劇団フライングステージ「gaku-GAY-kai2000」上演台本
「贋作・黒蜥蜴」
江戸川乱歩原作、三島由紀夫作戯曲ヲ基ニシタ
井上梅次監督、京マチ子主演映画「黒蜥蜴」ニ拠ル
関根信一

<<<その1<<<

*******

東京タワー展望台。
展望台の隅には、売店がある。
岩瀬庄兵衛が登場。

岩 瀬 (脅迫状を読んでいる)東京タワー大展望台。うん、ここだ。ここに間違いない。遅いな黒蜥蜴。

いらいらとそのへんを歩き回る。
黒蜥蜴が登場。

黒蜥蜴 岩瀬さん、おひさしぶり。
岩 瀬 あんたには、もう二度と会いたくなかったよ。
黒蜥蜴 まあ、つれないおっしゃりよう(と言ってツネる)。
岩 瀬 アイタタタ! 早苗は無事なんだろうな。
黒蜥蜴 もちろんですとも。
岩 瀬 早く返してくれ。
黒蜥蜴 「エヂプトの星」と引き換えですわ。ちゃんと持ってきてくれたでしょうね。
岩 瀬 ああ。しかたがない。受け取るがいい。これが「エヂプトの星」だ!

エヂプト風な音楽に乗って、エヂプトっぽいドレスを着たドラァグクィーン、ジャスミンがやって来る。ピラミッドを背負っていてもいい。もしくはラクダ。

黒蜥蜴 それは「エヂプトのホッシー」でしょ。しかも、ホッシーじゃなくて、ジャスミンだし。全然違うじゃないの!
岩 瀬 畜生、見破られたか!
黒蜥蜴 アホか!

ジャスミン、不機嫌に退場。

岩 瀬 しかたがない、これが「エヂプトの星」だ。
黒蜥蜴 (受け取って)たしかに頂戴しましたわ。じゃあ、先にお引き取りを。私、後からまいりますから。
岩 瀬 一緒にエレベーターで降りればいいじゃないか。
黒蜥蜴 さあ‥‥。
岩 瀬 さては尾行がこわいんだな。
黒蜥蜴 あなたと一緒のエレベーターってとっても暑苦しそうで。
岩 瀬 なんだと! もし、今、わしがあんたに危害を加えたらどうなる?
黒蜥蜴 早苗さんの命がなくなるだけですわ。私の手下があちこちで見張ってますの。遠くのビルやヘリコプターから。さっきから窓のそばを離れないのはそのためですの。
岩 瀬 わかった。じゃ、約束はたしかだろうな。
黒蜥蜴 ええ、今夜中にお返ししますわ。
岩 瀬 じゃあ。

と言って、帰ろうとする。

黒蜥蜴 なんちゃって、返さなかったりして‥‥
岩 瀬 なんだと!

と思わず黒蜥蜴につかみかかる。
「アレーッ!」と悲鳴をあげる黒蜥蜴。岩瀬、あわてて止める。

岩 瀬 あ、何てことを。早苗はだいじょうぶだろうな。
黒蜥蜴 ドキドキしながらお待ちあそばせ。では、ごきげんよう。
岩 瀬 畜生!!

岩瀬、退場。
黒蜥蜴、売店に近づき、売店のおやじに話しかける。

黒蜥蜴 明智さん、変装したってムダよ。

と言ってヒゲを引っ張る。

売店おじ アイタタタ。
黒蜥蜴 あら、ごめんなさい。
売店おじ 乱暴な人だ。
売店おば ちょっと、うちの人に何するんですか? この人はもともとこういう顔なんですよ。 
黒蜥蜴 それは失礼しました。あの、ちょっとお願いがあるんですけど。
売店おじ 何をさしあげましょう。
黒蜥蜴 買い物じゃないの。さっきあそこで話してた男の人。あんなに「いい人」そうに見えて、実はおそろしい悪党なの。このまま下に降りたら、待ち伏せされて、私ひどい目にあいそうなんです。
売店おば それはお困りでしょう。
黒蜥蜴 あなた方助けて下さらないかしら。しばらくの間、私の替え玉になって‥‥
売店おじ お前がこんな美しいご婦人の替え玉だなんて‥‥。
売店おば ちょっと、それどういう意味よ。やらせていただきますわ。喜んで。
黒蜥蜴 じゃあ、二人で着物のとりかえっこをして、しばらく望遠鏡でも覗くふりをしていて下さるかしら。
売店おば ええ。
黒蜥蜴 ご主人にもお願いがしたいの。すみませんけど、奥さんに化けた私を、下のタクシー乗り場まで送って行って下さらない。お礼は十分しますわ。
売店おじ ええ、わかりました。
黒蜥蜴 たすかりますわ。

黒蜥蜴と売店おば、奥に引っ込む。
しばらくして、売店おばの地味な恰好をした黒蜥蜴が登場。

黒蜥蜴 じゃ、よろしくお願いしますわ。

二人エレベーターに乗って下に降りる。
そこには岩瀬がうろうろしている。
黒蜥蜴と岩瀬ぶつかる。

黒蜥蜴 あら、ごめんなさい。
岩 瀬 いや、こちらこそ。

岩瀬、黒蜥蜴を探しながら、退場。

黒蜥蜴 どうもありがとうございました。
売店おじ いや、こちらこそ。

タクシーが来て止まる。乗り込む黒蜥蜴。
見送る売店おじ。と思いきや、もう一台タクシーを止めて乗り込む。

売店おじ実ハ明智 あのタクシーを追ってくれ。(携帯で電話)小林くんか。今東京タワーから黒蜥蜴を尾行中だ。落ち合う段取りはいいね。じゃ、また後で。

明智、退場。
舞台には黒蜥蜴が登場。変装をときながら、電話をしている。

黒蜥蜴 青い亀。私よ。黒蜥蜴。‥‥いいのよ、暗号なんて。だいじょぶ誰も聞いてやしないから。ねえねえ、聞いて。エヂプトの星を手に入れたわ。ふふふ、ちょろいもんよ。でね、早く着いちゃいそうだから、ちょっと寄り道してから行くわ。‥‥失礼ね。ハッテン場じゃありません。こんな恰好でハッテンできるわけないでしょ。‥‥じゃ、港でね。頼んだわよ。

黒蜥蜴、退場。

*******

黒蜥蜴がアジトへと向かう船の内部。舞台中央に、豪華なピンク色のソファが置いてある。中に小林少年が入っているのが見える。
明智が登場。「松吉」の扮装をしている。

小林少年 先生、なんで僕がソファに入ってなきゃいけないんですか?
明 智 しょうがないだろ。僕はこうして変装したけど、君と同じくらいの背丈の乗組員がいなかったんだから。
小林少年 だったら、どこかに隠れてます。
明 智 ここが一番安全なんだ。僕の長年の経験から言っても、一番危なそうなところが実は一番安全なんだ。
小林少年 ほんとですか?
明 智 ただ、どんなことがあっても、絶対に口をきいてはいけないよ。いいね。約束だよ。
小林少年 はい、先生。約束ですね。
明 智 だから、そうやってしゃべっちゃいけないんだよ。
小林少年 今はいいじゃないですか。
明 智 うん。まあ、いいだろう。
小林少年 先生、この船はどこに向かってるんですか?
明 智 どうやら、伊豆方面らしいな。明日の朝には着くらしい。
小林少年 そこが黒蜥蜴のアジトなんですね。
明 智 おそらくはね。
小林少年 黒蜥蜴め、今度こそつかまえてやる!
明 智 じゃあ、小林くん。また、夜中に来るから。

明智、退場しようとする。

小林少年 先生!
明 智 なんだい?
小林少年 お願いがあるんですけど。
明 智 腹でも空いたか? それとも、おしっこ?
小林少年 そうじゃなくて、あの‥‥いいです。
明 智 なんだい言ってごらん? 
小林少年 ‥‥先生、僕に座ってみてくれませんか?
明 智 ‥‥。
小林少年 あ、いやならいいんです。ごめんなさい。
明 智 いやなわけないだろう。じゃあ、座るよ。
小林少年 はい。

明智、小林少年が隠れているソファに座る。

明 智 これでいいかな?
小林少年 もっと深く‥‥
明 智 こうかな?
小林少年 (感動して)先生!
明 智 あ、誰か来たようだ。絶対にしゃべっちゃだめだからね。約束だよ。
小林少年 はい!

明智、あわただしく退場。
黒蜥蜴が登場する。続いて、青い亀と雨宮。

黒蜥蜴 どういうことなの、食料が減ってるって?
青い亀 昨日の夜まではたしかに蒸した鳥が6羽あったんですよ。それが、今見てみたら、5羽しかないんでございますよ。
黒蜥蜴 誰かがつまみ食いしたんじゃないの?
雨 宮 それから、早苗さんを閉じこめた船室から、話声が聞こえるって噂が‥‥
黒蜥蜴 早苗には猿ぐつわをしてあるんでしょ?
雨 宮 そうなんです‥‥
青い亀 幽霊が出るんじゃないかって、みんなそう言ってるんでございますよ。
黒蜥蜴 そんなバカな。いいわ、早苗を呼びなさい。

黒蜥蜴、ソファに腰掛ける。

小林少年 ‥‥重い。
黒蜥蜴 何か言った、青い亀?
青い亀 いいえ、私は何も。
黒蜥蜴 あら、そう。幻聴かしら?
青い亀 それが幽霊なんでございますよ。くわばらくわばら‥‥

雨宮が早苗を連れて登場。

雨 宮 連れてきました。
黒蜥蜴 早苗さん。あなたの部屋から話し声が聞こえるっていうんだけど?
早 苗 私、猿ぐつわされてるんですもの、しゃべれるわけないじゃないですか?
黒蜥蜴 そうよね。おかしいわね。
早 苗 (バカにして)何、言ってんだか?
黒蜥蜴 早苗さん、あなた、やけに堂々としてるわね。心細くないの? 私はエヂプトの星と引き換えにあなたを返すとか言っておきながら、知らん顔して、あなたをどこかに連れて行こうとしてるのよ。
早 苗 私、信じてますもの。
黒蜥蜴 信じるって誰を?
早 苗 さあ、誰でしょう?
黒蜥蜴 (気が付いて)何て子なの。さすがトシを十歳もサバ読むだけのことはあるわ。あなたが言ってるのは明智のことね。
早 苗 ご想像にお任せしますわ。
黒蜥蜴 雨宮、この娘をさっさと連れてお行き。決して目を離すんじゃないよ。
雨 宮 はい。
黒蜥蜴 青い亀、お前は船内を探して明智を見つけだすんだよ。どこかにきっと隠れてるはずだ。いいね。
青い亀 はい。

雨宮、早苗、青い亀、退場。

黒蜥蜴、ソファに腰を下ろす。

小林少年 ‥‥苦しい。
黒蜥蜴 (ハッとして立ち上がり)いやだわ、また幻聴?って、違うわ。この中から聞こえてるじゃない。
小林少年 ‥‥。
黒蜥蜴 (ソファに向かって)そこにいるのは、明智さんね。そうでしょ? 白状なさい。
小林少年 ‥‥。
黒蜥蜴 明智さん?

と、どこからか明智の声が聞こえる。

明 智 そうだよ。僕だ。明智小五郎だ。
黒蜥蜴 こんなところで何してるの?
明 智 君を東京タワーからずっと尾行して、こっそりこの船に乗り込んだのさ。
黒蜥蜴 じゃ、あのオヤジはやっぱりあなただったのね?
明 智 少し疲れたんで、ここで休んでるのさ。このソファはさすがによくできてる。でも、やっぱり少し窮屈だな。よし、出るとしようか?
黒蜥蜴 あら、ダメよ。まわりはみんな乱暴者の私の手下ばかり。すぐにつかまってしまうわ。
明 智 僕のことを心配してくれるのかい?
黒蜥蜴 当然じゃないの、大事なライバルですもの。

黒蜥蜴、部屋の隅からロープを取り出して、ソファ(小林少年)をぐるぐる巻きにする。

明 智 あ、何をしているんだい?
黒蜥蜴 この船は揺れるでしょ。こうしておいた方が安心なのよ。
明 智 優しいんだね。見直したよ。
黒蜥蜴 まあ、失礼ね。

黒蜥蜴、合図をすると、雨宮と青い亀がやってくる。

黒蜥蜴 明智をつかまえたわ。さあ、水葬の用意をおし!
雨宮・青い亀 はい。

雨宮と青い亀、退場。

明 智 水葬だって!
黒蜥蜴 そうよ。海の底にソファの形をしたあなたのお墓ができるの。日本一の名探偵明智小五郎もこれで最後ね。
明 智 ‥‥。
黒蜥蜴 何か言ったらどうなの、明智さん? かわいそうに、恐ろしさのあまり口がきけないのね。いいわ、じゃあ、本当のことを聞かせてあげる。どうせ、お前の耳には海水が流れ込んで、どんな言葉も洗い流してくれるだろうから。私はお前を憎んでるのよ。ホンモノの男、ホンモノの探偵ってことを、誇りにしてるお前を。なぜって、私はニセモノだから。お前はいつか、私のことを女の中の女と誉めてくれたね。でも、それは大間違いさ。だって、私はニセモノなんだから。そう、私は、僕は、本当は男なんだよ。こうしてどんなにきらびやかに着飾ってもニセモノはニセモノ。だから、決めたんだ、お前のようなホンモノを世界中から一つ残らず抹殺してやろうって。だからだよ、だから、お前を殺すんだ。そう、愛してるから。殺してしまいたいほど憎いお前を愛してしまったから殺すんだ。聞こえるかい、このニセモノの胸の鼓動が。お前を殺そうという今になって、こんなにドキドキしている。さようなら、日本一の名探偵。さようなら、男の中の男、明智小五郎。さようなら。

黒蜥蜴、ソファに口づけする。

黒蜥蜴 (きっぱりと)さあ、ソファを海に投げ入れるんだ!

青い亀と雨宮、登場して、ソファを上手に運ぶ。黒蜥蜴も退場。空の舞台。
やがて、ソファが海に落ちる大きな水音と小林少年の「先生!」という声が聞こえる。
松吉=明智が登場する。続いて、黒蜥蜴が戻ってくる。

黒蜥蜴 おや、松吉、非常呼集が聞こえなかったのかい?
松 吉 申し訳ありません。つい船室で寝込んでしまいました。
黒蜥蜴 お前だけは明智小五郎の水葬に立ち会わなかった。これからは、お前だけが味方だよ。
松 吉 どういうことでしょう?
黒蜥蜴 世の中にはもう奇跡が起こらなくなったんだ。まあ、いい。さあ、アジトへ急ぐとしよう。赤蜥蜴様がお待ちかねだよ。
松 吉 へえ。

二人退場。

*******

黒蜥蜴のアジト。
黒蜥蜴が、早苗、雨宮、青い亀、松吉とともに登場。

黒蜥蜴 ただいま。
赤蜥蜴 おや、お帰り。
黒蜥蜴 お母様、お約束のエヂプトの星よ。

エヂプトの星を手渡す。

赤蜥蜴 おお、これじゃ、これじゃよ。エヂプトの星。
黒蜥蜴 早速、お母様のコレクションに加えるといいわ。
赤蜥蜴 もちろんだとも。これ、台座!

赤蜥蜴の声とともに、豪華な花の形をした台座が現れる。

早 苗 何なの、あれは?
赤蜥蜴 世界中の美しい宝石を集めて飾るための台座じゃよ。エヂプトの星が入ってこれで完璧じゃ。どうじゃ、美しいじゃろう?
青い亀・雨宮 はい、赤蜥蜴さま。
黒蜥蜴 そうかしら?
赤蜥蜴 お前の気持ちの悪いコレクションより何百倍もイカすじゃろう。
黒蜥蜴 失礼なこと言わないでちょうだい。
早 苗 気持ち悪いコレクション?
黒蜥蜴 ほっといてちょうだい。さあ、ごらんなさい!

華麗な音楽と共に、背景の幕が開くと、美しい剥製の男女が現れる。

赤蜥蜴 ああ、やだやだ、私は引っ込むことにするよ。これ台座、お前もおいで。

赤蜥蜴と台座、そして青い亀、退場。

早 苗 何なの、これは? お人形?
黒蜥蜴 近寄って、よく見てごらんなさい。

早苗、近くでよく見てみる。

黒蜥蜴 ねえ、産毛が生えているでしょう。そんな人形ってあるかしら?
早 苗 (気が付いて)こ、これは!!
黒蜥蜴 そうよ、これはね、世界中の美男美女の剥製なのよ。
早 苗 ウソ!!
黒蜥蜴 ウソなもんですか。だけど、私はにせもので美しいものしか集めない。ごらんなさい。このマッチョ。なんてたくましいのかしら。でも、中身は女よ。

黒蜥蜴、剥製にやさしく触れる。

マッチョ うふん。
早 苗 しゃべった! 剥製じゃないの?
黒蜥蜴 機械仕掛けなのよ。やってごらんなさい。

繰り返す早苗。応えるマッチョ。

早 苗 恐ろしいわ!
黒蜥蜴 (別の美女の剥製をさして)こっちは、見てすぐにわかるわね。女装なの。まあ、バレバレね。まだまだあるのよ。さあ、ごらんなさい。

黒蜥蜴、客席に向かって合図すると、客席がいっせいに明るくなる。
早苗、驚く。

早 苗 まあ、こんなにたくさん。なんてことでしょう!! これも、みんなニセモノなの?
黒蜥蜴 そうよ。
早 苗 でも、なんてきれいなんでしょう。
黒蜥蜴 もうじき、あなたも仲間入りよ。さあ、檻に入ってもらうわ。さあ‥‥

黒蜥蜴、早苗を檻に入れようとする。
が、雨宮が黒蜥蜴を突き飛ばして、逆に檻に入れ、鍵をかける。

黒蜥蜴 雨宮、何をするの!
雨 宮 (早苗に)さあ、行こう!
早 苗 でも‥‥

そこへ、松吉が登場。雨宮に膝蹴りをくらわして、鍵を奪い取る。

黒蜥蜴 松吉!

松吉、黒蜥蜴を檻から出す。

黒蜥蜴 二人とも、閉じこめておしまい。
松 吉 へえ。

松吉、早苗と雨宮を檻に入れ、鍵をかける。

黒蜥蜴 計画を変更するわ。二人の愛の像をつくることにしよう。雨宮、覚悟するんだね。早苗さんも。松吉、ありがとう。お前にも爬虫類の位を授けよう。黄色いワニっていうのはどう?
松 吉 ありがとうございます、黒蜥蜴さま。

黒蜥蜴と松吉、退場。
檻の中の二人。

早 苗 ごめんなさいね、私のために。
雨 宮 お前のためなんかじゃない。僕は自分のためにやったんだ。人形になれば、一生あの人にかわいがってもらえる。
早 苗 何、それ?
雨 宮 一緒に死ぬんだ。
早 苗 いやよ、そんなの。
雨 宮 まったく、ブルジョア娘はわがままだな。いいから、一緒に人形になるんだ。
早 苗 私、ブルジョア娘なんかじゃないわ。
雨 宮 なんだって?
早 苗 ニセモノなの。
雨 宮 そうだ。黒蜥蜴さまは言ってた、あの早苗はニセモノだって。ニセモノのおっぱいニセモノの顔、ニセモノの設定年齢。
早 苗 まあ、それもそうなんだけど。私はもっと根本的にニセモノなのね。これバイトなの。渋谷で明智さんにナンパされて、早苗さんの身代わりになってくれって。ちょうど退屈してたから引き受けたのよ。でも、いやよ。人形になるのなんて。(叫ぶ)ちょっと黒蜥蜴! 私はニセモノの早苗なのよ、早くここから出しなさい!!
黒蜥蜴の声 知ってるわよ、そんなこと。いいから、おとなしくしてなさい!
早 苗 おとなしくなんかするもんですか。そうだ、雨宮さん、踊りましょう。
雨 宮 え?
早 苗 踊って踊って大騒ぎするのよ。
雨 宮 踊るって、こんな檻の中で?
早 苗 檻なんて関係ないわ。さあ、踊りましょう!

突然、音楽が流れ出す。
早苗(ニセ)と雨宮、檻からいつの間にか出て踊り出す。剥製の男女も踊る。いつの間にか青い亀も参加。
踊り終わって、みんな去っていく。二人はまた檻の中。

雨 宮 (気が付いて)ああ、なんで檻の中に戻ってしまったんだ。逃げてしまえばよかった。
早 苗 死にたかったんじゃないの?
雨 宮 (ハッとして)あ、そうだった。どうしたんだろう?
早 苗 心配することないわ。だって、私たち、いつでも外になんて出られるんですもの。
雨 宮 そうだ。また踊ればいいんだ。
早 苗 そうよ。
雨 宮 君って、すごい女の子だね。
早 苗 あんたのダンスもイカしてたわ。

そこへ、黒蜥蜴が登場。新聞を手にしている。

黒蜥蜴 この新聞はどういうこと?「岩瀬邸令嬢、早苗さん。無事帰還」って。お前はいったい何者なの?
早 苗 ニセモノの早苗よ。
黒蜥蜴 なんですって?
早 苗 どう、びっくりした?
黒蜥蜴 何胸張ってるの? ニセモノならニセモノらしくしたらどうなの? もっと控えめに。
早 苗 何言ってんだか?

そこへ青い亀が松吉を連れて登場。

黒蜥蜴 どうしたの、青い亀?
青い亀 松吉が、手下どもをみんなやっつけてしまったんでございますよ。私にまで手を出そうとするもんですから、逆にとっちめてやりました。ふん、なめたマネをしておくれだよ(と小突く)。
黒蜥蜴 黄色いワニ、お前まで私を裏切るのかい?
松 吉 私はいつも黒蜥蜴様の忠実なしもべでございます。
青い亀 またいい加減なことを。黒蜥蜴様、この松吉はニセモノでございますよ。
黒蜥蜴 なんですって、本当なの、黄色いワニ?
松 吉 とんでもございません。みんなウソっぱちでございます。フフフ。もう、いいだろう。そろそろ、白状するとしようか。

松吉、変装を解いていく。と現れたのは、明智小五郎。

黒蜥蜴 明智。生きていたのね。
明 智 ああ。あのソファに隠れていたのは、小林くんだよ。
黒蜥蜴 じゃあ、お前の身代わりに?
小林少年 (登場して)先生はソファにたくさん浮き袋を入れておいてくれたんだ。僕を見殺しにするわけないだろう。
明 智 さあ、観念したらどうだ。黒蜥蜴!
黒蜥蜴 やるわね、明智。今度こそ私の負けね。(うなだれる)と思いきや、さあ、手をあげてパラパラを踊るのよ。
明 智 撃てるものなら撃ってみろ。
黒蜥蜴 さあ、もう一度死ぬがいい!

黒蜥蜴、引き金を引く。カチッという乾いた音。

黒蜥蜴 どうしたの? あ、これはおもちゃのピストルじゃないの。
明 智 さっきすりかえておいたのさ。(ピストルを出して)君の大好きなニセモノにね。さあ、無駄な抵抗はやめるんだ。

黒蜥蜴、突然、指輪のふたを開け、その中の毒薬を飲み、崩れ落ちる。

青い亀 黒蜥蜴さま!
明 智 その指輪は‥‥!
早 苗 指輪がのどに詰まったの?
青い亀 先祖伝来の毒薬だよ。何かあったときには、これを飲んで死ぬんだといつもおっしゃっていた。黒蜥蜴様!
明 智 なんだって?(黒蜥蜴に近づき)しっかりしろ!
黒蜥蜴 捕まるから死ぬのではないわ。あなたに本当のことを聞かれたから。憎らしい人。よかったわ、あなたが生きていて‥‥。

黒蜥蜴死ぬ。

青い亀 黒蜥蜴さま!

岩瀬庄兵衛がわらわらと登場。

岩 瀬 明智さん、エヂプトの星は無事かね?
明 智 (ポケットから取り出して)ええ、ここにあります。
岩 瀬 (受け取って)よかった、あんたこそ日本一の探偵だ。
明 智 あなたたちはこれからもニセモノの宝石を売り買いして我が世の春を謳歌することでしょう。それでいい。そのために私は働いたのですから。
岩 瀬 ニセモノの宝石だと?
明 智 そうです。本当の宝石はもう死んでしまったからです。

音楽が高まって、幕が静かに閉まっていく‥‥。
と思いきや、遠くから声が聞こえてきて、閉まりかけた幕の動きが止まる。

 暫く。暫く。

お約束の音楽とともに赤蜥蜴が客席から登場。

青い亀 赤蜥蜴さま!

みんなびっくり。幕もいつの間にかまた開いてしまう。

赤蜥蜴 全く、ずいぶんやりたいようにやってくれたもんだね。何をそんなところに無様に転がってるんだい? みっともないったらありゃしない。さあ、起きるんじゃよ!

黒蜥蜴、起きあがる。みんなびっくり。

青い亀 黒蜥蜴さま!
黒蜥蜴 どういうことなの?
赤蜥蜴 おや、知らなかったのかい? あの薬はニセモノだよ。いつか、お前がその薬を使ったら言ってやろうと思ってたのさ。ひひひ、引っかかった、引っかかった。ざまあないね。
黒蜥蜴 お母様こそ、どうしたんですの、いきなりそんなゴージャスな恰好で。晩ご飯ならまだですよ。
赤蜥蜴 何を言ってるんだい。わしもボケ老人のふりをしてたんじゃよ。適当にとぼけておくのが嫁と仲良くやる秘訣じゃからな。
黒蜥蜴 私は嫁じゃありません。娘です。
赤蜥蜴 ああ、そうだった。
黒蜥蜴 (驚いて)お母様! 突っ込まないんですか?
赤蜥蜴 いいじゃないか、娘でも娘でも。ホンモノでもニセモノでもいいじゃないか。あたしゃね、お前がニセモノニセモノっていいながら、ちっとも嬉しそうじゃないのが、気に入らないんだよ。ニセモノのどこが悪いんだい。大いばりでニセモノを押し通しってってしまえば、いつの間にか、ホンモノになってしまう。世の中なんてそんなもんさ。お前は、もう十分ホンモノさ。この探偵もそう言ってるじゃないか?
黒蜥蜴 お母様‥‥。
早 苗 そうよ、そうよ!

と言いながら、勝手に檻を開けて出てくる。

黒蜥蜴 あんた、なんで檻から出られるの?
早 苗 (無視して)アタシもニセモノだけど、あんなブルジョワ娘なんかより、ずっとイカシてる自信があるわ。ねえ、雨宮さん?
雨 宮 うん。

幸せそうな二人。

赤蜥蜴 さあ、明智小五郎。というわけで、ホンモノの宝石はまだ生きているが、どうするかね?

明 智 待て! 黒蜥蜴!
黒蜥蜴 私はもう逃げないわ。

明 智 男の中の男、明智小五郎が。
黒蜥蜴 男の中の女、怪盗黒蜥蜴が。
明 智 ホンモノの名誉にかけて。
黒蜥蜴 ニセモノの誇りにかけて。法律が私の恋文になり。
明 智 牢屋が私の贈り物になる。
二 人 そして、最後に勝つのは君さ!

二人手を取り合って出ていく。残された人達、唖然。

青い亀 黒蜥蜴様!
赤蜥蜴 いいよ、放っておおき。

杉本彩の「ゴージャス」が流れ出す。

早 苗 (赤蜥蜴に)ねえ、ねえ、おばさん。私、なんだかここ気に入っちゃったわ。三代目黒蜥蜴継いであげてもいいわよ?
赤蜥蜴 なんじゃと?
早 苗 決めたわ、私今日から、三代目黒蜥蜴、改め「桃蜥蜴」になるわ。みんないいこと!
赤蜥蜴 勝手におし。
雨 宮 早苗さん。
早 苗 お黙り、雨宮。桃蜥蜴さまとお言い。
雨 宮 (うれしそうに)はい、桃蜥蜴さま!
小林少年 明智先生、僕はどうなるんでしょう!

「ゴージャス」がどんどん盛り上がって‥‥

幕 

<<<その1<<<