシュー・リース
アーロン:ハリー・レニックス
ルーシャス:アンガス・マクファーデン
サターナイナス:アラン・カミング
バシアナス:ジェームズ・フレイン

★スタッフ★
監督・脚本・製作:ジュリー・テイモア
衣装:ミレーナ・カノネロ
美術監督:ダンテ・フェレッティ
撮影監督:ルチアーノ・トボリ
音楽:エリオット・ゴールデンサール
1999年 アメリカ映画
上映時間:2時間42分

 シェイクスピアの戯曲の中でも最も上演されないものの一つ。初期の習作とされている「タイタス・アンドロニカス」。かなり若書きなシェイクスピアとも、第三者の手が入ったものではないかとも言われる、言ってみれば、まあ、二流のシェイクスピアの戯曲を、「ライオンキング」の演出で有名なジュリー・テイモアが作り上げた「一大残虐絵巻」。
 舞台は古代ローマ。将軍タイタス・アンドロニカスが凱旋してくる。敵であるゴート賊の女王タモラとその息子たちを捕虜にして。戦死したタイタスの息子たちの霊をなぐさめるために、タイタスはタモラの長男を生け贄に捧げようとする。どうか命だけは助けてやってほしいと懇願する母タモラ。だが、タイタスは、彼女の目の前で息子を殺し神に捧げる。タモラは復讐を誓う。
 ローマは次の皇帝を誰にするか大いにもめているところ。タイタスを皇帝にという声が上がる中、タイタスは軍人である自分はその任でないとして、先帝の二人の息子のうちの一人サターナイナスを皇帝にしてしまう。
 サタナイナスの弟ルーシャスは、タイタスの娘ラビニアと恋仲だったが、サタナイナスはそれをとがめ、ラビニアを后にと望む。拒むルーシャスとラビニアは、逃亡。サタナイナスは、それならとタモラを皇后にすることにする。
 捕虜の身から一気に皇后の位に上り詰めたタモラは、愛人のアーロンと二人して、巧妙な復讐の罠をしかけていく‥‥。
 ルーシャスに皇帝暗殺未遂の罪を着せ、殺させる。二人の息子たちにラビニアを犯させ、舌を切り、腕を切り落とさせる。タイタスの二人の息子たちに無実の罪を着せ、その疑惑を晴らすには、タイタスの腕が必要だと言って腕を切り落とさせるが、それも罠。息子たちの生首は、タイタスの目の前に届けられる。
 最後、全てを失い、全てを知ったタイタスは、タモラをおびき出し、二人の息子たちを殺して作った「人肉パイ」を作って、彼女に食べさせる。
 事実を知ったタモラとサタナイナスを殺し、またタイタスも死ぬ。
 という、むちゃくちゃ陰惨な話です(かなり、要約しました)。

 グロテスクな演目が大好きだった15世紀の観客にはたいそう受けた芝居だそうなんですが、こうまで舞台上で血が流れるっていうのもすごいよね。
 僕は、舞台版は見てないんですけど、日本ではシェイクスピアシアターでの上演の他には、90年代のセゾン劇場での平幹二郎さん主演のものがあるくらいです(タモラは夏木マリ)。
 欧米では、ピーター・ブルックがローレンス・オリビエ主演でつくった舞台が有名です。ラビニアには、あのヴィヴィアン・リーを迎えて、この残虐な芝居の残虐性をより明確に示した画期的な舞台として知られています。
 今回のジュリー・テイモアの舞台は、とっても「演劇的」な作り方をされてます。
 時代背景とかそういったものは一切関係なくって、人物たちの関係が、もっとも効果的な方法で提示されてくる。
 皇帝の住まいがムッソリーニがつくった国会議事堂だったり、メインの舞台がローマのコロセウムだったり、皇帝サタナイナスの造形がほとんどヒットラーだったりと、「リアル」な作り方ではない生々しさが全編にあふれています。
 この様式性がダメな人はとことんダメな映画かもしれませんが、そんなの平気っていう人、たとえば、歌舞伎が大好きだったりする人は、この絢爛豪華な絵巻物がきっと堪能できるはずです。
 主演のアンソニー・ホプキンスは、レクター博士ばりに、このカニバリズムの物語をぐいぐい引っ張っていってるし、すっかりおばさんになったジェシカ・ラングも、爛熟した色気が超イカす。
 戯曲を読んで、どうにもただのバカとしか思えないタモラの二人の息子を、超美形な二人に演じさせているのも、僕的には◎でした。
 舌と腕を切られて沼地に放置されてるラビニアの造形、ただ切り落とすんじゃなくて、腕に木の枝を刺されてるっていうそのどうにも「いやなかんじ」が、でもどこかしら「ティム・バートン」のようで美しく思えてしまって、そんな、気持ち悪いor気持ちいいの危ういバランスがなんともいえない。
 どうにもならない復讐の連鎖の中で、いったい誰がやめるのかという問いは、劇中でいろんな人間によって口にされます。
 でも、誰もやめられない。
 以前、見た「TPT」の「エレクトラ」も自分たちの娘を殺した夫を妻が殺し、その娘と息子が父の復讐として母を殺すという物語でした。
 年末に、劇場で見損なった「グリークス」の「第二部殺人」の中の「エレクトラ」での寺島しのぶ扮するエレクトラと白石加代子扮するクリュタイメストラとの最大の論点もまさにそこ(まあ、全く同じ芝居だからんだけど)。これは、ほんとにすごかった。テレビで見た芝居の感想は書かないで置こうと思うんだけど、これは例外。大掃除の手を止めて、ほとんど息を止めて、釘付けになってしまった。なんてすごい二人なんだ。そして、オレステス役の尾上菊之助!!
 話がそれましたが、そんな不毛な復讐の物語が、このタイタスでも繰り広げられています。
 それは、きっと、さまざまな形の「愛」ゆえだったりするからこそ、余計にやっかいで、重くて、だから、きっと世の中からは争いや戦争がなくならないのだと思う。
 そんな、とっても重たい現実、もしくは、世界の根本的な成り立ちのようなものを、どすんと突きつけてくれる、このお話はなんとも言えず後味の悪い映画です。
 見た後は、「もう見たくない」と思うものの、しばらく立つと、ふともう一度見てみたくなってしまったのは、なぜでしょう。やっぱり、その「どうしようもない愛」ゆえの復讐の「愛」の部分に惹かれてしまったりするのでしょうかね?
 ★は満点の★★★★★です。
 芝居が好きな人は必見でしょう。
 「グリークス」の中継も再放送があったら絶対見てね。ほんとおすすめだから。

 

 

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