Four Seasons 四季
関根信一

●その2●

<<<その1<<<

>>>その3>>>

第二場 夏「アルバイトの秘密」
    
夏の昼間。
弘毅がほうきを手に、お掃除の最中。
と舞台手前からニワトリが鳴く声。とっても元気に。

弘毅 わかったよ、もう起きてるって。

また鳴くニワトリ。どうやら、正面にある木の横にニワトリ小屋があるらしい。
もちろんこの小屋は見えない。

弘毅 もうこんな時間なんだから、やめてくれるかな?

渉がやってくる。

渉  こんちは。
弘毅 あれ、どうしたの?
渉  ちょっと近くまで来たから。
弘毅 あ、そう。

弘毅、掃除を続ける。

渉  ねえ。
弘毅 なに?
渉  ……そうじ?
弘毅 一応、大家さんだからね。
渉  ずっと気になってたんだけどさ。おじさんって、他に仕事してないの?
弘毅 やめて。おじさんっていうの。急に年取った気がするから。
渉  じゃあ、何て呼ぶ?
弘毅 ひろちゃん。子供の頃、ずっとそう呼んでたじゃない。ここで一緒に遊んでさ。それでいいじゃない。
渉  誰も呼んでないじゃない。
弘毅 あんたが「おじさん」なんて言うから、太一が「おじさんじゃなくておばさんよね。ねえ、おばさん?」なんて言い出すし。
渉  じゃあ、僕もおばさんって呼ぶ?
弘毅 ……。
渉  ごめんなさい。

弘毅、掃除を続ける。

渉  ねえ。
弘毅 なに?
渉  理彦、来てない?
弘毅 来てないよ。
渉  そうだよね。どこにいるか知らないかなと思って。連絡とかないよね?
弘毅 あんたんとこにないのに、僕のとこにあるわけないじゃない。
渉  そうだよね……。
弘毅 何かあったら、知らせるから。
渉  うん。
弘毅 元気だしなって。そのうち、きっと連絡あるから。

太一が登場。ビーチチェアを手にしている。、

太一 ハロー。あら、おばさん、どうもご苦労様。
弘毅 (渉に)ほらね。(太一)ちょっと……

ニワトリが鳴く。

太一 もう、うるさいっつうの。ペットっていうから、猫か犬、もしかしたら、イグアナぐらいに思ってたら、ニワトリはないでしょ。このご時世に。
弘毅 だから、他に行くとこなくてここに来てるんでしょうよ。
太一 何で毎日毎日あんなバカ鳥にたたき起こされなきゃなんないのよ。
弘毅 先に起きれば?
太一 (無視して渉に)ねえ、あんたニワトリのしめかたって知ってる? あれって地鶏系でしょ? きっと身がしまってていい味よ。
弘毅 お母さんの形見みたいなもんだって言ってたじゃない、山ちゃん。そんなしめるわけにいかないでしょ?
太一 (渉に)あんた、手術用のメスとか持ってるんじゃない? どう、解剖の実習っていうのは?
渉  医者は肉屋じゃない。
太一 ああ、もうノイローゼ。山ちゃんに文句言ってくる。
弘毅 いないよ。
太一 日曜日じゃない。
弘毅 出張だって。さっき出掛けてった。
太一 信じられない。
渉  ねえ、山下さんって引っ越してきたの? あのとき、絶対にパスとか言ってたのに。
弘毅 背に腹は替えられないっていうか。このご時世、ニワトリ飼っていいっていう物件、ほかになかったんだって。
渉  でも、同じ会社の人がドゥーにいるんじゃないの?
弘毅 豊嶋くんね。
渉  あ、そうか。こっち(氈jに越してきたんだ。あ、なるほどね。
太一 違うわよ。山ちゃんの部屋はあそこ。

とドゥーの2Fを指す。

渉  え。なんで?
太一 やっとこっちが全部埋まると思ったのに。こっちじゃなくって、こっちにするって。あんなにいやがってたのにどうしてよって聞いたらさ。僕はカミングアウトするわけにはいかないからだって。どういうことよ、こっちに住むってことは、即カミングアウトってことなわけなの? ねえ?
渉  僕に聞かれても……
太一 だからさ、ドゥーじゃニワトリ飼えないと思うわよって、私はこうなんとかヤツをこっちにひきずりこもうとしたんだけど、そしたらさ、あの女が「じゃあ、ニワトリはこの庭で飼うってことにしたら。みんなで世話すればいいのよ」って勝手に決めちゃって。
渉  ふーん。
太一 平谷くんがあんな小屋作ってさ。なんだか盛り上がっちゃって。そんなわけで交替で世話してんのよ。もう信じられない。
渉  そうなんだ。
太一 何がいいのかねえ。こっちの方が絶対に気楽なのに。わけわかんないわよ。あんな回覧板一つ回らないようなとこの何がいいのかしら。ちゃんと表札も出しちゃってるんだからさ、別に普通にしてればいいのに。なんだか。こそこそしちゃってさ。ほんと、やなかんじ。
弘毅 しょうがないって。
太一 山ちゃんって昔からそうなのよ。飲み屋とかで一緒になって盛り上がってても、私はイロモノ担当で盛り上げるだけ盛り上げて何もいいことなし。なのに山ちゃんは、いつのまにかちゃっかり若い子ゲットしてたりすんのよ。そういうヤツなのよ。きーっ!
弘毅 いいじゃないの。これで一部屋埋まったんだから。少しぐらいがまんしなきゃ。
太一 (渉に)私たちの一番の誤算はね、あいつがオンドリだったってことだったのよ。来たときはまだ小さかったのに。どんどん大きくなって、トサカはえてきちゃって。ある日突然、コケコッコーって。毎日取れたての新鮮な卵期待してたんだけどね……。
弘毅 ペットなんだから。みんなのペット。それでいいじゃないの。
太一 私、心配なの。バッシングとか始まったらどうしようって。
渉  バッシング?
太一 そうよ。私たちがゲイだろうと何だろうと、世間様はそんなこと気にしない。でもね、あのニワトリがきっかけにどう変わるかなんてわかんないじゃない。
弘毅 考えすぎだって。
太一 なら、いいんだけど。(渉に)ここ押さえると死ぬツボみたいなもの知ってるんじゃない? ちょっと教えなさいよ。
渉  そんなの知らないよ。僕、皮膚科だし。
太一 役に立たないわね。

ニワトリ鳴く。

渉  太一さん、最近、理彦見てませんか?
太一 え? 知らないわよ。一緒じゃないの?
弘毅 見ればわかるでしょ?
太一 (うれしそうに)やだ、どうしたのよ。もしかして、うまくいってないの?
渉  うれしがるのやめて。
太一 (渉に)今、どこに住んでんの彼? こないだあんなふうに飛び出してから。
渉  わかんない。この頃、連絡とれなくて……。携帯止まっちゃってるんだよね。
太一 あら、やだ。バイトは? やってたんでしょ? 何だっけ? ダーツバーの店員。
渉  うん。でも、あれも遊びみたいなもんだったからなあ。
太一 ちょっとしっかりしなさいよ。あんた何してんのよ?
渉  何、僕?
太一 ちょっとのんきすぎるんじゃない。そんなふうだから……。実はね……あ、やっぱり言えないわ。
渉  何、何なの?
太一 ああ、言っていいものかどうか悩むわね。
弘毅 もう言ってるよ。
太一 あのね、私、一昨日、見ちゃったの。
渉  どこで?
太一 二丁目。仲通り歩いてたわよ。
弘毅 そんなことだったら、もったいぶらないでさくさく話せばいいじゃない。
太一 それがさあ……ああ、やっぱり言えないわ。
弘毅 だから、もう言ってるって。何なのよ?
太一 わかったわ。思い切って見せちゃう。

太一、携帯を出して二人見せる。

弘毅 何、またそんなことしてんの? 
太一 暗いからちょっと見にくいんだけど。近藤くんでしょ?

二人、見る。

渉  うん。
弘毅 たしかに。
太一 となりにいる男は誰なのかしら?
渉  ……。
弘毅 友達?
太一 友達にしちゃ、ちょっと年上なんじゃない?
弘毅 そんな上でもないんじゃない? 落ち着いてるっていうか……?
太一 私、思うんだけど、これは色恋がらみなんじゃないかな?
弘毅 無理矢理話おもしろくしないの。
太一 だって……
弘毅 そうだよ。お父さんかもしれない。近藤くんのお父さんと仲直りして会ってるとか……
太一 二丁目で? ありえないでしょう。
渉  僕もそう思う。
太一 (渉に)現実を受け入れるのはつらいものよ。でも、これはしょうがないの。恋はねいつか終わるものなのよ。
渉  そんな……
太一 そう、「そんな」って思うでしょ。でも、しょうがないの。これは人類の歴史上逃れられないたしかなことなの。「終わりのない恋はない」。これはね、1+1が2ってことよりももっともっと明らかな法則なのよ。
渉  ……。
弘毅 いいんじゃない、元気にやってるってことがわかっただけでも。
渉  うん。
弘毅 今日はゆっくりしてきなよ。みんなで集まって飲みに行こうかって話してたんだ。
渉  二丁目?
弘毅 あ、そうじゃなくて。駅前に新しくできた居酒屋。どう?
渉  うん。

茂雄が登場。

茂雄 あれ?
渉  こんちは。
茂雄 久し振り。元気?
渉  ええ。
太一 (茂雄を見て)ちょっと、何よ、それ?
茂雄 ニワトリのえさ。昨日、やれなくて……
弘毅 ああ、もういいよ。僕やっちゃった。
茂雄 あ、悪いね。
太一 しっかりしてよね。あいつ、エサがなくなると金網キックするのよ。もううるさいんだから。よろしくよ。
茂雄 了解、了解。ねえねえ、ちょっとニュースがあるんだけど。
太一 何よ、ニュースって?
茂雄 それがさあ……もうびっくりっていうか。平谷くん、ついに恋人ゲットかも。
太一 うそ? 信じられない? 見たの?
茂雄 直接見てはいないんだけど、もうすっごいウワサ。ファンタスティックのマルさんから電話かかってきてさ。けっこう若い可愛い子らしいよ。
太一 うそ……? やるわね。
弘毅 茂雄ちゃん……
太一 あの男もついに覚悟を決めたってかんじね。いいことだわ。別れた奥さんと子供のことようやくふっ切ったのね。これはお祝いいしないと。
弘毅 お祝いって……。ひさしぶりに子供と会ったりしてるんじゃないの? だって、もう高校生なんでしょ、彼?
茂雄 そんなわざわざ二丁目で会うわけないじゃない。まちがいない。男よ、男。
太一 (渉に){ひどい」って思ってるかもしれない。でもね、こういうもんなのよ。元気出しなさい。いい、捨てる神あれば、拾う神もあるのよ。時々、この人は捨てるだけ、この人は拾うだけってえこひいきする時もあるんだけど。
弘毅 なぐさめになってないでしょ?
太一 だから元気出さなきゃ、いつまで悲しいときばかりじゃないわ。みんなで飲もう。飲んで思いっきり泣いて、中島みゆき歌って、朝になったら、きれいさっぱり忘れて立ち上がるのよ。
渉  ……。
茂雄 何? どうかしたの?
弘毅 ちょっとね。
太一 近藤くんに振られたらしいの。
茂雄 あらら、ご愁傷様。
渉  わかりました。飲みいきます。中島みゆきは歌いませんけど。
弘毅 そんな簡単にあきらめてしまっていいの? いい、だって、すっごいいい加減な情報でしょ? そんなの頼りに……
渉  いいのいいの。いつかどこかでけじめつけなきゃってずっと思ってたんだけど、なかなかできなくて。そうですよね。なんていうかどうしていいかわからなくて。もうおしまいなのかなって思うこと何度もあったんだけど。
弘毅 だから、こういうのはさ、おしまいっていうんじゃなくて、喧嘩っていうの? ここで別れてしまったら、おしまいだけど、何とかなったら、ただの喧嘩だったってことになるわけじゃない。
渉  それって、どうやって決めればいいわけ?
弘毅 それは……
太一 簡単でしょ。あんたがどうしたいかに決まってるじゃないの。
茂雄 どうしたいの?

渉  もう少し考えます。じゃあ。おじゃましました。
弘毅 ちょっと待って……。

渉、出ていく。

太一 あんたのせいよ。
茂雄 何よ、自分だって。
太一 あんたは人の心のデリケートな部分に対してものすごく無神経よ。だから、帰っちゃったんじゃない。
茂雄 その言葉そっくりそのままお返しするわ。何が中島みゆきよ。無理矢理泣かしてどうすんの? 今の子は、そんなもの聞かないの。
太一 みゆきは不滅よ。世界遺産よ。
茂雄 余計なこと言い過ぎよ、あんた。
太一 でも、言いたくなるのよね。
茂雄 そうなのよね。
太一 余計なことだってわかってるんだけどね。私、昔こんなこと言われたら、何よ、ほっといてちょうだい!って怒ってわ。
弘毅 怒るくらいだったらね。
茂雄 この頃の若い子ってそう?
弘毅 あの子はやや特別かもしれない。
太一 それにしても、平谷くんがねえ。
弘毅 今度は続くといいね。
茂雄 あのさ、その話なんだけど、ちょっと続報があって……
太一 何よ、続報って?
茂雄 どうやら、夕べ、お持ち帰りしてるらしいの。
二人 うそ?
太一 何でそれを早く言わないのよ。
茂雄 思いやりよ。
弘毅 ほんとなの? 見たの?
茂雄 うん、見た。1時過ぎに銭湯から帰ってきたとき。
太一 やだ、あんたまだハッテン銭湯行ってるの?
茂雄 そうじゃなくて、すぐそこのやつ。コンビニ寄って、外出たら、二人で前歩いてて。あれ、平谷くんだと思ったんだけど、なんだか声かけにくくって。
太一 相手はどんな?
茂雄 わかんない。でも、若い子だったと思う。
太一 あらー。
茂雄 声かけにくくって、なんとなく距離キープしながら、歩いてたら、二人で部屋に入ってった。

三人、なんとなく平谷の部屋を見てしまう。

太一 じゃあ、あそこにいるわけね、二人で。
茂雄 うん。

部屋を見ている三人。
間。

弘毅 やめよう、見つめるの。
太一 そうね。いくら見ても透視とかできないもんね。
茂雄 何言ってんのよ?

三人、ちらばる。
と、下手から、平谷がやってくる。微妙に起きたばっかりなかんじ。

茂雄 あ……
平谷 あ……
太一 こんにちは。
平谷 何、こんな早くからみんな集まって。
太一 早くないです、もうお昼はとっくに回ってます。
平谷 寝過ごしちゃって。今日のニワトリ当番、僕でしょ?
弘毅 あ、エサなら、さっきやっちゃた。
平谷 わあ、ごめんね。
弘毅 いいの、いいの。あのさ、思うんだけど、ニワトリ当番って、必要なのかな? だって、エサやるだけだし。だったら、僕、一人でできるよ。
太一 ダメダメ。これはみんなで飼ってるニワトリなんだから。どんなことがあろうと、当番はちゃんと守るのよ。わかってる、平谷さん? どんなことがあろうとよ?
平谷 わかってる。
太一 どんなことがあったの?
平谷 え? だから、寝過ごして。
茂雄 どうして寝過ごしてたの?
平谷 どうしてって……昨日、遅くってさ。
茂雄 なるほどね。了解。
平谷 何、どうかした?
太一 いいのよ、何でもない。
茂雄 がんばってね!
平谷 何よ、どうしたの?
太一 何でもない、何でもない。

茂雄と太一、二人でベンチに。

平谷 気持ち悪いな。(弘毅に)あのさ、ちょっと話があって。
弘毅 話? 何?

聞き耳を立てる茂雄と太一。

平谷 (茂雄に)部屋、まだ空いてるよね?
茂雄 うん。マルさんが引っ越して来るって話、なしになったからね。何、新人? やったじゃない?
太一 もしかして、部屋にいる子? 何、そうなの? やだ、すごいじゃないの?
平谷 何よ、二人とも……?
太一 いいのよ、すごいじゃないの。新しい恋人ができて、しかもすぐ一緒に住もうなんて。
茂雄 自分の部屋で二人じゃなくて、ちゃんと一部屋っていうのがありがたいわ。
太一 これまでにないパターンよね。
茂雄 うん、うん。いいかんじ。
平谷 ちょっと待ってよ。何の話?
茂雄 新人って、今、部屋にいるんでしょ?
平谷 何で知ってんの?
茂雄 昨日見たのよ。
平谷 うそ、マジ?
太一 悪いことはできないわねえ。ほれ、はやく紹介しなさい。
平谷 紹介って?
太一 いるんでしょ? いいじゃないよ、もったいぶらなくって。
平谷 別にもったいぶってはいないけど……
太一 いいから見せなさいよ。
平谷 ちょっと、何か、誤解してない?
太一 いいから、いいから、悪いようにはしないから。

と下手から理彦が登場。

太一 あんた、今、どこから来たの?
平谷 どこって、僕の部屋から……
太一 何よ、あんたたちってそういうことなの?
平谷 何、そういうことって?
太一 あんたがこの頃若い子とつきあってるってそういうことなの? おめでとう!
平谷 ちょっと待ってよ。何の話?
弘毅 平谷くんに若いボーイフレンドができたらしいって、ウワサが一つ。それから、どうやら夕べその子をお持ち帰りしたらしいっていうのが、二つめ。
平谷 え、何それ?
太一 どうなの? はっきりしなさいよ。もしかして、あんたたちがつき合ってるっていうんだったら、それはそれでおめでとうだと思うし、そうじゃないならないではっきりして。真相は何なのよ?
平谷 昨日、二丁目でたまたま会って。で、ちょっと話しようかって。(理彦に)そうだよね?
理彦 うん。
太一 で、お持ち帰り?
平谷 やめてよ、その言い方。
茂雄 じゃあ、マルさんが言ってた若い子っていうのは? 他にまだいるわけ?
平谷 え? 何のこと?
太一 白状しなさい。一昨日、一緒に飲んでたんでしょ?
平谷 ああ、一昨日ね。ああ、飲んでた、飲んでた。
茂雄 誰なの? それは?
平谷 誰って……。それは、ちょっと知り合った子だよ。
茂雄 ちょっとってどう知り合うの? ネット?
平谷 だから二丁目で。
茂雄 店でナンパ? やるわねえ。
平谷 まあね……。
太一 良かった。私はまた、ウリ専で買った子連れて歩いてたのかと思ったわよ。
平谷 え?
太一 別にいいのよ。それならそれで。私は何も言わないわ。

平谷、妙に緊張している。

太一 やだ、どうしたのよ? もしかして図星?
平谷 実は……。(弘毅に)どうしよう?

弘毅、理彦を見る。

理彦 僕、別にいいですよ。はっきり言ってもらって。
弘毅 そう? (平谷に)じゃあ、どうぞ。
平谷 何、僕言うの?
弘毅 言ってよ。だって、当事者でしょ?
平谷 そんな……
太一 ちょっと何二人でごちょごちょ言ってんのよ?
茂雄 そうよ、さっさと話しなさいよ。
平谷 わかった。えーと、一昨日、一緒に飲んでた子は、ウリ専で買った子でした。
太一 やだ、そうだったの? やっぱりってかんじね。
茂雄 へえ、平谷くん、売り専なんて行くんだ。
平谷 初めて行ったんだって。何となく、ウリ専って最後の砦っていうか、いくら一人が長くっても、それだけは……って思ってたんだけどさ。
太一 そんなに難しく考えることないわよ。いいじゃない。
平谷 太一、行ったことある?
太一 私、満ち足りてるから、それなりに。
茂雄 また見栄張っちゃって。
太一 ほっといてちょうだい!
平谷 どうしようって悩むより、思い切って行ってみちゃってもいいのかなと思って。
太一 そうよ、そう! レッツ・ゴー!
平谷 で、行ってみたらさ、男の子いっぱいいて「いらっしゃいませ」って。で、何となくそこで飲んで、それから一人選んで外に出ることになってるんだけど。
太一 それで、それで?
平谷 あんまりじろじろ見るのもあれだし、微妙に正視できなかったんだけど、思い切って顔上げたら、いたんだよ、そこに。
太一 いたって、誰が?
平谷 それは……えーと……
理彦 僕。

太一・茂雄 え?
理彦 僕がいたの。新しいバイト。
太一 ちょっと、待って。それじゃ、何? あんた昨日はこの子お買い物してきたってことなの?
茂雄 平谷くん、あんた、見かけに寄らず、大胆ね。
平谷 だから、そうじゃなくて……
太一 何がそうじゃないのよ、そうに決まってるじゃないの?
平谷 だから、それは一昨日の話なんだって。
太一 ちゃんとネタは上がってんのよ、あんたが若い子連れて歩いてるっていう証拠がちゃんとあるんだから。
平谷 だから、それは別の子だって。
太一 何、二人もなの? 二日連続ってことなの? どういうことよ?
平谷 だから、参ったなあ……
弘毅 僕が頼んだの。
太一・茂雄 え?
弘毅 昨日、彼と会ったって、教えてくれて。びっくりして。で、また今度会ったら、一度来るように言ってって。こんなに、すぐ行ってくれるとは思わなかったんだけど。
平谷 早いほうがいいかなと思ってさ。
太一 じゃあ、何もしてないの?
平谷 してないって。
茂雄 一昨日も?
平谷 ……うん。飲んでしゃべってるうちに、何だか仲良くなっちゃって。大学生なんだって。就職活動の相談とか乗ってるうちに、そんなノリじゃなくなっちゃって。やっぱりやめようって。
太一 バカね。何してんのよ。
平谷 別れ際に連絡先教えようとしたらさ、そういうの禁止されてるんだって言われちゃった。はは……
太一 お仕事だからね。
茂雄 ごくろうさま。
弘毅 (平谷に)ありがとね。感謝。
太一 でも、何で、黙ってたのよ、さっき。居場所知ってたんじゃないの?
弘毅 そのまんま言っちゃっていいもんかなと思って。
茂雄 そうね、たしかに心配ね。
太一 そんな、言いふらしたりしないわよ。私、クチかたいもん。
茂雄 どのクチが言うか?
理彦 別にいいですよ。言ってくれて。内緒にしてるわけじゃないし。
弘毅 でも、渉には、話してないんでしょ、まだ?
理彦 それは、まあ。
弘毅 でも、よかった。また、ここに来てくれることなって。よろしくね。
理彦 あの、その話なんですけど。
弘毅 なに?
理彦 僕……
弘毅 あ、別にね、仕事やめなさいとかそんなこと言うつもりはないの。ただ、ここに来てくれるうれしいなと思って。こっちの部屋まだ空いたままだし。だったら、きみにいてもらった方がうれしいなって。だって、ずっと一緒に暮らしてたんじゃない。
理彦 一年間だけじゃないですか。
弘毅 それはそうだけど……
理彦 引っ越して来ないかって言われて、うれしかったです。また、僕行くとこなくなっちゃったんで。
茂雄 だったら、ここに来ればいいじゃない。
太一 帰ってくればいいじゃない。無理しないでさ。私たちもさ、何ていうの、ドゥーができてから、なんだかゲイ率低くなっちゃって、正直、淋しかったのよ。歓迎するわよ。そうだわ、みんなのパーティね。パーッとやりましょう!
理彦 それで、一つお願いがあるんですけど。
弘毅 なに?
理彦 僕、こっちじゃなくて、あっち()に住みたいんです。
弘毅 どうして?
理彦 家賃はちゃんと払います。だから……
弘毅 どうしてこっちじゃだめなの?
平谷 それは、やっぱり新しい方がいいんじゃないの? そういうことだよね?
太一 わざわざ無理することないわよ。こっち来なさいよ。みんなでニワトリ当番しましょ。
理彦 僕、そういうのが苦手なんだなと思って。だから……
太一 ちょっと待って。何、どういうことよ。何なの? 私たちが気に入らないなら、気に入らないってはっきりそう言えばいいじゃないの。
弘毅 太一……!
太一 だって、そうでしょ。この子が言ってるのはそういうことでしょ?
弘毅 いいから。(理彦に)わかった。じゃあ、引っ越しておいで。ドゥーの202号室でいいかな?
太一 ちょっとあんた、いいの、そんなんで?
弘毅 (太一に)いいって。そのかわり、こっちにも条件があるんだけど。
理彦 何ですか?
弘毅 家賃はちゃんと払ってもらう。こっちだったら、なくてもいいかなと思ってたんだけど。
太一 当然よ。
理彦 わかりました。
弘毅 それから、もう一つ。ウリ専のバイトのことなんだけど。
理彦 僕、やめる気ないですよ。
弘毅 いいよ。やってて。ただ、渉には内緒にしといてほしいんだ。
理彦 ……。
弘毅 余計なことかもしれないけど。こんなことしてるんだって、渉に言いたくってやってるんだったらやめた方がいいと思うな。内緒にしてるんじゃつまんないって思うんだったら、新しい仕事探してほしい。
理彦 ……わかりました。
弘毅 じゃ。よろしく。
太一 ちょっと……。
弘毅 引っ越しはいつ?
理彦 明日か、明後日でいいですか?
弘毅 OK。連絡ちょうだい。みんなで手伝うから。
理彦 だいじょぶです。荷物そんなにないんで。一人でできます。

理彦、退場。

平谷 これで一安心か。
太一 甘やかしすぎよ。
平谷 自分で言ったね。
弘毅 うん。
平谷 飲み屋でバイトってことにしとこうかと思って、うち合わせしてたんだけどなあ。
太一 そんなこと言ったって、バレるの時間の問題よ。私だって、目撃してるんだから。ほれ。(携帯を出して)お仕事中よ。消去(といって画像を消す)。
茂雄 いつからやってるんだって?
平谷 まだ始めたばっかりらしい。まだ二週間だって。
太一 私、引っ越し手伝わないわよ。仕事休めないから。デパガはこの時期大忙しなの。
茂雄 何、言ってんのよ。日曜だろうと何だろうと好きな時休んでるくせに。
太一 とにかく、パス。じゃあね。

太一、退場。

平谷 僕も、ちょっと無理そう。来週、期末試験だから。
弘毅 平気、平気。そうだ、昨日のアレ、お金半分出す。
平谷 いいって。
弘毅 だって、泊まりでしょ。結構、高かったんじゃないの?
茂雄 しかも、何もしてないし。してないよね。
平谷 してないって。部屋で少し飲んでから、明日みんなに会おうって言って、布団敷いてたらさ、ソファでもう眠っちゃってて。起こそうかと思ったんだけど、なんだか起こせなくって。気がついたらさ、久し振りだったんだよね。人の寝顔見るのって。そしたら、なんだか眠れなくなっちゃって。
茂雄 ほんとに見てただけ?
平谷 しつこい。疲れてるんだなと思った。何かさ、突っ張ってるとこあるんだと思う。よくわからないけど。このまんまほっとくのも心配だけど、あんまり甘やかすのもよくないような気がするな。
弘毅 わかってる。でも、なんだか、他人事じゃなくって。
平谷 そうなんだよね。
茂雄 悪い癖。
弘毅 ほんと。
茂雄 あのさ、やっぱり半分出してもらっていいかな?
弘毅 了解。あとで渡すわ。
平谷 助かるわ。じゃ、7時に駅前ということで。
弘毅 うん。
平谷 じゃ。

平谷、退場。

茂雄 ウリ専か? ちょっとびっくり。
弘毅 ま、やってみたい年頃よね。わかる気がする。
茂雄 思い出してる?
弘毅 そっちこそ?
茂雄 どのくらいやってたんだっけ?
弘毅 3週間? 店のママに言われてやめたんだよね「あんた、こういう商売向いてないわよ」って。今じゃ、そんなこと言わせない。
茂雄 もう売ろうたって、売れないでしょ?
弘毅 わかんないよ。
茂雄 だめだめ。ねえ……
弘毅 ねえ、あのとき、僕、あんなことしなかったら、僕たち、もっと続いてんだろうかね?
茂雄 どうだろう? 別れることにしたのは、もっと他の理由だったんじゃない?
弘毅 そうだったっけ?
茂雄 もう忘れたけど。とにかく、部屋が一つうまってよかったと。あとはよろしくね。
弘毅 うん。
茂雄 じゃ、あとで。

茂雄、退場。

暗 転 

 *      *      * 

第三場 秋「フリマは終わった」
    
秋の午後。夕方近く。
誰もいない庭。
そこへ、下手から小池と市川がやってくる。
二人とも、紙袋に荷物をいっぱい入れている。

小池 ごめんなさい、ちょっと一休み。
市川 だいじょぶですか? 私、持ちましょうか?
小池 いいの、いいの。それにしてもすごい人だったわねえ。
市川 フリーマーケットって、もっとこう和やかなのんきなものイメージしてたんですけど、けっこう真剣っていうか。
小池 でも、いっぱい売れてよかったわ。しまい込んでたもの片づいて大助かり。
市川 でも、いろいろ買っちゃったから、同じかも。
小池 やっぱり行ってよかったわねえ。楽しかった。
市川 いいですよね。こういうふうにみんなで何かするのって。
小池 おじゃまじゃなかったのかしら? だって、もともとはあっちのみなさんだけっていうあれだったんでしょ?
市川 でも、誘ってくれたし。
小池 それはそうだけど、お断りするのがスジかなって。そういうお誘いのしかたってあるじゃない?
市川 考えすぎですよ。いいじゃないですか、素敵なお隣さんがいて、ラッキーだと思わなくっちゃ。
小池 そうねえ。でも、やっぱり、あの人たちってみんな、あれなんでしょ?
市川 やめましょう、あれなんて言い方。
小池 でも……
市川 さ、行きましょう。今日はお疲れさまでした。

二人、上手に退場。
しばらくの間。
茂雄と平谷が登場。大きな収納ケースを二人で抱えている。
彼らが手にしているのは、今日のフリマの売れ残りの品物。

茂雄 ストップ、ここで一休み。
平谷 もう少しだから、持ってっちゃおうよ。
茂雄 あんたねえ、そっち側だから、そんなにさくさくと歩けるんでしょ。後歩きしてる私の身にもなんなさいよ。
平谷 しょうがないじゃない、そこ狭いんだから。横になったら通れないじゃない。
茂雄 とにかく一休みよ、一休み。

二人、荷物を置いて、座り込む。
弘毅が登場。同じく手に大荷物。

弘毅 何してんの? 早くかたづけちゃおうよ。。
茂雄 わかってるわよ。
弘毅 ほれ、早くしなよ。
茂雄 何よ、怒ることないでしょ。
弘毅 怒ってないじゃない。いいから、早くしよ。日が暮れちゃう。
平谷 よし、じゃ、行こうか。
茂雄 別にいいじゃない。もう終わったんだから。のんびりしましょう。

弘毅も、腰を下ろす。

平谷 どうしたの?
弘毅 僕も一休みする。
平谷 あのさ、さっさと片づけて、みんなで打ち上げって、そういう話になってたでしょ?
弘毅 ねえ、やめない、打ち上げ。もう、このまんま解散ってことで。
平谷 じゃあ、何のために、フリマ行ったかわかんないじゃない。
弘毅 いいじゃないの、盛大に売ってきたんだから、もうフリマの目的は十分果たしてるんじゃないの?
平谷 儲かったお金でみんなで飲もうって。そういう企画でしょ。
弘毅 もういいからさ、みんなで山分けしておしまいっていうのはどう? もうそれでいいんじゃないの?
平谷 何よ、それ? だって、太一たちだってもう来るでしょ、レンタカー返したら。市川さんと小池さんだって、楽しみにしてるんじゃないの?
弘毅 わかった。じゃあ、みんなでやって。僕はパス。
平谷 (茂雄に)ちょっと、何とかしてよ?
茂雄 何で、僕に振るわけ?
平谷 さっき、もめてたじゃない。あれからだよ、おかしいの。
茂雄 まったくもう。いつまでも根に持つ女ね。
弘毅 聞こえてるんですけど。
茂雄 聞こえるように言いました。だから、悪かったって言ってるじゃない。まだ、許してもらえないわけ?
弘毅 許すとか許さないとかって問題じゃないの。僕はただショックだったってこと。それだけ。
茂雄 だったら、どうすればいいのよ。
弘毅 だから、ほっといてよ。
茂雄 もう……。

太一と渉が登場。

太一 お疲れ。
渉  あれ、何してんの?
平谷 それがさあ……
茂雄 ちょっと一休み。車どうした?
渉  返却無事終了。領収書。

と領収書を平谷に渡す。

平谷 了解。じゃ、これも経費でワリカンね。
渉  でも、すごい儲かったよね、あんなに売れるとは思わなかった。
平谷 甘いな。となりすごかったじゃない。あれに比べたら、うちなんて、全然だって。
渉  そうかなあ?
平谷 ほんとうはもう少しいくかと思ってたんだけどなあ……。

平谷、太一と弘毅を見る。

太一 あら、けっこういいセン行ったと思うわよ。私たちって、商売の才能あると思うの。
渉  たしかに、太一さん、すごい呼び込みしてたよね。アメ横かと思った。
太一 失礼ね。私は、看板娘として、にっこりほほえんでただけよ。
茂雄 あんた、職場でもあんななの? 老舗デパートとしてクレーム来たりしないわけ? 品がないって。
太一 来るわけないでしょ? 私の接客は完璧にノーブルよ。
茂雄 猫かぶってるのね。
太一 かぶってません。
平谷 はいはい、わかったから。それよりもさ、これどうする? こんなに売れ残っちゃって。

弘毅 出した人が持って帰ればいいんじゃないの?
茂雄 また、元のとこに。やだな、せっかく引っ張り出したのに。弘毅んとこで、まとめてあずかってくれない? 次のフリマまで。
弘毅 やだ、何でよ?
太一 そうね、それがいいかも。
平谷 じゃ、荷物運びがてら、相庭さんとこに移動。そのまま打ち上げに流れると。(渉に)じゃ、行こうか。
渉  うん。

弘毅以外の全員、荷物を持って、上手に向かう。

弘毅 ちょっと待って。
茂雄 いいじゃないの、ほら、行くよ。
弘毅 ねえ、根本的な問題が解決してないと思うんだけど。
茂雄 何よ、根本的な問題って?
弘毅 これってさ、売れ残ったものでしょ? 売れ残ったのには、理由があると思うのね。それをまたしまって、次回までストックって意味ないんじゃないかと思うんだよね。
平谷 あ、そうか。
渉  うん、それは言えてる。
弘毅 はい、じゃ。ここで整理します。ほら、こっちに持ってきて。
太一 いいじゃないよ、早く片づけて、飲みましょう。もうじき日が暮れるわよ。
平谷 たしかに、そうだよね。よし、じゃ、さっさと片づけよう。

みんな、運びかけた荷物をまた中央に持ってくる。

太一 片づけるってどうすんのよ?
弘毅 一つずつチェック。
太一 やだ、めんどくさい。
平谷 いいから、やっちゃおう。じゃ、まずこれから。これは誰の?

平谷、一つの収納ケースを開ける。

太一 はーい、私でーす。
平谷 これ全部?
太一 これでも減ったんだって。最初はこれ3つだったんだから。
茂雄 ケースはどうしたの?
太一 あ、売っちゃったのかも?
茂雄 かもって何よ? そんなに曖昧?
太一 いいじゃないの? 入れるモノないんだから、箱だけあってもしょうがないでしょ?
平谷 これ何よ?

平谷、ケースからど派手な衣装の数々を取り出す。

渉  うわ、すごいなあ。
太一 私のドレス。
平谷 これは売れないわ。
太一 ちょっとどういうことよ。ちゃんとしてるのよ。結構高かったんだから。
弘毅 (一つを手にとって)やだ、これも売ろうとしてたの?
茂雄 これ私たち作ったやつじゃない。モー娘。の衣装。
太一 いいじゃない、もう着ないんだから。
茂雄 ちょっと待ちなさいよ。これ、お揃いで作ったんでしょ? あんたが売っちゃったら、もうできないじゃない。なんで勝手にそういうことするのよ。信じられないわね。
太一 ああ、よかったじゃない、売れなかったんだから。あんた、持ってく? そんなに大事なら。
茂雄 いいわよ。自分の持ってるから。
太一 セットにしたら売れたかもね。
平谷 どうだろう?(ドレスを手に)このサイズでモー娘。やろうっていう人はそんなにいないんじゃないかな?
太一 (取り上げて)ほっといてちょうだい!
平谷 あと何、これは?

平谷、マンガを取り出す。

渉  「ガラスの仮面」? すごい、全巻そろってる。
太一 オカマのバイブルよ。
平谷 何で売れなかったの?
太一 それは売れなかったっていうか、売らなかったっていうか……
茂雄 あんた……!
太一 客足が途絶えた暇な時間に読み始めちゃったのよ。一巻から。そしたら、止まらなくなっちゃって。「たけくらべ」まで読んだんだけど、やっぱり「二人の王女」のところ読みたくなって、久し振りに。
弘毅 アルディスとオリゲルド。
太一 皇太后ハルドラ! 「ロザリオを授けましょう」
弘毅 「おばあさま!」

二人で盛り上がっている。

平谷 売り惜しむなら、なんでわざわざ持ってくわけ?
太一 だから、これ、うちに大きいのがワンセットあるのね。これ文庫版だから。
平谷 何で二つも持ってるわけ?
茂雄 じゃあ、よかったんじゃない、売っちゃっても。
太一 そうなんだけど、何て言うか。止まらなくなっちゃって。
渉  そういえば、後半ずっと静かだったもんね。
太一 だから、これ今度は売ってもいいんだわ。
平谷 じゃあ、今日、売っちゃってもよかったんじゃないの?
太一 いいじゃない。だから、これは、次回までとっといてもだいじょぶ。必ず売れるから。
茂雄 ほんとにダイジョブなの?
太一 ダイジョブ、ダイジョブ。これからじっくり読んで見切りつけるから。
平谷 はーい、じゃ次。これは誰?

平谷、セーターを取り出す。

茂雄 僕の。
渉  何で売れなかったの?
太一 やだ、手編みだったりする?
弘毅 違います。
渉・太一  へ?
平谷 もしかして、これって、相庭さんが茂雄ちゃんにあげたもんだったとか?
弘毅 ねえ、茂雄ちゃん、どうして、これがフリマに出ちゃうわけ?
茂雄 だって、もう着ないし。
弘毅 ていうか、一度も着たことないじゃない。
茂雄 趣味じゃないの。
弘毅 あげたときは、わあ、ありがとう!って、すごい喜んだじゃない。
茂雄 そうだったっけ?
弘毅 もういいよ。
茂雄 じゃあ、いいじゃない。売っちゃったって。
弘毅 だからさあ。
茂雄 (みんなに)セーターってさ、かさばるんだよね。毎年、衣替えの時に出すんだけど、結局着ないで、またしまって。何かの本で読んだんだけど、それを三年くり返したら、もうその服は捨てていいんだって。
太一 たしかに、正論ね。
茂雄 でしょ? 捨てるよりはいいじゃない。売るんだから。また誰かに着てもらえるんだから。そうじゃないかな?
平谷 まあ、そうだよね。
茂雄 なのに、弘毅、これは非売品なんですなんて。もう少しで売れるとこだったのに。
弘毅 あんなおじさんに着られるなんて納得できなかったの。誕生日プレゼントでもらったもの、そう簡単に売れるわけ? ねえ?
茂雄 そんなこと言ってたら、フリマなんかできないって。結婚式の引き出物とかお葬式の香典返しとか、そういうもらったんだけど、使い道がないものっていうのを、有効利用するために循環させる、フリマってそういうもんなんじゃないの?
太一 香典返しは、ちょっとどうかと思う。
渉  あ、でも、そういえば、小池さん持ってきたバスタオル、のし紙に蓮の花が書いてあった。
茂雄 でしょ? そういうもんなのよ。いいじゃない、もう昔のことなんだからさ。
弘毅 それはわかってるけど。じゃあ、何で、茂雄ちゃん、あの目覚まし、自分で買ったの?
太一 何、目覚ましって?
弘毅 これ。

と箱から古い目覚まし時計を出す。

茂雄 それは……
弘毅 (太一と渉と平谷に)これね、二人で住み始めたとき、茂雄ちゃんが買ってきた目覚ましなわけ。別れるとき、茂雄ちゃん、出てったから、自動的に僕のとこに残って。
茂雄 何で売るわけ?
弘毅 もう壊れてるんだって。
平谷 ねえ、壊れてるもの売るのはよくないと思うよ。
渉  僕もそう思う。
弘毅 壊れてるから売れ残ってるんじゃないよね、これ、茂雄ちゃんが買ったんだもん、自分で。
太一 いくら?
弘毅 五十円。
みんな やすー。
茂雄 ちょっとみんな待って。これは、もともと僕が買ったものなの。たしかあの頃で3千円くらいしたんだと思う。それを、今、五十円で買って、何でぶーぶー文句言われなきゃならないわけ?
弘毅 どうして、僕があげたものは、すぐ売っちゃうくせに、自分が買ったものは、大事にするわけ? ねえ? これって納得いかなくない?
平谷 ま、理屈はわからないでもないけど。
太一 どっちもどっちってかんじよね。はっきり言って。
渉  うん。
弘毅 そんなことないって。どう考えたって、茂雄ちゃんの方がクールすぎるでしょ?
茂雄 いいじゃない、もう昔のことなんだから。
渉  ねえ、フリマのコンセプト、もう一回考えてみない?
平谷 そうだね。いるものは売らない。これが大原則でしょう。
弘毅 だって、いるようないらないような微妙なもんなんだもん。
茂雄 そうそう。
渉  わかってないなあ。
平谷 うん。
太一 あんたたちさ。余計なお世話かもしれないけど、まだ、いろいろ引きずってるもんあるんじゃないの?
茂雄 そんなものないって。
弘毅 あるわけないでしょ?
太一 本当に?
茂雄 あるとしたら、せいぜい、このセーターと時計だけ。
弘毅 そうね。そのくらい。
平谷 じゃ、どうするの? 時計は茂雄ちゃんが買ったわけだけど、セーターは? 相庭さん、買う?
弘毅 僕は、一度人にあげたものを自分で買うほど、未練じゃないです。
茂雄 だったら、さっき売れてたのに。
弘毅 だから、何で売ろうとするわけ?
平谷 また話が戻ったよ。
渉  きりがないね。
太一 はい。じゃ、これは、私が預かります。それでどう?

茂雄 いいの、あんた?
太一 いいわよ。相庭さんもそれでいい?
弘毅 いいけど、それ着る気?
太一 着ないわよ。とっとくの。私のドレスやなんかと一緒に。
弘毅 どこに置くの? 太一の部屋?
太一 違うわよ。
弘毅 僕のとこはいやだよ。悪いけど。
太一 埋めるのよ。

全員 は?
太一 この木の下に穴掘って、埋めるの。思い出の品物を。それでどう?
渉  タイムカプセルみたいだね。
平谷 ていうか、お墓?
太一 そうじゃなくて。いいじゃない、どこにあっても邪魔だけど、でも捨てるのは惜しい、そんなもの、私もいっぱい持ってるのよね。もう聞かないドーナツ盤のレコードとか、修学旅行のおみやげとか。そういうのみんなで集めて、埋めちゃうの。
茂雄 あんたまた、変なこと思いついたわね。
渉  埋めたら、それっきりになっちゃうんじゃないの?
茂雄 ていうか、それって、限りなく「捨てたこと」に近いんじゃない?
太一 いいのよ、時々思い出せば。この木を見て。ああ、この下にあれが埋まってるんだなあって。


風が吹いて、木の梢を揺らす。

太一 どう。このアイデア?
弘毅 いいかもしれないね。
平谷 ちゃんとした箱作ろうか? 水が入らないようなやつ。
茂雄 何十年経っても、そのまんま保存されてたりするの?
弘毅 モー娘。のドレスとセーターと時計と。
太一 ガラスの仮面と。
平谷 これもいいかな?

平谷、箱の中から、本を取り出す。古ぼけた参考書。

渉  何それ?
平谷 受験の時に使った参考書。なんだか捨てられなくって、授業に使えるかと思ったんだけど、やっぱり古いからさ。
茂雄 すごい、赤線がいっぱい。
平谷 ブックオフでも引きとってくれないんだよね。
弘毅 フリマでも売れなかった。
平谷 ううん、売らなかった。なんだかね。

弘毅 よし、じゃ、これも入れよう。
茂雄 うん。
太一 やったわね、もしかして、これで全部片づくってこと?
平谷 太一、ナイスアイディア!
太一 ねえねえ、この企画のすごいところはさ、掘り出すときにイベントになるってことよ。どう、すごくない?
茂雄 たしかにそうかも。
弘毅 何十年も経って、またみんなで掘り出すんだ。
平谷 いいねえ。
太一 あ、でも、全員はそろわなかったりすんのよ。
茂雄 やめてよ。
平谷 じゃあ、さっさと掘り出さないと、ねえ、決めない? 何年後って? 五年、十年?
弘毅 それもなんだかつまんないね?
太一 そんなこと言ってたら、みんな死んじゃうわよ。掘り出す前に。
茂雄 それもいいんじゃない?
平谷 え?
茂雄 何十年か経ってさ、誰かがたまたま掘り出すの。そうすると、中から、出てくるわけよ。
弘毅 ドレスとセーターと時計と参考書。
太一 それから、「ガラスの仮面」。

笑う一同。

茂雄 これって、謎なんじゃないの? 遺跡みたいに。
平谷 ていうか、わけわかんないよね。
弘毅 おもしろそう。やろうやろう、何百年も持つような、箱作って、これ入れて、埋めよう。
平谷 うん。
太一 決定!!


少し離れて、渉が見ている。
空は夕焼けに染まっている。

弘毅 (渉に)「馬鹿なことしてるな」って思ってる?
渉  ううん、思ってない。
太一 ダメよ、一緒になってばかばかしいと思わなきゃ。
茂雄 ダメだからね、ここにコレが埋まってるのは、秘密なんだから。勝手に掘るのも禁止。
弘毅 (茂雄の腕時計を見て)やだ、もうこんな時間。よーし、飲もう、飲もう。フリマの打ち上げをしよう。
平谷 よかった。早くしないと。市川さんたち待ってるかもしれない。
太一 じゃ、行きましょう。
茂雄 (荷物を見て)これどうしようか?
弘毅 いいよ、どうせ埋めるんだから、ここにおいておこう。
太一 そうね。

みんな上手に向かう。渉は残っている。

平谷 素材は何がいいかな? 金属かガラス?
太一 瀬戸物は? 梅干し漬けた瓶が余ってるんだけど。
弘毅 入りきらないんじゃない?
茂雄 やめてよ、もっときれいなのにして。
太一 そうね、ちょっと「骨壺」っぽいわね。

上手から、理彦がやってくる。

太一 ハロー。
弘毅 ねえねえ、これから、フリマの打ち上げ、やるんだけど、来ない?
理彦 あ、僕……
平谷 いいから、いいから、無礼講。
茂雄 待ってるよ!

などと言いながら、一同退場。
取り残された荷物。

理彦 (荷物を見て)何これ?
渉  フリマの売れ残り。
理彦 どうすんの?
渉  埋めるんだって。
理彦 何、それ。よくわかんない。
渉  ……僕も。

暗 転 

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