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劇団フライングステージ 第26回公演上演台本
Four Seasons 四季
関根信一
清水太一( 34歳・デパート勤務) …… 石関 準
平谷 賢( 35歳・高校教師) …… 野口聖員
田口茂雄(36 歳・不動産会社勤務) …… 増田 馨
相庭弘毅( 36歳・大家さん) …… 関根信一
山下諭司( 36歳・会社員) …… 水月アキラ
市川美代子(34歳・OL) …… 石関 準
道畑 勲( 35歳・DJ) …… 野口聖員
豊嶋孝文(36 歳・公務員) …… 増田 馨
小池静恵( 60歳・不明) …… 水月アキラ
近藤理彦( 23歳・フリーター) …… 早瀬知之
二階堂渉( 25歳・医大生) …… 小林高朗
舞台は、相庭弘毅が経営するアパート「メゾン・ラ・セゾン」と「メゾン・ラ・セゾン(ドゥー)」の間にある庭。どちらも建物も、ここからは見えない。この庭は、塀で囲まれており、外からは見えないようになっている。
ベンチが一つと、ガーデンテーブルと椅子のセットがおいてある。
正面に大きな木が一本。客席の中央あたりにある気持。
* * *
第一場 春「集まれないお花見」
春の午後。
のどかな日射し。
ビーチチェアーで日焼けをしている清水太一。ヘッドフォンで音楽を聞いている。
サングラスに派手目な服装。そのうちわかるがやや季節はずれなノリだ。まだ肌寒いくらいの陽気なのだから。
そばのテーブルには、MDのデッキと、お花見用に用意した重箱がおいてある。
下手から、平谷賢(まさる)がやってくる。ビールの樽を抱えている。太一を見て、びっくり。
賢 ねえ!
太一は、無反応。
賢 寝てるの?
太一 ……。
賢 寝たふりか?
太一 ……。
賢、荷物を置いて、近づいて、MDのボリュームを思い切り上げようとする。
と、太一、突然起きて、賢をハリセンでチョップ!
賢 痛ってぇ! 何だよ、起きてんの?
太一 (サングラスを外し)全部、見えてんのよ。
賢 何でそんなもの持ってるの?
太一 パーティグッズでしょうよ。
賢 何でそんなものが花見にいるわけ?
太一 だって、売ってたのよ、東急ハンズで。でも、もういいの。お花見は中止よ。
賢 え?
太一 だって、誰も来ないんだからしょうがないでしょうよ。
賢 相庭さんは?
太一 今日は友達の結婚式だから遅くなるって言ってたじゃない。
賢 茂雄ちゃんは?
太一 はっ、あの女? 「買い物に時間かかっちゃってるから、先にやってて」ってメール寄越したわよ。ねえ、私、一人で何をどう先にやればいいわけ。ひとりぼっちで? ねえ、どうよ。遅刻してきた平谷さん?
賢 あ……、ホームセンター混んでてさ。やっぱり日曜日って家族連れが。レジものすごくって。それでも、急いで来たんだって。
太一 嘘よ。また、どうでもいいようなもの、買い込んでたんでしょう。そうに決まってる。
賢 そんなんじゃないって。
太一、賢が持ってきた荷物を探り、缶詰を取り出す。
太一 平谷さん、これは何ですか?
賢 猫缶。
太一 そうじゃなくて……
賢 お買い得だったんだよ。
太一 あんた、まだ野良猫の餌付けしてんの?
賢 野良猫じゃないよ。ニャオンはうちの猫だよ。
太一 前から言ってるでしょ。飼うならちゃんと部屋で飼って。ね、そういう中途半端は一番いや。
賢 こういう束縛しない関係がいいの。(猫缶を取り返して)ゴミは捨てておくから、水曜日に。
太一 木曜日よ、燃えないゴミは!
賢 悪かったよ、遅くなって。だって、そんな、誰もいないなんて思わなかったから。
太一 あのね、みんながみんな、そうやって「自分一人ぐらい」って、思うから、こういう結果になるんじゃない。
賢 ねえ、あっちの人たちは? (ドゥー)のみなさん。
賢、上手側の「メゾン・ラ・セゾン」を指す。
太一 知らないわよ。
賢 だって、声かけたんでしょ?
太一 相庭さんが、回覧板回したらしいんだけど……。
賢 うん。
太一 回覧されてないのよ。
賢 え?
太一 私もね、今時、その伝達手段は古すぎるんじゃないの?って言ったのよ。でも、「こういう手から手へのコミュニケーションが大事なんだよ」なんて、言っちゃって。それがさ、三階のDJもどきの部屋にささったまんまなのよ。
賢 ああ、あいつか。あんまり帰ってきてないみたいだよ。
太一 やだ、何、チェックしてんの? もしかして、ああいうのタイプ?
賢 バカノンケに興味はない。
太一 そうよね、アタシも。でもさ、回覧板が回ってないのは、問題だっていうんで、一階の階段のところに貼り紙したのね、そこならみんな見るだろうって。だから、まあ、お知らせしたってことにはなってるんだけど。
賢 そうか、やっぱりねえ。
太一 だから、言ったじゃない。そんな、みんなで集まってお花見なんて無理なんだって。
賢 僕も言ったよ。でもさ……
太一 そうよ。みんなあの女のせいなのよ。
賢 あの女って、相庭さん? でも、せっかくのお花見なんだから、みんなで楽しく盛り上がろうっていうのは、いい企画だと思うんだけど。
太一 そうじゃなくって、あの女。無責任で口ばっかり達者で、そのくせいざとなるとちっとも役に立たない。職場じゃノンケぶってるけど、とうにバレバレ。でも、本人はちっともバレてないと思ってるあいつよ。
賢 茂雄ちゃん? そんな言い過ぎだって。
太一 いいのよ、どうせいないんだから。私だって、みんなで集まるのは好きよ、お祭り大好きだし。でもさ、何で、私たちがゲイだってこと、隠さなきゃいけないの?
賢 それは、しょうがないじゃない。
太一 まあ、あんたやあの女はしょうがないわよ。でも、別にどうでもいいと思ってる私や相庭さんまでなんでそんなにビクビクしなきゃいけないのよ?
賢 でもさ、みんなで話して決めたんじゃない。今回は、そうしようって。
太一 あんたはいいのよ。言ってることとやってること同じだから。有言実行タイプ? でもあの女はそうじゃないじゃない。アタシには「オネエ丸出しは勘弁してよ」なんて言っちゃって、自分のこと棚に上げちゃってさ。
賢 それは確かにそうかもしれないけど……
太一 でしょ? だから、あんたも思ってること言っちゃいなさい。ドタキャンされたせめてもの仕返しよ。
賢 でも……
太一 ほれ、どうせ聞こえやしないんだから。
賢 そう? まあ、たしかにバレバレだよね?!
太一 でしょ?
二人笑いあっているが、会話の間に茂雄が登場していた。
茂雄 全部、聞こえてるんですけど。
太一 何よ、立ち聞き? 卑怯者!
茂雄 声が大きいから聞こえたの。やめてくれる、そういうの。
太一 私は、事実を言ったまでのことよ。
茂雄 そうじゃなくて……。ここでゲイだのなんだのってそういう話。
賢 あ、ごめん……。
茂雄 もう、バカじゃないの? 昔とは違うんだから、しっかりしてよね。
太一 ああ、もう納得いかないわ。
茂雄 みんなで話したじゃない。決めたことでしょ。ここは共有スペースなんだから。いい? あっちに住んでるのは、ノンケのみなさんなのよ。わかってるでしょ?
太一 あら、わかんないわよ。けっこう怪しいと思うわ。
茂雄 怪しいって誰よ?
太一 誰ってみんなよ。あのサラリーマンとかさ。
茂雄 女の人たちは? 二人とも女装だっていうの?
太一 かもね? あり得る!
茂雄 現実を見なさいよ。いい、そりゃ私たちは、この庭を守るために、メゾン・ラ・セゾンを建てることには成功した。でもね、ゲイばっかりが住んでるマンションをつくることには失敗したのよ。
太一 ……。
賢 がんばったんだけどね……。
太一 あんたの審査基準が厳しすぎるのよ。いいじゃない、フリーターだって。
茂雄 あんたは、若くて可愛ければ、誰だっていいんじゃない。
太一 そんなことないです。
茂雄 これはみんなで話したことでしょ。とにかくいつまでも部屋を空けとくわけにはいかない。それで、決めたんじゃない。メゾン・ラ・セゾンは、普通のマンションってことにするって。
太一 わかってます。
茂雄 わかってないじゃない。わかってるんだったら、あんなに大声でオネエ会話ができるわけないじゃない。
太一 オネエ会話なんてしてません。
茂雄 どの口がいうか! あ、それから、ここでそのビーチチェアーも使用禁止。昼寝もだめ。バレバレにもほどがあるってかんじなんだから、気をつけないと。
太一 もう、いいわよ! じゃあね。
太一、歩き出す。
賢 ねえ、お花見は?
太一 私、ウソがつけないタイプなの。誰かさんと違って。今日は遠慮させていただくわ。(大声で)ごめんあそばせ!
茂雄 ちょっと。
太一、下手に退場。
賢 太一!
茂雄 ほっときなさい。お願いしてまで、いてもらうことないんだから。じゃ、始めましょ。
賢 の人、誰も来ないみたいだしさ。いいんじゃないのかな? 僕らだけで楽しければ。バレバレでも、なんでも。
茂雄 だめよ。そういう油断が死を招くんだから。
賢 なんだか、住みにくくなったなあ。
茂雄 だから、こうやって一度みんなで集まってみようって決めたんじゃない。一度みんなで楽しく飲んでみたら、それなりのおつきあいのしかたが見つかるかもしれないって。でしょ?
賢 まあ、そうだけど。でもさ……
茂雄 何? まだ、何か文句ある?
賢 文句っていうか、感想?
茂雄 なーに?
賢 オネエ会話だったら、茂雄ちゃんも負けてないかなと思って。
茂雄 そんなこと絶対にありません。
賢 やっぱり、バレてると思うよ、職場。
茂雄 そんなことないわよ。
賢 ないわよ?
茂雄 ……ないよ。……ないさ。
賢 ……。
茂雄 (逆切れ)気をつければいいんでしょ!
上手から弘毅が登場。結婚式帰りの礼服姿。
弘毅 ごめんね遅くなって。あれ、二人だけなの?
茂雄 見てのとおり。
弘毅 そうか、誰も来ないか? どうしてなんだろう?
茂雄 前も忠告したと思うけど、桜も見えないところでお花見しようっていうコンセプトがまず失敗してるんじゃないかな?。
賢 みんなで出掛けてもよかったんじゃない? 御苑とか、井の頭公園とか。
弘毅 最初の集まりは、ここでっていうほうが気軽かなと思って。
茂雄 (目の前に立ってる木を見て)この木に花が咲けばね。
賢 やっぱり飾り付けすればよかったじゃん。造花とか、イルミネーションとか、万国旗とかさ。
茂雄 それって、すでに花見じゃないじゃない。
賢 まあ、そうだけど、何もないよりは?。
弘毅 そうだよ。何もないよりは、こんな木だけど、あるだけマシってかんじだよ。
茂雄 ま、いいわ。じゃあ、始めよう。結局、いつもと同じね。声かけただけ無駄だったってこと。
弘毅 そうなのかなあ。
茂雄 飲もう。
弘毅 あ、そうだ。ねえ、太一は?
茂雄 今日はパスだって。帰ってったわよ。
賢 ちょっと呼んでくる。
茂雄 いいわよ。ほっといて。いいじゃない、三人で。しみじみと桜ヌキの花見しましょう。
弘毅 あ、三人じゃないの、一人追加。そこで待っててもらってるんだ。
賢 追加って誰よ? もしかして、(ドゥー)の人?
弘毅 かもしれない。どうぞ!
弘毅が呼ぶと、上手から、山下諭司がやってくる。この人も礼服姿。
山下 こんにちは。
茂雄 あれ、山ちゃん? やだ、どうしたの?
弘毅 披露宴で会ったの、もうびっくりして……。(賢に)ごめんね、山下くん、通称、山ちゃん。僕らとは古い友達っていうか……。
賢 初めまして。平谷です。
山下 どうも。山下です。
弘毅 今日の結婚式、高校の同級生のだったんだけど。山ちゃん、新婦の上司なんだって。もうびっくりしちゃって。まじめな挨拶してるから、もうおかしくってさ。
山下 上司?
弘毅 そういうトシよね。まわりに同じ部署の若い男の子いっぱいはべらせて。
山下 そんなんじゃないって。
弘毅 でね、このままノンケのりの二次会に行くのは気が重いっていうんで、誘ったの。
山下 もう限界ってかんじ。
茂雄 久し振りだよねえ。十年ぶり?
弘毅 そうそう。
山下 二人とも全然変わらないよねえ。
弘毅 やめよ、そういう会話。僕は太ったし、茂雄ちゃんも髪の毛心配になってきたし。ま、たしかに山ちゃんは変わってないかも。
山下 そんな同い年なんだから。
茂雄 余裕ってこと? 相変わらず、にっこり笑ってイヤミよね。
弘毅 もめないの。でね、山ちゃん、今、住むとこ探してるんだって。
茂雄・賢 え?
弘毅 お母さんの看病するんでしばらく実家に戻ってたんだけど、去年の暮れに亡くなって、それでまたこっち出てきたいんだって。
茂雄 実家は?
山下 兄弟みんなバラバラなんで、処分しようって。僕も、二時間かけて通うのもう体力的にもう勘弁ってかんじ。
茂雄 ようこそ! あんたみたいな人を待ってたのよ!
賢 やったね!
茂雄 うん。
賢 もう部屋は見たの?
弘毅 まだ、これから。
茂雄 ちょっと待って、どっちにするの?
山下 どっちって?
弘毅 こっちかこっちか?
山下 (両方を見て)そうだなあ……。みんなはどっちに住んでるの?
茂雄 弘毅はあっち。僕とこの人と太一が住んでるのがこっち。
山下 太一って? あの?
茂雄 そうよ。そう。
弘毅 知り合い。
山下 うん、ちょっと。そうなんだ。すごいことになってるね、ここ。
弘毅 まあね。
賢 あ、こっちは古いけど、家賃は安いわけ。で、こっちは、こないだ建ったばかりだけど、ちょい割高。
弘毅 どっちでもいいんだ。ただね、一言言っておくと、こっちのメゾン・ラ・セゾンはゲイばっかが住んでて、こっちのメゾン・ラ・セゾンは、基本的にノンケ。まあ、僕はいるんだけども。
山下 それって何か意味あるの?
弘毅 意味? ああ、もはやないかもね。
賢 そんなことないって。僕らは、なんていうか、こうやって集まってお花見したり、まあ、楽しくやってるわけ。あっちの人たちは、今いちノリが悪いっていうか……
茂雄 どっちにする?
山下 え? そうだなあ。
茂雄 じゃあ、引っ越してくることは決定ね。どっちにしろ?
山下 まあ、それは……
賢 やった! よかったね。
弘毅 うん。
茂雄 じゃあ、飲みましょう。飲みましょう。
山下 あの……
茂雄 いいから、いいから。
弘毅 まあ、ゆっくりしてって。あとで部屋見てもらえばいいから。まずは飲もう。
賢 OK。
とものすごい勢いで、三人、ビールを準備。
弘毅 花見、おめでとう。乾杯!
賢・茂雄 ようこそ!
飲み始める三人。
賢 やっぱり外で飲むビールはいいよね。
茂雄 うん、倍おいしいってかんじ。
山下 生き返った気がする。
弘毅 ねえ、やっぱり、太一、呼んでこない?
茂雄 いいわよ、来たきゃ来るでしょ。こうやって静かに飲むのもいいもんよ。あの女いると、うるさくって。そうだ、これ食べちゃっていいわよね。
テーブルの上の重箱を開く。
弘毅 それ、太一作ってきたんでしょ?
賢 うん。
山下 本格的ってかんじ。
茂雄 やだ、また卵焼き。あの女も進歩しないわね。
賢 食べながら文句言うのやめなよ。
茂雄 いいのよ。聞こえやしないんだから。
と上手から声。
声 あの……
みんな振り返ると、メゾン・ラ・セゾンの住人、市川美代子が立っている。
山下 あ、太一! 久し振り。すごいね、完璧じゃない。
市川 あの……
弘毅 山ちゃん、そうじゃないの。この人は、こっちに住んでる市川さん。
山下 またまた……
弘毅 ほんとうなんだって!(美代子に)すみません。結婚式の帰りで、酔っぱらっちゃってて。あ、山下くん。僕の友達です。
市川 ……どうも。
山下 どうも。
茂雄 こんにちは。
市川 あ、田口さん。すみません。ごぶさたしちゃって。
茂雄 風呂釜の調子よくなりました?
市川 ええ、もうすっかり。助かりました。
茂雄 何かあったら、また連絡ください。
弘毅 (諭司に)茂雄ちゃんは、ここの管理してる金井不動産で仕事してるの。
山下 ああ、そうなんだ。
弘毅 (紹介する)えーと、平谷賢さん。こっち(メゾン・ラ・セゾン)の住人。
賢 高校で国語の教師してます。
市川 どうも
賢 ビールでいいですか?
市川 すみません。
賢、ビールを注ぐ。
もうおわかりだと思うが、みんな「微妙に」ノンケモードになっている。
弘毅 じゃあ、乾杯!
みんな 乾杯。
飲む、みんな。
市川 すみません。突然おじゃまして。
弘毅 あ、いいのいいの、気軽に集まろうってそういうあれだから。
市川 これで全員ですか?
弘毅 さっきまで、こっちの清水さんがいたんだけどね。
市川 清水さん?
市川 どうかされたんですか?
茂雄 あ、別に。気まぐれな人なんで、気が向いたらまた顔出すんじゃないかな?
市川 そうなんですか? 会えるの、すっごい楽しみにしてたんです。清水さんって、いつもここで昼寝してる人ですよね? 私、いつもベランダからこっそり見てて。すっごいおしゃれっていうか。かっこよくって。いつか、お話したいなってずっと思ってたんです。
茂雄 ああ、そうだったんだ。……最悪。
市川 あの、こんなもの持ってきたんですけど……。
美代子、持ってきた包みを広げる。
賢 わあ、うまそう。
茂雄 やっぱり、こうでなくっちゃね。手料理ってかんじ?
市川 いえ、デパ地下で買ってきたんですけど。ごめんなさい。
弘毅 いいの、いいの。じゃ、いただきます。
みんな、てんでに箸をつけて、飲み食いする。
山下 ねえ、太一、呼んできたら?
短い間
弘毅 そうだね。
賢 じゃあ、僕行って来る。
茂雄 あ、ちょっと待って。……行ってらっしゃい。
賢 じゃあ……
賢、退場。
市川 いいですね、こうやって、外で飲むのって。
茂雄 お花見ってしないんですか? 会社とかで。
市川 ええ、友達あまりいないんです。
みんなフリーズ。
市川 嘘です。昨日、会社の近くでやりました。朝から場所取りして、湿った地面にビニールシート敷いて。みんな酔っぱらって、カラオケ歌って。
弘毅 夜桜? いいよね。にぎやかで。
市川 うるさいだけです。おやじが酔っぱらって。みなさん、仲良しなんですね。
弘毅 まあね、もう古いつきあいだから。どうなんですか? お隣さんとはおつきあいは?
市川 ないですよ。普通、そうじゃないですか?
茂雄 まあね、マンションだしね。
市川 一度も会ったことないんですよ。なんだか、へんなかんじなんです。会ったことのないお隣より、ここで昼寝してる清水さんの方が身近な気がして。
茂雄 ああ、そうなんだ。ふーん。(弘毅に)最悪……。
市川 遅いですね、清水さん。
弘毅 今、行ったばかりだから。もう少し待って。
理彦と渉が下手から登場。
渉 こんちは。
弘毅 あれ、どうしたの? 何よ、二人揃って。来れないって言ってたのに。
渉 ちょっと気が変わって。あれ、太一さんは?
弘毅 あ、今ね……
茂雄 元気そうじゃない?
渉 大学忙しくて。(理彦に)バイトもね。
茂雄 どうなの、ちゃんとやってんの? 卒業出来そうなの?
渉 まだ先だから、医学部は六年だし。
弘毅 (山ちゃんに)僕の甥っ子の渉。それとパートナーの近藤くん。
山下 へえ、そうなんだ。
市川 パートナー?
茂雄 友達、友達。
弘毅 そうそう、二人とも、こないだまで、ここに住んでたんだ。
市川 そうなんですか。
理彦 どうも。
弘毅 僕と茂雄ちゃんの古い友達の山下くん。今度、引っ越してくることになったんだ。
山下 そんな、まだ決めたわけじゃないから。
茂雄 悪いようにはしないから。
渉 (市川を見て)あの……
弘毅 あ、ごめん、ごめん。ドゥーに住んでる市川さん。401号室。
市川 初めまして。おじゃましてます。
弘毅 そんなおじゃまだなんて、今日は合同のお花見なんだから。
茂雄 そうそう。(渉たちに)何飲む?
渉 いいよ、自分でやるから。
渉、いそいそと飲み物を準備。
その間に弘毅と茂雄のやりとり。
茂雄 ねえ、ちゃんと気をつけてくれないとダメじゃない。パートナーとか言うのやめてくれる。
弘毅 ごめん、一瞬、悩んだんだけど、ま、いいかなって。
茂雄 悩んだんなら考えてよ。
弘毅 じゃ、どうすればよかったの?
茂雄 ただ「近藤くん」って。
弘毅 紹介ってさ、つながりを言わなきゃわかんないんじゃないの?
茂雄 だったら「ともだち」でいいじゃない。
弘毅 いいじゃない、みんな人それぞれで。
茂雄 だって、多数決で決めたじゃない。
弘毅 違うでしょ。二対二で、最後はジャンケンポンだったんじゃないよ!
山下 (渉と理彦に)ねえ、つきあって、どのくらい?
茂雄・弘毅 山ちゃん!
山下 へ?
茂雄 ちょっとこっち来て。
山下 なに?
茂雄、山ちゃんを蔭に連れていく。
市川 どうかしたんですか?
弘毅 ああ、何でもないの。じゃあ、乾杯しようか?
市川 でも……
弘毅 じゃ、乾杯。
飲むみんな。
弘毅 よかったら、これ食べて、太一ががんばって作ったやつだから。市川さんもどうぞ。
渉 いただきます。
渉、理彦に割り箸や小皿を渡してやったりする。
渉 これ食べる?
理彦 いらない。
弘毅 (渉に)何かあったの?
渉 何って? 何も?
三人を見ている市川。
茂雄と山ちゃんが戻ってくる。
茂雄 さあ、飲もう、飲もう。
山下 いぇーい!
茂雄 (美代子に)市川さん、飲んでます?
市川 ええ、いただいてます。
弘毅 そうだ、ワイン飲みません? これ太一お勧めの一本なんだけど……。
市川 あの……
弘毅 どうしたの? ワイン苦手?
市川 そうじゃなくて、私、ずっと気になってることがあって。
みんな ?
市川 いつか聞こう、いつか聞こうって思いながら、ずっと聞けなくて……。今も、そのことがずっと頭の中を離れないんです。
一同、緊張。
茂雄 あ、それは、多分考え過ぎだと思うなあ。
弘毅 そうそう。
市川 でも、どうしても気になって……。こんなこと聞いていいのかどうか、あれなんですけど。でも……
理彦 いいから言っちゃえば?
市川 …………(ようやく)どうして、メゾン・ラ・セゾン・ドゥーっていうんですか? こっちのマンション。ドゥーって。
間。
弘毅 あ、それね? えーと、最初は普通に「ツー」だったんだけど、フランス語だったら、ドゥーでしょってことで。みんなで決めたの。
市川 みんなで?
弘毅 えーと、ここ、元々は、僕のうちが建ってたんだけど、死んだ父親が残した借金があってね、それを返さないと、ここ売って、僕はどこかに行かないといけないってことになっちゃって。で、どうしようかと思ってたら、こっちに住んでたみんなが、お金出してくれてね、それで、こっちのドゥーを建てて、僕はそれまで通り、大家さんでいられることになったわけ。
市川 そうなんですか。いいですね。そういうともだちって。
弘毅 そうね、ともだちね。
間
山下 で、何、二人は今日はデートなんだ?
市川 デート?
茂雄 山ちゃん、ちょっと部屋見てみない?
山下 後でいいよ。
茂雄 明るいうちに見といた方がいいよ。物件見るときはね、天気のいい昼間だから。
山下 それって、不動産屋の手口ってかんじじゃないの、微妙な物件売りつける。
茂雄 そんなことないって。空いてるのは、101号室なんだけどね。いいとこだよ。少しだけど、専用の庭もあるし。
山下 庭? そこってペット可?
茂雄 だいじょぶに決まってるじゃない。安心して。部屋の中でも外でも、ちゃんと責任持ってくれるんだったら、ペットは可。
山下 ほんとに? じゃ、ちょっと見せてもらおうかな?
茂雄 じゃ、ちょっと行ってくるね。
と、市川が二人のあとについていこうとしている。
茂雄 あの、何か?
市川 わたしも行っちゃだめですか?
茂雄 だめって?
市川 一度見てみたかったんです。どんなところなんだろうって。ずっと気になってて。だめですか?
山下 いいんじゃないの?
茂雄 すぐ戻ってきますから。
弘毅 太一、もうじき来るんじゃないかな?
市川 途中で会えます。
山下 じゃあ、行こうか?
茂雄 ちょっと……。じゃあ。
三人、退場。
渉 茂雄ちゃん、なんか変だね。
弘毅 僕もそう思うんだけどさ。ま、好きにさせてあげようと思って。
渉 相変わらず。
弘毅 そうそう。考えてみたらさ、僕、茂雄ちゃんのそういうところがめんどくさくて別れたんだよね。茂雄ちゃん、ここに越してきてさ、結構頼りになるじゃんって、ちょっと見直してたんだけど、やっぱりね。
渉 やり直してみる気はないと。
弘毅 当たり前。そんな、いつまた、よりが戻っちゃうかもなんて状態でこんなふうに仲良く暮らせないでしょ。
渉 そうかも。
弘毅 どうなの、あんたたちはうまく行ってんの?
渉 まあね。
弘毅 よかった。(理彦に)この頃、連絡ないから心配してたの。もしかしたら破局?なんて。ありがとね。二人一緒に来てくれて。
理彦 あの……。
理彦、言いかけて黙る。やりとりの途中で、上手から道畑勲が登場しているのに気がついて。
だまって立っている道畑。手には回覧板。
弘毅 (理彦の視線を追って)あ、こんにちは。
道畑 どうも……。あの、これ。
弘毅 あ、回覧板。
道畑 すみません。俺のとこで止めちゃって。
弘毅 だいじょぶ。貼り紙したから。
道畑 今日、花見って。
弘毅 そうそう、ありがとうね。来てくれて。
道畑 誰もいないんすか?
弘毅 そんなことない。4Fの市川さんも来てくれて。今、ちょっと出てるんだけど、すぐ戻ってくると思うよ。
道畑 そうすか。
弘毅 あ、僕の甥っ子の渉。それと、ともだちの近藤くん。
道畑 ともだち?
弘毅 何飲む? 飲めるよね?
道畑 えーと……。いいっす。また、あとで来るっす。
道畑、行ってしまう。
弘毅 あ……。
渉 誰?
弘毅 ドゥーの301号室の道畑さん。DJらしいんだけどね。ちょっとおっかなくってさ。なるたけさわらないようにしてるわけ。
渉 大家さんでしょ?
弘毅 一番苦手なタイプなんだよ。
渉 そんな人、わざわざ住まわせなくてもいいじゃない。
弘毅 僕もそう思ったんだけどさ。茂雄ちゃんが、そのへんはもう割り切んなさいって。こっちと違って、ドゥーはお仕事なんだからって。
渉 そんで、どうなの、全部埋まってんの?
弘毅 もうひと息ってとこかな? あと2部屋。やっぱ、景気よくないのかね?
渉 ふーん。あのさ、空いてるんだったら、ちょっとお願いがあるんだけど。
弘毅 何?
渉 しばらく住まわせてもらえないかな?
弘毅 渉?
渉 そうじゃなくて(理彦を見る)
弘毅 近藤くん?
渉 うん。
理彦 いいよ、そんな。僕、だいじょぶですから。
渉 家賃とか、ちょっと負けてもらえたりするとうれしいなって。
理彦 そんなの悪いじゃない。
弘毅 (理彦に)今、どうしてんの? ずっと実家? 仲直りできた?
理彦 ええ、何とか。
弘毅 よかったじゃない。
渉 でも、結局、うまくいかなくて。また飛び出して来ちゃって。しばらく、僕のとこにもいたんだけど、オヤジがあんまりいい顔しないんで、いづらくなっちゃって。
理彦 だって、全然、うちになんていないんだもん。
渉 しょうがないじゃないか。学校あるんだから。だったら、ちゃんとバイトしろよ。
弘毅 じゃ、何、今、どこ住んでんの?
理彦 友達のところ、いろいろと。
弘毅 やだ、それじゃ、行くとこないの?
理彦 そういうんじゃなくて……。それで全然だいじょぶなんです。
渉 だいじょぶなわけない。そんなの変だって。
理彦 そんなことない。
弘毅 わかった。了解。ここにおいで。家賃のことはどうにでもしてあげる。僕にまかせて。
渉 やった。
理彦 そんな悪いです。
弘毅 悪くない。だって、空いてるんだもん。じゃ、ちょっと部屋見に行こう。
理彦 今から?
弘毅 うん。ちょっと自慢なんだ。今空いてるのはね、2階と3階。どっちもでもいい方選んで。
渉 やったじゃん。
弘毅 行こう。
理彦 いいんですか、ここ?
弘毅 平気、平気。鍵取ってくるから。先、行ってて。
弘毅、上手へ退場。
理彦 余計なこと言わなくていいよ。今のまんまで全然困ってないんだけど。
渉 やめてほしい。友達のとこになんかいつまでもいるの。
理彦 もしかして、疑ってる? 僕のこと?
渉 疑ってはいないけど、でも、今頃、どうしてるんだろうと思うことはある。
理彦 疑ってるんじゃん。
渉 そういうことしてんの?
理彦 してないよ。友達、女だって言ってるじゃん。信じてないの?
渉 信じてるけど、でも……。
理彦 ここに置いとけば安心ってこと?
理彦 まあね。みんないるし。なんでいやなの? いいじゃん。暮らしやすいじゃん。
理彦 ここはいやだ。
渉 なんで?
理彦 なんでって、だから……。
弘毅が、戻ってくる。
渉 ごめん、今、行くところ。
弘毅 下見、ちょっと後回し。お花見、継続。
渉 どうしたの?
弘毅 グッド・ニュース。新メンバー登場。
渉 え?
弘毅 どうぞ!
上手から、の住人、小池静恵と豊嶋孝文が登場。
カジュアルなおばさんと、ひょろっとした根暗な男。
豊嶋 おじゃまします。
小池 こんにちは。
弘毅 豊嶋さんと小池さん。僕の甥っ子の渉と友達の近藤くん。
渉 どうも。
小池 やだ、こんな大きな甥っ子さんがいるの? 見えないわねえ。
弘毅 そんなことないですって。
豊嶋 さっきから始まってるんだなと思ってたんですけど、何だか、一人で顔出すの気がひけて。ちょっと挨拶だけと思ったら、そこで会ったんで。
小池 私もちょっと顔だけ出そうと思っただけだから。でも、いいわねえ、にぎやかで。
弘毅 そんなゆっくりしてって下さいよ。
小池 いいの、いいの。これよかったら、食べて。煮物とかそんなのばっかりなんだけど。
弘毅 すごいな、今年は。なんだか、豪華版だ。
下手から、太一が登場。すごいいきおい。平谷が追ってくる。
太一 おまたせしました!
渉 太一さん。
太一 ハロー。若い二人。元気でやってる?
渉 まあまあってかんじ。あの、実は、今度……
太一 ちょっと、待ってね。その話は後で聞くから。(豊嶋と小池に)どうも初めまして。こっちの201号室の清水です。
平谷 101号室の平谷です。
小池 えーと、201号室の小池です。
豊嶋 401号室の豊嶋です。
太一 どうも。よろしく。
豊嶋 いつも、ここで寝てますよね。日焼けですか?
太一 ううん、そうじゃなくて、日光浴。目指してるのは、真っ黒じゃなくって、健康的な小麦色っていうの?
豊嶋 はあ……。
太一 あなた、顔色悪いわね。だいじょぶ?
豊嶋 あ、ちょっと二日酔いなんです。
太一 やだ、そうなの。じゃ、迎え酒、迎え酒! 飲みましょう。何にする?
豊嶋 あ、何でもいいです。
小池 私は、ビール。
太一 じゃあ、二人ともビール。はい、オッケー!
太一、にぎやかに仕切る。
コップがみんなに渡って。
太一 じゃあ、素敵なご近所さんに乾杯!
乾杯するみんな。飲む。
豊嶋 (帰ろうと)じゃあ、これで。
太一 ちょっと、何言ってんのよ? もう帰るの?
豊嶋 ちょっと挨拶だけと思ったんで……
太一 いやだ、いなさいよ。少し、顔色よくなってきたんじゃない?
豊嶋 え、そうかな?
小池 そうね、たしかに。
太一 いいから、飲んで、飲んで。
平谷 (太一に)無理強いはよくないと思うな。
太一 (弘毅に)私無理強いしてる? ねえ、そうかしら?
弘毅 太一、ちょっと。
太一 なによ。ごめんなさいね。
二人、少し離れて。平谷も。
平谷 みんなで話したこと覚えてる?
太一 覚えてるわよ。それがどうしたのよ?
平谷 開き直ってどうすんの?
弘毅 酔っぱらってる?
太一 だいじょぶよ、おさえるとこはおさえてるから。
平谷 あのさ……
小池 (突然)やだ、このいなり寿司!
太一・弘毅・茂雄 え?
小池 ……おいしいわ。
太一 ありがとう。どんどん食べて。
小池 この油揚げが裏返ってるのがいいわねえ。味がしみてて。
太一 でしょ? (豊嶋に)あなたもどうぞ食べて、食べて。
豊嶋 あ、僕、いいです。
太一 いいから、騙されたと思って食べてみなさいって。ほれ、あーん。
といなり寿司を箸でつまむ。
豊嶋 やめてください!
太一 ?
豊嶋 僕、大豆アレルギーなんで、こういうのだめなんです。
太一 ごめんなさい。知らなかったから。
豊嶋 失礼します。おじゃましました。
豊嶋、退場。
弘毅 あ、ちょっと待って。
平谷 もう、太一、やりすぎ。
弘毅 せっかく、いいかんじだったのに。
太一 わかったわよ。じゃあ、ちょっと謝ってくる。
平谷 え?
太一 だいじょぶよ、任しといて!
太一、豊嶋を追って、上手に退場。
小池 みんな、元気ね。
弘毅 ちょっと元気すぎってかんじ。すみません。
小池 私もね、前は息子夫婦と一緒に住んでたんだけど、孫が小学校に入るんで手狭になってね。
理彦 追い出されたの?
小池 そうじゃなくて、自分から。もともと同居はやめようって言ってたんだけど、どうしてもっていうから。ま、潮時ってかんじ。私ものびのびしてラクなんだけど、ちょっとね。
弘毅 引っ越しのとき、見えてましたよね。
小池 またすぐ来るからって言ってたのに。もう半年経つのに、一度もよ。やっぱり、そういうもんなのかしらねえ。
弘毅 あの、うちでよかったら、いつでも来てください。一日、いるんで。
小池 そういうつもりで言ったんじゃないの。やだ、ごめんなさいね。そうだ、部屋にビール券があったのよ。持ってくるわね。
弘毅 いいですよ。もうこれだけあるんだし。
小池 いいから、いいから。ちょっと待っててね。
小池、上手に退場。
弘毅 女手一つで息子育てて、結婚が決まったと思ったら、なんだかぽかーんとしちゃったんだって。仕事するように言ってるんですけどって、息子さん話してた。
平谷 マリッジ・ブルーってやつ?
渉 それ使い方違う。
理彦 あんまり親切にすると、頼りにされちゃうんじゃないですか? なんだかめんどくさそうな人多いみたいだし。
弘毅 ま、たしかに、こっちのみんなとはちょっと違うよね。
渉 うん、全然。
下手から、茂雄と市川が登場。
市川 すみません、遅くなって。なんだか可愛い部屋ですね。いいかんじに古くって。よくわからない壁のでっぱりとか。ガスコンロもちゃんとついてるし。
弘毅 ごめんね。茂雄ちゃんが、こっちは電気にしろって言うもんだから。そんなんじゃ料理できないって、僕と太一でねばったんだけど。
茂雄 この頃の新築はみんなそうなの。
弘毅 あれ、山ちゃんは?
茂雄 もう少し見てみるって。ねばってる。(呼ぶ)もういいでしょ。早く来なよ。
山下 (声のみ)わかってる。ちょっと待ってて。
茂雄 (弘毅に)いいかんじ。これで決まりだね。
弘毅 いいのドゥーは見なくて。
茂雄 だいじょぶ。ドゥーはペット不可って言っといたから。
弘毅 うそ。要相談なんじゃないの?
茂雄 いいの、いいの。これで決まり。よーし、あとは、ドゥーのふた部屋か。
弘毅 それなんだけど。近藤くん、どうかなって?
茂雄 え、ほんと? すごいじゃない。(理彦に)ようこそ。
理彦 あの……
渉 よろしくお願いします。
弘毅 よかったね、茂雄ちゃん。
茂雄 今日は、いい日だわ。やった、飲もう、飲もう。
みんな、それぞれ飲む。
と下手から山ちゃんがやってくる。妙にこそこそしている。
弘毅 (気づいて)山ちゃん、よかった。気に入ってくれたみたいで。
山下 ごめん。やっぱりこの話なかったことにして。
茂雄 何よ、どうしたのよ?
山下 見ちゃったんだよ。あそこ。
とドゥーの4階を指す。
山下 うちの部の若いの。
弘毅 え、豊嶋くん。
山下 そうそう、豊嶋。
弘毅 だって、今日の結婚式に来てなかったじゃない。
山下 つきあい悪いんだよ。なんだか根暗なやつでさ。今日もドタキャン。僕のテーブル一人分空いてたろ?
弘毅 そういえば。
山下 とにかく、そういうわけだから。
茂雄 だいじょぶだって。こっちとこっちは違うんだから。
山下 ダメだって。だって、こっちはそういうアレなんでしょ? そんなところに引っ越してなんか来れないって。
茂雄 だいじょぶだよ。僕だっているんだから。
山下 だから、それもさあ……。
茂雄 じゃあ、ドゥーにしたら? こっちもいいよ。
山下 絶対にパス。じゃあ。
山ちゃん、荷物を持って、こそこそと出ていく。
茂雄 「それもさあ……」ってどういうことよ?
平谷 気持もわからないではないよね。
弘毅 うん。
茂雄 ちょっと行ってくる。絶対に説得してみせるから。
茂雄、山ちゃんを追って、走っていく。
平谷 だいじょぶかな?
弘毅 まあ、やらせてあげよう。
市川 (理彦に)あなたは引っ越してくるんですよね?
理彦 来ないよ。
渉 え?
理彦 (弘毅に)やっぱり、僕、自分で何とかします。
渉 何言ってるんだよ。
理彦 おじゃましました。
理彦、歩き出す。
渉 どこ行くんだよ。
理彦 帰るの。
渉 帰るってどこに?
理彦 だから……
渉 男のとこ?
間
理彦 知ってたんだ。
渉 友達なんかじゃないくせに。
理彦 知ってて、知らんぷりしてたんだ。
渉 やっぱり友達じゃないんだ。
理彦 もう終わりだね。
渉 行くなよ。
理彦 終わりにしよう。
渉 いやだ。話そう。
理彦 ……いい、やめとく。
渉 ……。
理彦 (大人たちに)お世話になりました。
理彦、出ていく。
短い間。
渉、後を追って、駆けだしていく。
市川 ……すごーい。
弘毅 (平谷に)ちょっと、見てくる。あと、よろしく。
平谷 え……?
弘毅 すぐ戻るから。
弘毅、退場。
残ったのは、平谷と市川。
間。
平谷 何だかあれだなあ。なかなか全員そろいませんね。
市川 あの二人、どうなるんでしょう?
平谷 これまでも、ああやって、もめては仲直りしてたんだけど。今回はどうかなあ……
市川 やっぱりそうだったんですね、
平谷 え? (気づいて)あ! いや、そうじゃなくて……
市川 いいんです。私、何とも思ってませんから。仲直りできるといいですね。
間。
平谷 あ、こんな時間だ。ちょっとビデオの録画予約し忘れてたんで、ちょっと、すみません。
市川 いってらっしゃい。私、いますから。
平谷 どうして、そろわないのかな?
平谷、退場。
市川、一人で座っている。
上手から、小池と豊嶋がやってくる。
三人、見合ったまま。
小池 201の小池です。
豊嶋 402の豊嶋です。
市川 401の市川です。
三人 初めまして。
小池 あら、みなさんは?
市川 ちょっといろいろあって。
小池 あら、そう。
市川 あの、清水さん、どこにいるか知りません?
豊嶋 あ、清水さんなら、あそこに。
豊嶋、自分の部屋を指す。みんな見上げる。
市川 やだ、洗濯物干してる。
豊嶋 いいって言ったんですけど、洗ったらすぐ干さなきゃだめでしょって。いいから、先行っててって。(大声で)あ、それはいいです!!
小池 派手なパンツ。元気ね。
豊嶋 (叫ぶ)もういいですから、一緒に飲みましょう。
太一、引っこんだらしい。
と上手から道畑が登場。手には、バーボンのボトル。
道畑 あ……
市川 道畑さん?
小池 301号室?
道畑 ええ。
小池 小池です。
豊嶋 豊嶋です。
市川 市川です。
道畑 あれ、誰もいないんすか?
市川 だいじょぶ、すぐに戻ってきますから。飲みましょう。
道畑 はあ。あ、これ、けっこうイケるバーボンなんすけど……
市川 すてき! でも、まずはビール。
4人、それぞれ飲む準備。微妙な感じ。
小池 なんだかこういうのって……
豊嶋 ええ……
道畑 たしかに……
市川 じゃあ、乾杯しましょう。素敵なご近所さんに、乾杯。
小池・豊嶋・道畑 乾杯。
飲む4人。
と市川、上手からやってくる太一を見つけて。
市川 (手を振りながら、うれしそうに)太一さん!!
暗 転
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