約  束
関根信一

●その2●

<<<その1<<<

場面は約一ヶ月後。夕方の部屋。
北川が一人でいるところに、古沢がやってくる。

古 沢 お疲れ。
北 川 お疲れさまです。
古 沢 ねえ、ちょっと残ってくれないかな?
北 川 残業はパス。
古 沢 そうじゃなくて、ちょっとみんなで集まってミーティングしたいなと思って。
北 川 そう。ちょっとだよね、なら、いいよ。

北川、身支度を終えて座ると、古沢も座る。

北 川 何「みんなで」ミーティングじゃないの?
古 沢 ちょっと別な話。
北 川 何?
古 沢 拓ちゃん、やっぱりやめない、この仕事?
北 川 へ? 何よ、突然?
古 沢 もういいじゃん。他の仕事探しなよ、僕も手伝うから。ネカマの仕事が気に入ったなら、うちじゃなくても他にいっぱいあるからさ。
北 川 やだよ、ようやく慣れてきたのに。やめません。

古 沢 ねえ、ここに来たのってさあ、ゲイばっかりだから、気楽そうってそういうことだったんじゃないの?
北 川  まあね。
古 沢 じゃあ、なんでノンケのフリしてるわけ? バカじゃないの? いつになったら、カミングアウトするかって見てたら、もう一ヶ月だよ。よく、そんな馬鹿なことやってられるね。
北 川 何が馬鹿なことだよ? 祥ちゃんは知らないけど、僕はずっとそうやってきたんだから。別に平気だよ。
古 沢 状況が違うじゃない。そんなことする必要がないでしょ?
北 川 それはそうだけど、市ノ瀬さん、思いっきり信じてるし。
古 沢 そうだよね。ほんとノンケってかんじ。しょっちゅう一緒に飲み行ってたらすぐに気がつきそうなもんだけど。
北 川 そこは僕がうまくやってるから。
古 沢 違うよ、拓ちゃんのせいじゃない、市ノ瀬さんの鈍感さのおかげだよ。ちゃんと見てたらすぐわかるのに。
北 川 そんなことないって。だいじょうぶ。
古 沢 だいじょうぶじゃないから、言ってるんじゃない。いつかばれたらどうするの?
北 川 だって、言えないじゃない、信じてるのに。
古 沢 どうして学習しないかな? 言ってたじゃない、前の会社で好きな上司ができたって。僕にそういうこと言うのもどうかと思うけど、その彼に対する態度でみんなにウワサひろまっちゃったんで、会社いづらくなったんでしょし
北 川 それはそうだけど。
古 沢 ほんとに悪い癖。いいかげんにしたほうがいいと思うよ。
北 川 何、やきもち?
古 沢 何よ、それ?
北 川 そうか、市ノ瀬さんみたいなのタイプだったよね。
古 沢 ちょっと、かんべんしてよ。
北 川 じゃあ、なんで、わざわざ採用したわけ? おかしいじゃない。だって、ここゲイばっかりの職場にするはずだったんじゃないの? みんな言ってる。
古 沢 だから、それは。ほら、ばっかりっていうの、意味ないと思うんだよね。女の人たちもいるし。
北 川 だったら、いいじゃん、僕がいたって。
古 沢 そういうことじゃなくて……他の仕事探しが方がいいって。
北 川 いやだよ。
古 沢 なんだか見てるのつらいんだよ。無理しまくりじゃない。
北 川 そんなことない。
古 沢 だから、わかってないのは、拓ちゃんと市ノ瀬さんくらいなんだって。
北 川 とにかく、僕はやめないからね。絶対に。
古 沢 じゃあ、勝手にしろ。
北 川 うん。

島谷と市ノ瀬、津田と飯岡がやってくる。

飯 岡 お疲れさまです。
津 田 おじゃまさまです。
島 谷 古ちゃん、何なの、ミーティングって?
古 沢 ごめんね。今日はみんな揃うから、ちょっと話したいなと思って。大したことじゃないんだけどね。ま、みんな座って。すぐ済むから。市ノ瀬さんと真奈美ちゃんはこれで上がってもらう時間だけど、ちょっとだけつき合ってもらえるかな。
真奈美 了解。
市之瀬 わかりました。

みんな、てきとうに腰を下ろす。
津田は、当然のように、上手側のベッドのスペースに。荷物が積んであり、「巣」のようになっている。

津 田 なんか新鮮ね、こうやって勢揃いって。
市之瀬 あれ、永山くんは? 
島 谷 あの子、熱心なんだけど、時間にルーズなのだけどうにかならないかねえ?
飯 岡 そうそう、突然休んだりするし。ほんといいかげんよね。
島 谷 あ、何、その話?
古 沢 まあ、それもそうなんだけど。
津 田 じゃあ、彼が来るの待った方がいいのかしら? じゃ、それまでしばしご歓談ってことね。

 永山がやってくる。

永 山 おっはー。ごめんなさい、おそくなって。やだ、どうしたの、みんなそろって?
島 谷 ミーティング、あんた来るの待ってたんだよ。
永 山 ごめんなさい。ちょっと寝過ごしちゃって。昨夜、朝までになっちゃったから。
古 沢 遅くなるときは連絡くれるかな?
永 山 いいじゃない、五分くらい。許される範囲よねえ。
島 谷 はいはい、いいから、早く始めちゃって。
古 沢 えーと、新人のみなさんが来てくれて、そろそろ一ヶ月です。これまで個別にいろいろ見させてもらったんですが、ちょっといろいろお話したいことがあるんで、今日は集まってもらいました。みんなとってもよくやってもらえてるんですが、この業界、やっぱり他との競り合いがけっこう大変なんで、これからも、いっそう気を引き締めてがんばってください。
津 田 気を引き締めてたら、なかなかできないわよねえ、この手の仕事、もっとらくーにらくーに、楽しく楽しくやった方がいいんじゃないの?
古 沢 それはそうなんですけど、楽しい中にも真剣に。仕事なわけですから。
津 田 はいはい。
古 沢 よろしくお願いしますね。で、いくつか気がついたことをお伝えしますね。まず、島谷さん。
島 谷 お、私からか、何?
古 沢 あの、女の子の画像のストック、どれ使ってくれてもいいんですけど、どっかから持ってきた外人の写真使うのはやめてもらえますか?
島 谷 あ、キャシーのこと? なんで、ちゃんと日本語でメールしてるよ? カタカナばかりだけど。
古 沢 だから、そういうことじゃなくて、やっぱり微妙なんで。
島 谷 外人好きなオトコだっているでしょ? 外専っていうの? それにさあ、ちょっと変わったキャラにしたくなったのよ、その方がおもしろいじゃない。
古 沢 谷さんはいいんですけど、他の人が引き継げないんで。
津 田 そうそう。
島 谷 もう少し様子を見てよ、今、日本語勉強中だからさ、これから漢字も少しずつ覚える予定だから。
市之瀬 それもむずかしそうだよね。
北 川 うん。
古 沢 あんまり特殊なキャラにしないでくれるとありがたいです。
島 谷 わかったわよ。じゃあ、実は日本人でしたってことにしておく。
古 沢 次に、市ノ瀬さん。
市之瀬 はい。
古 沢 記録をずっと見させてもらってるんですが、こういうのやめにしてもらえませんか。「出会い系ばかりやってると、あとで大変なことになってもしらないよ。もっと他の知り合い方考えた方がいいんじゃない?」って。
市之瀬 ……。
古 沢 ま、気持はわからないじゃないんですけど、僕たちこれが仕事なわけですから。
市之瀬 あの、僕、昔、出会い系にはまってたとき、やっぱりそういうふうに言ってくれた子がいたんですよ。僕なんだかうれしくって。そのせいで、結構はまっちゃったりして。
古 沢 じゃあ、そう言ってるのは、考えがあってってことですか?
市之瀬 ええ。まあ。
古 沢 北川くんもそうですか?
北 川 へ?
古 沢 記録を見ると、北川くん、次から次へとそう言ってるみたいなんですけど。
北 川 そんなことないよ。
古 沢 二人で何か企んでるんじゃないかって気がしてくるんですけど、気のせいかな?
北 川 気のせいだと思うなあ。だって、だからって、それで、あきらめる男いないわけだし。そうでしょ?
古 沢 それはそうなんですけど。
北 川 だったら、いちいち文句つけるのやめてくれるかな?
古 沢 それじゃあ、メールのやりとりをずっとしたあげくに「やっぱりタイプじゃないからごめんなさい」っておしまいにしちゃうのもやめてもらえます?
北 川 でもさ、ずっと話してると、もういいかげんにしろって思うときあるじゃない。あるでしょ? だったら、それでいいじゃない。向うだってさあ、どっかで終わりにしたいと思ってるに違いないんだから。
古 沢 そういうときは、向うから終わりにするのを待つ。こっちから切らない。よろしくお願いします。
北 川 わかりました。
古 沢 はっきり言っておきたいんですけど、向うの男に感情移入する必要はゼロですから。向こうは好きでやってるんですからね。かわいそうだとか、そんなこと思う必要はないんです。こっちは、話し相手になってあげてるんですから、感謝されて当然なんですよ。これからも同じようなことが続くんだったらこちらとしても考えがありますんで。
島 谷 なに、クビ?
古 沢 そういうんじゃないですけど……。お願いしますね。
市之瀬 わかりました。(北川に)これから気をつけよう。
北 川 うん。
古 沢 それから……
北 川 何、まだあるの?
古 沢 そうじゃなくて。永山くん。
永 山 僕?
古 沢 自分の携帯のアドレス教えるのやめてもらえますか?
永 山 ……。
津 田 何してんの、あんた?
古 沢 うちは安全な出会いを売りにしてるんですよ。だから、全部がここのサーバーを通してのやりとりだってことになってるんです。
永 山 でも、教えてほしいって言われたから。
古 沢 そういうときは、うまく断ってくれないと。そう言ったじゃないですか? アドレスを教えてほしいって言われたら、あれ、このサイトの設定おかしいよ。アドレスが全部「×」で表示されちゃうって、そう言うように言ったじゃないですか。
永 山 ……。
古 沢 やりとりをしてますね。個人的に。どうなんですか?
永 山 はい。
島 谷 あんた!
永 山 だめなんですか? そりゃ、何度かは直接やりとりしたけど、そのあと、ちゃんとここでやってるんだから、問題ないんじゃないですか?
古 沢 ちゃんとわかってるんですよ。それがダミーだってこと。記録が残ってるんです。アドレスをおしえてから、めっきりアクセスが減りましたよね。あの茂幸って人。いいですか、これは仕事なんですから。ちゃんとして下さい。
永 山 だって、しょうがないじゃない。好きになっちゃったんだもん。

一同、びっくり。

永 山 彼まだ学生で、あんまりお金なくって。ここ通してメールのやりとりすると、どんどんお金かかっちゃうから、メアド教えてくれないかな?って言われて。だって、ここで教えなかったら、ほんとうにこれっきりになっちゃうんじゃないかと思って。
津 田 で、何、直接やりとりずっとしてるわけ?
永 山 まあね。彼、何人も同時にやりとりするような人じゃなくって、ほんとにちゃんとしてる人なの。
島 谷 いい男?
永 山 まあね。メールはすっごく真面目なんだけど、写真もらったら、けっこうイケメンで……。ほら。

と携帯を出して、写真を見せる。

島 谷 ほんとだ。まじ、いい男。
古 沢 とにかく、やめてくれないかな?
永 山 どうしてですか? ここで知り合って、個人的に友だちになってって、そういう人たちだっているわけでしょ? まあ、ネカマは無理だけど、一般の女の人たちは。どうして僕だけだめなんですか?
古 沢 そんなことして何になるの? ねえ、たしかにそういう「本当の」出会いは、結構あるかもしれない。でも、出会えないでしょ? 何でわざわざそういうことするのかな? メアド教えたら、今度は電話番号教えてって言われるよ。電話番号教えたら、すぐわかるでしょ。男だって。
永 山 それは適当に声をつくって、女のフリ。
古 沢 その次には会いたいって言われる。そしたら、どうするの? 会えないでしょ?
永 山 ……。
古 沢 そういうところから、ほんとうは女じゃないってことがバレちゃったら困るんだよ。ネカマだってことがバレルとね。だから、すぐにやめて。個人的に連絡取るのいっさい。全部、うち通すようにして。
永 山 でも、今さら、そんなことしたら、余計、おかしいって言われる。
古 沢 だったら、やめる。すぐにね。

永山、立ち上がる。

永 山 失礼します。

永山、出ていく。

津 田 ちょっと、あんた!(古沢に)いいの? 止めなくて?
古 沢 いいよ。しょうがない。
飯 岡 何だかすごいんだ。
島 谷 情念ってかんじ。
津 田 ていうか、客に惚れた女郎の足抜けみたいじゃない?
北 川 「吉原炎上」?

雅代が登場

雅 代 何かあったの? 今、永山さん、私の傍らをすごい勢いで駆け抜けていったけど?
古 沢 何でもないです。
雅 代 何でもないってかんじじゃなかったけど……、何かこう思い詰めたかんじで。
島 谷 唇かみしめて?
雅 代 そうそう。
古 沢 何でもないですよ。それより、今日はどうしたんです?
雅 代 どうしたって、あれよ。決まってるじゃない、誕生日パーティ。
古 沢 は? 誰の?
雅 代 真奈美ちゃんよ。そうよねえ?
飯 岡 ええ……。でも……
雅 代 いいの、いいの。ちょっとびっくりさせようと思って。前に、そんな話したじゃない? だから。みんなだって、そうなんじゃないの、こんなに勢揃いして。
古 沢 これはミーティングです。
雅 代 いいじゃない、じゃあ、せっかく集まってるんだから、このまんまみんなでぱーっとお祝いに行きましょう。
古 沢 あのね、僕たちまだ仕事があるんですよ。
雅 代 いいじゃない。ちょっとぐらい。これで帰る人もいるんでしょ? さくっと行って、すぐ戻ってくれば。ダイジョブよねえ? 
島 谷 やった、ごち!
津 田 じゃ、ちょっと行って来るか?
古 沢 だめです。永山くんが帰っちゃったんで、いつもより一人少ないんですから。
雅 代 なんだ、そうなの。
古 沢 どうして、いつもそうやって、仕事の邪魔ばかりしにくるんですか? 少しは社長としての自覚をもってください。
雅 代 持ってるわよ、だから、こうやって、誕生日会を企画して……
古 沢 なんで突然なんですか?
雅 代 びっくりさせようと思ったからに決まってるじゃない。
飯 岡 私、いいです。そんな。自分でも忘れてたくらいなんで。そんなお祝いだなんて。
雅 代 そういうものなのよ、誕生日っていうのは。自分だけ覚えてて、誰も知らないよりはずっといいでしょ?
飯 岡 でも……
津 田 そういえば、真奈美ちゃんいくつになるんだっけ? 二十九?
飯 岡 (雅代に)ほんとにいいですから。ありがとうございます。
島 谷 もったいないなあ。
雅 代 それじゃ、私の気がすまないわ。わかった。それじゃあ、私、飲み代出すから、これで上がる人たちでお祝いしてちょうだい。
古 沢 そんな、社長。
雅 代 そう、私は社長なの。誰なの、今日、これで上がる人は?

飯岡、北川、市ノ瀬が手を挙げる。

雅 代 じゃあ、三人で行ってらっしゃい。じゃあ、これ。

と言って、封筒に入ったお金を出して、真奈美に渡す。

雅 代 領収書もらっておいてね。
飯 岡 そんな。でも、私……。
雅 代 何か予定あった? 誕生日の予定?
飯 岡 ないですけど。
雅 代 じゃあ、いいじゃないの。行ってらっしゃい。
北 川 あ、ごめんなさい。僕はちょっと予定があるんで、市ノ瀬さんと二人でどうぞ。
市之瀬 え? そんな……
北 川 じゃ、よろしく。
飯 岡 私、やっぱりいいです。
市之瀬 !
北 川 そんな、いいじゃないですか? 社長、せっかくああ言ってくれてるんだから。
飯 岡 でも……
島 谷 あ、そうか。そういうことか? 北川ちゃんと一緒なら行くってかんじ?
飯 岡 やめてよ、そういうこと言うの。
市之瀬 ……よかったねえ、北川くん。
北 川 だから、それは……。僕、ほんとに今日、困るんですよ。だから、市ノ瀬さんと。
市之瀬 予定って何?
北 川 それはあの?
市之瀬 もしかして、彼女?
島 谷 何、彼女いるんだ?
市之瀬 一緒に住んでるんだよね、たしか?
北 川 ええ、まあ。しばらく、話してないんで。今日は、早めに帰ろうかななんて……。
津 田 でも、向うも今日は遅いんじゃないの?
島 谷 何、どうしてくわしいの?
津 田 ちょっとね。ま、いいんじゃないの? さくっと飲みに行くくらい。別に文句言わないと思うよ、彼女も。ねえ、古ちゃん?
古 沢 どうして、僕に聞くんですか?
津 田 ゴメン、間違えた。ねえ、北川ちゃん?
北 川 それは……
雅 代 そう、じゃ、
市之瀬 それじゃあ、僕、残ることにしようかな。一人足りない分、それでちょうどいいんじゃない?
雅 代 あら、じゃあ、二人っきりになっちゃうわよ。やだ、だいじょぶ?
市之瀬 いいよねえ。
飯 岡 ……。
市之瀬 じゃあ、そういうことで。
北 川 市ノ瀬さん、そんな別に無理してもらわなくて。
市之瀬 無理じゃないって、何言ってるのかな。(真奈美と北川に)行ってらっしゃい。ハッピーバースデートゥーユー。

市ノ瀬、事務所へ去る。

雅 代 何か、ありそうね。何があるの? どうしたの?
古 沢 何でもないですよ。
雅 代 そう、じゃ、行ってらっしゃいって。それも何だかあれねえ。わかった、じゃあ、私も一緒に行くわ、それで問題ないわね。さ、行きましょう。じゃ、祥ちゃん、あとはよろしく。
古 沢 ……。
雅 代 じゃ、お先にね。

雅代、出ていく。
微妙な表情の北川と飯岡。

島 谷 じゃ、行ってらっしゃい。私たちが労働してる間に楽しんできて。
飯 岡 やめてよ。
島 谷 社長、あのまんまどっかに行って貰って、二人でトンズラするっていうのはどう?
飯 岡 なんのために?
島 谷 知らないけど。
雅代の声 早く来なさい!
北 川 じゃ、行こうか?
飯 岡 いいんですか、ほんとうに?
北 川 うん、いいよ。さくっと。
飯 岡 じゃ、さくっと。
北 川 (みんなに)お疲れさまです。
飯 岡 (みんなに)お先です。

二人出ていった。

島 谷 ねえねえ、ミーティング、これで終了?
古 沢 いいよ、おしまいで。みんなから何かある?
島 谷 この人数で何なんだけど、津田くん、この頃、いっつもここにいない? あんたたまには帰ったら。
津 田 帰ってるって。今日だって、昼間。
島 谷 あれ、ティップネスじゃないの? お風呂がわり。どうかと思うよ。
津 田 いいじゃん、忙しいんだから。
島 谷 いいの、古ちゃん?
津 田 いいけど、そのへんの荷物、ちゃんとカタしておいてね。
島 谷 そうよ、そう。じゃあ、仕事に戻るかな?
島 谷 そうそう。

二人、出ていこうとする。

古 沢 津田さん。
津 田 なに?
古 沢 何考えてるんですか?
津 田 別になにも?
古 沢 ……。

*       *       *

   
数時間後、夜の道。

北 川 お酒強いんだね。
飯 岡 そんなことないって。いっぱい食べてたから。
北 川 すっごいごちそうになっちゃったね。社長っていつもああ? なんだかちょっと痛いよね、あのはしゃぎかたっていうか。
飯 岡 ごちそうになっておいて、ひどいなあ。
北 川 あ、でもさ、もう一軒行くって、もう遅いからってあきらめさせるの大変だったじゃない。
飯 岡 私、行ってもよかったんだけどな。
北 川 僕はもうかんべんってかんじ。気を遣わなくちゃいけないし、何だか飲んだ気がしない。
飯 岡 ごめんね、無理矢理つき合わせちゃって。
北 川 あ、そういう意味じゃなくて、楽しかったよ。
飯 岡 いいよ、無理しなくて。
北 川 無理じゃないって。
飯 岡 ありがとね。いい誕生日だったな。
北 川 こっちこそ。誕生日おめでとう。
飯 岡 ……。
北 川 別にいくつなのとか聞かないから。いいじゃない、いくつだって。銀座のホステスさんのバースデーケーキはいくつになっても二十八歳分しか蝋燭たてないって聞いたことあるし。
飯 岡 ……。
北 川 ほんとだって。だから、いいじゃん。気にすることないよ。
飯 岡 やさしいんだね。
北 川 そんなことない。ちょっとおしゃべりなだけ。口がうまいっていうの? 心こもってないから。
飯 岡 そのくらいがいいよね。北川君、私、好きなの。

北 川 あ、僕、実は…… 何て言うか、あの、やっぱり言って置こうと思うんだけど、僕、実は、ゲイなんです。
飯 岡 ……。
北 川 ごめんなさい。あの、ほんとはずっとだまってようかと思ったんだけど。あの、前にもこういうことあって、会社で女の子に告白されて、その場は何とか断ったんだけど、後になってから、ゲイだってことがばれたら、なんだか気まずくなっちゃって。それまではいい友だちだったのに、もったいないことしたなあと思って。だから、あの、先に言っておこうと思ってさ。ごめんね。
飯 岡 知ってたよ。
北 川 ……え、そうなの? ばればれってこと?
飯 岡 そうじゃないけど、なんだかね。ていうか、彼女って古沢くんなんでしょ? 一緒に住んでる。
北 川 どうしてそれを?
飯 岡 こないだ経理の書類コピーしてて、気がついた。
北 川 ……さすが、OL。
飯 岡 なんで、内緒にしてるの? 別に誰も何も言わないよ。
北 川 それはわかってるんだけど、市ノ瀬さん信じてるし。あの人には、黙っててくれるかな。僕のこと。
飯 岡 ちゃんと話してあげればいいいじゃない。どうしてそんなこと。
北 川 ちょっといろいろあって。
飯 岡 男同士ってやつ?
北 川 そうそう。一応ね。あ、それじゃ、誰が好きなの?
飯 岡 ……うーん、お酒。
北 川 お酒? お酒ね。

北 川 きらい、あの人のこと?
飯 岡 何、突然?
北 川 あ、僕がこんなこと言うのあれなんだけど、市ノ瀬さん、真奈美ちゃんがいるから、ここにいるらしいよ。
飯 岡 何、それ?
北 川 あ、いいや。しゃべりすぎ。
飯 岡 いいから、言いなよ。
北 川 あ、でも。約束したし。
飯 岡 そこまで言ったら、もう全部話したのも一緒でしょ。
北 川 でも。
飯 岡 教えてくれないなら、あんたのこと市ノ瀬さんに話すからね。
北 川 わかりました、言います。市ノ瀬さん、前にうちのサイトにはまってたことがあって、そのときに、真奈美ちゃんとデートの約束して、会いに行ったんだって。で、誰も来なくて、すっぽかされたんだけど、ずっと自分の方見てる女の人が一人いて、それが真奈美ちゃんだったって。
飯 岡 やだ、まじ?
北 川 覚えてないの?
飯 岡 全然。
北 川 そうだよね。だったら、もっとどうにかなってるよね。
飯 岡 そんなことないよ、今、私、その話聞いたけど、どうにかしようと思わないし。
北 川 全然?
飯 岡 全然。
北 川 あちゃー。
飯 岡 なんで、そんなに市ノ瀬さんの味方するの?
北 川 わかんないけど。なんだかほっとけないっていうか。微妙に気になるっていうか。そんな気持にならない?
飯 岡 ならない。
北 川 タイプじゃないってことか?
飯 岡 そういうんじゃなくて。私、男の人苦手なんだよね。だからかな、北川くんのこといいなって思っちゃったの。
北 川 ……。
飯 岡 どうしてそうなのかなって考えたんだよね。きっと何か理由があるんじゃないかって。ずっと忘れてたんだけど、うちの父親、平気で人のことなぐる人だったなあって思いだして。別に、だから、今、それで、男の人こわいとかそういうんじゃないの。でも、なんだかいやだなあって。自分が殴らたことはあんまり覚えてないんだけど、母親をね、殴ってるのを見てる自分のことはよく覚えてるんだ。ていうか、思い出しちゃって。男の人とつき合ってたときにね、ほら、そういうムードになるじゃない? 私、その人のことホントに好きだったんだよね。でも、思い出しちゃって、母親のこと、母親殴ってた父親のこと、それを見てた自分のこと。そしたら、なんだか、もうだめってかんじで。こう手を突っ張ったら、相手の頭がフロントグラスにぶつかって。
北 川 へ?
飯 岡 車の中だったの。で、それっきり。
北 川 なるほどね。
飯 岡 私、ここに来たのって、ちょっとそれのリハビリにもなるんじゃないかななんて思ったりして、ほら、バーチャルなわけじゃない? 目の前にいないっていうの? でもさ、バーチャルだからこそ、余計に生々しくって。当たり前だよね、みんな一生懸命、ほんとうの自分を説明しようとするんだもんね。だから、余計にもう勘弁ってかんじになっちゃって。一度、思い切って会いに行ってみたんだよね。でね、会いに行ってみたらさ、生々しくないんだよね。メールのやりとりや、写真のやりとりしてたときよりもずっと、なんでもないただの人がいるの。それ見に行ってるんだ。たぶん。ばかみたいでしょ。絶対に来ない私を待ってる姿を見てるとね、なんだか、すごくあったかい気持になるの。ひどいよね?
北 川 ひどすぎ。
飯 岡 やだな、しゃべりすぎた。みんなには内緒ね。
北 川 うん、約束する。
飯 岡 ほんと?
北 川 うん。
飯 岡 指切りしてくれるかな?
北 川 は?
飯 岡 子供がやるでしょ? あれ?
北 川 うん。いいよ。

二人、指切りする。慎重にゆっくりと。
やがて指をほどく。

飯 岡 ありがとね。
北 川 そんなこちらこそ。
飯 岡 あの、ついでに言っちゃおうかな。今日は、私の三十歳のバースデーでした。
北 川 (拍手して)カミングアウト!
飯 岡 あ、ごめん。ほんとは三十一。
北 川 カミングダウト!
飯 岡 ほんとだって。

古沢がやってくる。

古 沢 あ、お疲れ。
飯 岡 お疲れさま。
古 沢 何してんの? あれ、社長は?
北 川 先に帰ってもらいました。
古 沢 じゃあ、二人っきり?
飯 岡 まあね。じゃ、お疲れさまです。
北 川 あ、駅まで一緒に行こうよ。
飯 岡 ごめん。私、ちょっと急ぐから、じゃあね。

飯岡、急ぎ足で去っていく。

古 沢 どうしたの?
北 川 話しちゃった。僕のこと。
古 沢 なんだって?
北 川 そうじゃないかと思ってたって。
古 沢 でしょ? 絶対そうなんだって。認めた方がいいよ。
北 川 何、これから帰るの?
古 沢 うん。そっちは?
北 川 帰るよ。
古 沢 じゃ、帰るか?
北 川 何いばってんの?
古 沢 いばってないって。
北 川 久し振りじゃん、一緒に帰るの?
古 沢 いやなら、先に帰る。
北 川 いいよ、行こう。
古 沢 うん。
北 川 見てみて、すごい星だよ。
古 沢 わかってるよ、何、はしゃいでんの?
北 川 ねえねえ、見てみ。すごいから。
古 沢 何よ、見えてるって。
北 川 そうじゃなくって、ちゃんと見る。

北川、古沢の肩を抱き、一緒に星を見る。
古沢、北川の腰に腕をまわす。
二人、空の星を見てみる。

北 川 あ。
古 沢 何?
北 川 この気持ちなんだろうってずっと思ってたたんだけど、今、わかった。仕事でさ、日本中の男とメールのやりとりしてるとさ、こんな気持なんだよ。
古 沢 何言ってんの?
北 川 絶対そうだって。
古 沢 わけわかんないな。
北 川 わかんないかな?
古 沢 そんなの拓ちゃんだけだよ。ほれ、行くよ。

古沢、去る。
北川、後を追う。

*       *       *

数日後。事務所。

津田が寝ている。パジャマ姿。
島谷がやってくる。

島 谷 ほれ、もう六時だよ。起きな。
津 田 あと五分、寝かせておいて。だいじょぶ、ちゃんと起きるから。
島 谷 起きてないから言ってるんだよ。ほれ。
津 田 はいはい。起きました。

津田、その場で、みづくろい。

島 谷 なんでパジャマ着てるの?
津 田 寝苦しくってさ。ごめん、着替える。

津田、着替えようとする。

島 谷 ここで着替えるな!
津 田 いいじゃん、気にしない、気にしない。 
島 谷 あんた、ほんとに帰ってないよね。ていうか、もはやここに住んでるんだろう?
津 田 そんなことない。
島 谷 じゃあ、これは何だ?
津 田 毛布。防菌加工してあるよ。
島 谷 屋上で洗濯物干してる。
津 田 コインランドリー行くの、なんだかもったいなくって。
島 谷 自転車も、持ってきたよね。下においてあるの、あんたのでしょ?
津 田 運動にいいでしょ?
島 谷 何、考えてるのよ。
津 田 その方が便利なんだって。あんたもそうしたらって、ま、ここは定員一名だけど。
島 谷 なんでそういうことができるかね。
津 田 ラクチンだよ。
島 谷 一人になる時間とかいらないの?
津 田 それは適当にさ。外散歩してるよ。
島 谷 そういうんじゃなくて。
津 田 ためしにやってみ、帰らないで、ずっとここにいるの。けっこう新鮮だと思うよ。
島 谷 いいよ。私はだめだね、きっと。うちでもさ、書きかけの原稿にとりかかろうと思って、何日か休みもらって家にこもってると、かえってはかどらないんだよ。どうやら、往復の電車の中っていうのが、私にとっては一番頭がさえ渡る時間みたいなんだわ。
津 田 それって逃げなんじゃないの?
島 谷 へ?
津 田 あんたさあ、うちで書き詰まると電車に乗って、気分転換って、そんなの転換するだけで、何も生まないんじゃない? 実際、どうなよ、あんたが書いてる小説っていうのは? どこまで進んでるわけ? 文学賞の締めきり、次々先送りにして、結局、どこにも出してないわけでしょ? そういうの小説家っていう?
島 谷 小説家の卵だよ。
津 田 何年あっためてるのかしら? もうゆで卵になってるんじゃない?
島 谷 でっかいんだよ。時間がかかるんだって。たしかにさ、ここで男と女のいろいろのぞいてさ、事実は小説より奇なりっての見付けて、ネタにしようと思ったんだけどだめだね。おもしろい事実はどこにもころがってない。アテがはずれたね。
津 田 元々向いてないんじゃないの?
島 谷 なんだと?
津 田 書き詰まって、電車に乗って逃げ回ってるんじゃダメだよ。もっと、どーんと腰を落ち着けてさ。不退転の決意っての?
島 谷 あんた、そうやって、ちっとも動かない自分を正当化しようとしてるわけ? しかも、おもいきり話をわき道にずらして。
津 田 ばれたか?
島 谷 そういうところには敏感なんだよ。ああ、わかった。じゃ、もう何も言わないよ。たださ、洗面所に歯ブラシから化粧水から何から置くのやめてくれるかな? あんたは毎日あれだけのものが必要なわけ?
津 田 うん、お肌の曲がり角曲がっちゃうとね、マストなかんじ。よかったら、使ってもいいよ、化粧品。きっと合うと思うから。
島 谷 ……そう?
津 田 うん。

市ノ瀬と北川が登場。

市之瀬 お疲れです。
北 川 お先です。
島 谷 お疲れ。あれ、飯岡は?
北 川 もう来ると思うけど。ちょっとめんどくさくなってるみたい。
島 谷 そうか。困ったら、そのまんま私に投げてくれてもいいのにね。
北 川 島谷さんに投げると、余計、めんどくさくなるからって言ってましたよ。
津 田 それは言えてる。
島 谷 たしかに。
市之瀬 じゃ、お先に。
北 川 あ、市ノ瀬さん。
市之瀬 何?
北 川 飲み行きませんか?
島 谷 あ、いいねえ。
北 川 真奈美ちゃんも一緒に。
市之瀬 え?
島 谷 お、青年、何か企んでいるみたいだねえ。
津 田 そっとしといてあげなさいよ。
津 田 はいはい。
北 川 いいじゃないですか? 行きましょう。さくっと。
市ノ瀬 でも、いいよ。気使ってくれなくて。
北 川 そんなんじゃなくて、みんなで飲みに行くっていうのでいいじゃないですか?
市之瀬 嫌われてるのかなと思ってさ。
北 川 そんなことないでしょ。
市之瀬 あれから、余計になんだか話しづらくってさ。だから、いいよ。ありがとう。気にしないで、二人で行ってくればいいよ。
北 川 ……わかりました。

永山が登場。

永 山 失礼します。
島 谷 あんた、どうしたの? よく戻ってきたねえ。
津 田 うん、もうあれっきりかと思った。
永 山 古沢さんは?
北 川 今、ちょっと社長のとこ行ってる。夕飯のおつきあい。もう戻ると思うけど。
永 山 そうですか。あの、少しいさせてもらっていいですか?
島 谷 いいよ、いいよ。いなさい。ほれ、座って。(津田に)あんたは早く着替える。
津 田 はーい。

津田が着替え始める中、永山はソファに腰を下ろす。

永 山 ……何ですか?
島 谷 何ってねえ。
北 川 あれからどうなった? 茂幸さんとは?
島 谷 どうして、そうまっすぐに聞けるかねえ。
北 川 でも、気になるし。どうした?
永 山 ……。
津 田 ま、いいんじゃない? そのうち話したくなるだろうから。ていうか、古ちゃんに話しに来たんでしょ? じゃ、待ちましょ。それが大人ってもんよ。
島 谷 だから、着替えながらはよせって言ってるだろうが。

古沢が戻ってくる。

古 沢 何、みんなそろって。(永山に気づいて)あ……
永 山 どうも。こないだはすみませんでした。
古 沢 いいよ。別に。バイト代? まだ、計算してないんだ。悪いけど、少し待っててもらえるかな、今、用意するから。
永 山 そうじゃなくて……。戻ってきちゃだめですか?
古 沢 ?
永 山 ほんとに悪いことしたなと思って、迷惑かけてすみませんでした。
古 沢 あれからどうしたの?
永 山 どうって。言われた通りでした。メアド教えたら、携帯の番号教えてほしいって言われて。
島 谷 教えたの?
永 山 だって、声が聞いてみたくって。
北 川 電話で話したの?
永 山 はい。
津 田 やるねえ。どんなだった。彼?
永 山 もう、思ってたとおりっていうか。やさしい声で。
島 谷 あんたどうしたのよ? あ、女の声色か?
永 山 それも心配だったんで、はじめは全部留守電に。どんどん留守電のメッセージがたまって。すっごいうれしくって。何度も何度も聞き返して。
島 谷 なるほど。考えたね。
古 沢 でも、それだけじゃ済まなかった。
永 山 はい。どうして連絡くれないんだって言われて、メールで返事したりしてたんだけど、思い切って話してみたら……
津 田 みたら?
永 山 けっこう平気でした。僕、声、わりと高いんで。
古 沢 で?
永 山 会いたいって言われて。
島 谷 来た来た。
市之瀬 でも、会えないでしょ?
津 田 女装、女装したの?
島 谷 それはない。
永 山 ちょっと考えたんだけど、やっぱりやめました。
島 谷 あ、考えたのね。(津田に)いたわ、「小説より奇なり」な人が。
古 沢 で、どうしたの?
永 山 会いに行きました。時間と場所を約束して、彼の家の近くの吉祥寺の北口ロータリー。真奈美ちゃんのマネして、蔭から見てたんだけど、ずっと待ってて。メールで一時間遅くなるって連絡したんだけど、「だいじょぶだから、気をつけておいで」って。やさしくって。で、一時間ずっとそこで待ってるんですよ。僕、バスのりばにならんでるフリして、それをずっと見てて。すぐ近くにいるんだけど、どうしても話しかけられなくて。
島 谷 それはそうだよね。
永 山 「ごめん、もう三十分だけ待ってて」って、引き延ばそうと思ったんだけど、それも悪い気がして、「ほんとうにごめんなさい。今日は行けなくなりました。また連絡しますね」ってメールを打って送信したら、彼の携帯がすぐに鳴って。メールを読んでるの見えました。携帯を閉じるときに、一瞬だけ、僕の方見て、そのまんま僕のとなりをとおって歩いていってしまって。それっきり、連絡来なくなりました。
津 田 ま、しょうがないね。
永 山 ばかみたいだなって。わかってたのに。こうなるってこと。でも、涙出て来ちゃって。泣けてきちゃって。どうしていいか、わからなくて、そのまんま乗らなくていいバスに乗っちゃいました。
古 沢 ……じゃ、よろしく。
島 谷 (永山に)あんたさあ、もう少しくわしく話してくれない?
津 田 (永山に)やめた方がいいよ、何かの小説にいいように使われるから。
島 谷 そんなことしないって。
津 田 (永山に)気をつけた方がいいよ。

飯岡がやってくる。

飯 岡 ああ、いたいた。古ちゃん。ごめん、ちょっとめんどうなことになっちゃって……
古 沢 どうかしたの?
飯 岡 それが、まさるがね。お前らネカマだろうって言い出して。
古 沢 え?

一同も動揺。

飯 岡 そんなことないっていくら言っても納得しなくって。
古 沢 いいよ、じゃあ、ほっといて。それでもだめなら、こんな馬鹿な話しててても、お金はかかっちゃうって、ちゃんと言ってやればいい。
飯 岡 それも言ってるの。でも、そんなの関係ないって。今もまたメール来て……

古沢、上手のパソコンを見てみる。
みんなも。

島 谷 しつこいよね、この男。何人も同時に違う女の子とやりとりしてさあ。
津 田 向うはそんなことしてるのわからないだろうと思ってるけど、こっちには全部わかっちゃうんだよね。
島 谷 (市ノ瀬に)あんた、結構、ていねいにやりとりしてなかったっけ? 実は女子高生のアユミちゃんで。
市之瀬 ええ、でも、一度、デートの約束すっぽかしたら、それっきりですよ。
島 谷 私もまさるとは、キャシーで、結構、遊ばせてもらったかな?
市ノ瀬 その後は?
島 谷 キャシー、もういないから。ロスに帰ったの。急な話だったんだけどね。
北 川 (飯岡に)今は誰とやりとり?
飯 岡 アヤカ。二十五歳のOL。一昨日から、今日会おうって話をずっとしてて、で、当日土田キャンっていう流れにしようと思ってたんだけど。
北 川 ちょっと、ドタキャンが続きすぎてるんじゃないの?
島 谷 それはしょうがないって。まさるも永いんだからさ、そのくらいわかってるはずだって。そう簡単に会えないんだってこと。
市之瀬 でも、一度もっていうのは、つらいんじゃないかな? そうですよね、一度も、誰ともあってないですよね。
飯 岡 そうなの。あともう一人、チナミっていうのともやりとりしてるんだけどね。
一度も会ってないみたいで。
島 谷 何、みんなうちのキャラなの? 一人くらいいないわけ、ほんとの女が?
津 田 そうだよ、そっちに丸投げしちゃえばいいじゃない。一本化っていうの?
島 谷 私もそう思って探したらさ、一人いたんだけど、うちのキャラじゃないのが。
北 川 よかったじゃない。
飯 岡 それが、一昨日振られてんの。
市之瀬 なんで?
古 沢 そいつもネカマだったんじゃない。シロウトのネカマ。
飯 岡 そうなの。
古 沢 しかも、開き直ってた。ネカマじゃないかってつっこまれて。「ネカマで悪かったわね。誰もあんたの相手なんかするわけないじゃない。ほんとうの女なんて」って。
北 川 何、それ?
市之瀬 ひどいなあ。
津 田 ネカマとしても断ち悪いよね。
島 谷 ていうか、せっかく、私たちが苦労してるのに。台無しじゃない。
飯 岡 それより、どうする?
古 沢 どうするって、放っておくしかないでしょ? そのうちにあきらめるから。
飯 岡 でも、もう待ち合わせ場所に向かってるって。もし来なかったら、ここのサーバーのこと訴えてやるって。
古 沢 何言ってんの? うちは関係ない。アヤカはアヤカ、どこにもいない、架空の女。だから、ここにだっていないの。

市ノ瀬、パソコンを見ている。

市之瀬 もし来なかったら、爆弾を送ってやるって。
古 沢 ここがどこかもわからないのに? せいぜいが、ウィルスメールくらいだよ。無視していい。
市ノ瀬 あ、また来た。「今夜、八時、山下公園の氷川丸の前で待つ」
島 谷 横浜か。どうせ今からじゃ無理だから、もうまにあわないってメール。
飯 岡 だめだよ、サナエ、横浜在住だもん。今日は、仕事もすぐ終わるからって、昨日。
古 沢 だったら、無視。見なかったことにする。そのまんま放っておけば、約束の八時が過ぎて、どこにいるのっていうメールが来て、それも無視してれば、あきらめて帰るから。この話は以上。じゃ、早番の人、お疲れさま。

市之瀬 なんだか気の毒だな、振られっぱなしっていうの。
北 川 今日は寒いしね。海だから余計。

市之瀬 僕、ちょっと行って来るわ。
一同 え?
市之瀬 だいじょぶ、だいじょぶ。友だちかなんかのフリして、今日は来ないよって、言ってやる。
古 沢 バカじゃないの? そんなことしてなんになるの?
市之瀬 じゃあ、僕がずっとネカマしてたって、しょうじきに話してくる。もう、いい加減に止めた方がいいって。だって、いくらやっても、誰とも会えないんだからって。
島 谷 出会い系はまってたもん同士。
市之瀬 なんだか他人事じゃなくて。
古 沢 やめてください。
市之瀬 あ、僕、今日これで終わりなんで。仕事じゃないですから。
古 沢 だったら、余計にやめてください。
市之瀬 だいじょぶですよ。ちゃんと話せばわかってくれます。やっぱり誰かに会いたいんだと思うんですよ。僕もそうだったんですから。
古 沢 市ノ瀬さん、じゃあ、あなたがずっと待ちぼうけくらってるときに、何だか知らない男がきて、あんたが待ってる女は来ないって言ったら、どう思いました?
市之瀬 それは……
古 沢 かえってめんどくさくなるだけでしょ。やめてください。
市之瀬 でも、言ってやらなきゃいけないと思うんです。ていうか、僕、行かなきゃいけない気がして。

市之瀬 僕、学校やめた理由、お話してなかったですよね。僕、逃げてたんですよ。出会い系サイトに。もちろん、女の人と会いたかったって言うのはあるけど、でも、そんなのだんだんどうでもよくなった。担任してた生徒で、ちょっと問題抱えた女の子がいて。髪の毛染めて、ピアスして。飲酒、ドラッグ。学校にも来ない、家にも何日も帰らない。教師って、二十四時間、いつでも電話がかかってくるんですよ。ようやく連れ戻しても、ほっとしても、すぐにまた電話がかかってくる。少しも休まらないんですよ。そんな時ですよ、出会い系サイトにハマったのは。電話に出たくなかった。出なくていい理由がほしかった。出会い系サイトに接続して、メールのやりとりをしてれば、その間だけは電話つながらないんです。やった!と思いました。その日、六本木ヒルズで会う約束して、出掛けて、ずっと待って、その間も、何度もメールのやりとりして、結局、待ちくたびれて帰ってきたら、うちの電話に留守電が入ってたんです。その生徒、ドラァグの飲み過ぎで意識不明になってるって、病院に行ったんですけどね。翌日、死んでしまって。それでやめたんですよ、出会い系。それから、学校も。行けなくなっちゃって。復職のためのワークショップに行ったりしてるんですけどね、うまくいかない。塾の教師もやってみたんですけど、こっち見てる子供達の顔が見られなくて。だから……。だから……何言ってるんだろう。だから、僕行ってみます。
古 沢 それはあなたの問題じゃないですか、うちともマサルとは何の関係もない。
市之瀬 でも……
古 沢 行っても何も変わりませんよ。行くだけ無駄です。
飯 岡 私も行こうかな?
古 沢 え?
飯 岡 最後にやりとりしてるの私だし、私が話した方が納まるような気がする。
島 谷 あんただいじょぶなの?
飯 岡 ダイジョブ。いつも、横から見てるの、正面から見るだけだから、ちょっと話すだけだし。
古 沢 そんなことじゃない。
飯 岡 ダイジョブ、ダイジョブ。
古 沢 ダイジョブっていうのは、負け犬の得意台詞なんだ。ちっともダイジョブじゃないのに、とりあえず言ってみて、自分を安心させてるだけなんだ。
飯 岡 じゃあ、ダイジョブじゃないけど、でも、私も行ってみるよ。(市之瀬に)いいよね?
市之瀬 ……うん。
古 沢 何言ってるんだ?
津 田 私も行ってみようかしら? ちょっとおもしろそうね。
島 谷 あ、そう、じゃ、私も。
永 山 僕も行ってみようかな?
市之瀬 そんな大勢で行ってもあれなんで……
飯 岡 じゃあ、二人で。
市之瀬 うん。
古 沢 どうしてわからないのかな、いいですか。向うの男に感情移入する必要はゼロですから。向こうは好きでやってるんですからね。かわいそうだとか、そんなこと思う必要はないんです。こっちは、話し相手になってあげてるんですから、感謝されて当然なんですよ。誰にもばれないと思って、何人も同時に相手して、うまく行ったら、そっちとつき合うなんて、いいかげんじゃないですか。いいんですよ。そんな男は、冬の寒空の下で、さびしい思いをすればいいんです。当然なんだ。いくらでも淋しい思いをすればいいんだ。

島 谷 ねえ、古ちゃん、マサルは、浩之くんじゃないよ。
古 沢 ……。
北 川 いいじゃない、行ってみたって。会ってみればいいよ。
古 沢 ……。

市之瀬 じゃあ、行ってきます。
津 田 気をつけてね。
島 谷 どうする、少し遅くなるってメールしておこうか?
市之瀬 また書き込みあったら、連絡ください。
島 谷 了解。
市之瀬 じゃ。
飯 岡 うん。

市ノ瀬と飯岡、出ていく。

島 谷 さて、我々は仕事にとりかかるかね。
津 田 うん。

島谷と津田、事務所へ。

古 沢 ほんとノンケってかんじ。バカノンケ。
北 川 そういう言い方よくないよ。
古 沢 ……。

古 沢 帰らないの?
北 川 気になるからね。ここにいる。
古 沢 そう。
北 川 祥ちゃんもいれば?

古沢、黙って、出ていく。
一人残った、北川。
パソコンの画面を見ている。

暗 転 

*       *       *

 翌日の事務所。
 夕方。
 北川が中央のソファで寝ている。
 やってくる古沢。
 津田の毛布を北川にかけてやる。
 しばらく見ているが、やがてパソコンに向かう。
 市ノ瀬がやってくる。

市之瀬 こんばんは。
古 沢 あ、もうだいじょぶなの? 心配したよ。
市之瀬 ちょっと殴られただけですから。
古 沢 でも、病院行ったって。
市之瀬 ちょっと血が出たんで。大したことないんです。
古 沢 なんで殴られたの?
市之瀬 あ、それは……。

津田と島谷、永山、飯岡がやってくる。

津 田 大変だったわねえ。どうぞ続けて。

一同、ソファに座って、話を聞く体勢。
市ノ瀬はびっくり。

市之瀬 ……約束通り、氷川丸の前まで行ったんだけど、誰がまさるだかわからなくて。
飯 岡 送ってきた画像で見覚えあるから、探したんだけど見つからなくて。
市之瀬 二人で一緒に歩いてたら、向うの方に立ってる人がいて。もしかしたらと、思ったんで、聞いてみたんですよ。「あの、まさるさんですか?」って。
津 田 そしたら?
市ノ瀬 「そうだけど」って。二人で、よかった!って言い合ってたら、「何で二人でいるんだ」って。「お前らオレをバカにしてるのか」って。
島 谷 ま、そう思われてもしかたないよね。
古 沢 で、話せたの?
市之瀬 それが、急に殴ってきて、もうよけるのがせいいっぱいで。結局やられちゃったんですけど。
飯 岡 びっくりして。「誰か助けて!って叫んだら、ばたばた逃げてったの。
津 田 じゃあ、何。肝心のことは何も伝えてないの?
飯 岡 だって、それどころじゃなくて、だって、グーで殴ってくるんだよ。
市之瀬 僕としては伝えたつもりなんですけど、殴られながらだったんで。
島 谷 それきっと伝わってないと思う。
津 田 もしかして、それって、完全に逆効果だったんじゃない?
永 山 それは言えてる。
飯 岡 でも、あれから、まさる一度もアクセスしてきてなくって。もし、アクセスしてきたら、ちゃんと話そうって、思ってたんだけど。
古 沢 そうなんだ。
市之瀬 だから、たぶん伝わったんじゃないかなって。(笑おうとすると痛い)あ、イテテ。
古 沢 警察行かなくていいの?
市之瀬 そんな全然、大した怪我じゃないし。それに大事になるでしょ。僕なら平気ですから。
古 沢 そう、ありがとね。

一同、古沢を見る。

市之瀬 そんな……
古 沢 今日はどうする? シフト入ってるけど、仕事できる?
市之瀬 あ、それなんですけど。あの、ここやめさせてもらいたいなと思って。
一同 ……。
古 沢 どうしたの?
市之瀬 他の仕事探してみようかなと思って。なんだか殴られてすっきりしたっていうか……
津 田 あんた何言ってんの?
市之瀬 なんだかまた始められそうな気がしてきて。親に聞かれたんです。「その怪我どうしたのか」って。もういいやと思って、正直に話しました。
島 谷 何だって?
市之瀬 お前は何をやってるんだ?って。
津 田 それは言われる。
市之瀬 で、仕事のことも全部話して。そしたら、なんだか、すっきりして。突然ですみません。仕事しながらでもと思ったんですけど、まずはやめてみることから始めてみようかと思って。
古 沢 いいよ、了解。がんばって。
市之瀬 はい。それじゃ。
津 田 あら、もう行くの?
市之瀬 また来ますから。(古沢に)どうも、ありがとうございました。
古 沢 元気でね。

 市之瀬、退場。

飯 岡 あ、私も、帰るかな。お先に失礼します。
一 同 ……。
飯 岡 そういうんじゃないからね。
津 田 あら、私たちは何も言ってないわよ。
市之瀬 じゃ、失礼します。

二人、出て行った。

古 沢 よかった、大したとなくて。
北 川 うん。
津 田 なんだかさあ。私たちって、ノンケのためのボランティアって気がしてこない?
島 谷 ボランティアじゃないだろ。これが仕事なんだから。
津 田 じゃ、仕事にもどるかね。
古 沢 あ、ちょっと待ってくれるかな?
島 谷 なに?
古 沢 ちょうどみんないるから。ちょっと話があるんだ。
島 谷 何なに、ミーティング。
古 沢 うん、そう。これからちょっと仕事の内容変えようかなと思って。
津 田 お、ノンケ向け、やめて、ゲイ向けのサイトを立ち上げるとか?
古 沢 あ、そうじゃなくてさ。ネカマ、やめようかなと思って。

古 沢 別に市ノ瀬さんのことがあったからっていうんじゃないんだけどね。もう時代遅れかなと思って。メールでのやりとりなんてさ。他でもやってるところあるけど、CCDカメラでお互いの映像見ながらやりとりするっていうの、やってみようかと思って。
一 同 ……。
古 沢 生の映像だから、まあ、ネカマは絶対にできなくなるし。女の人集めて、専門にやってもらえたらいいかなって。在宅でもできるわけじゃない? きっとうまくいくと思うんだ。
島 谷 じゃあ、私たちはクビってこと?
古 沢 ううん、そうじゃなくて、いろいろやってもらうことあるから。ずっといてもらっていいんだ。でも、メールの出会い系はだんだん縮小していこうかなって。
津 田 それじゃ、ネカマもおしまいね。私たちは、滅び行く種族の最後の生き残りってわけね。
古 沢 もちろん、すぐにってわけじゃないんで、ちょっと考えておいてくれるかな?
北 川 それって、遠回しに、自主的にやめてってこと?
古 沢 そうじゃないよ。ただ、早めに相談しようと思っただけ。
永 山 たしかにそうかもしれないですね。メールのやりとりなんて、どんどん時代遅れになってくる。
北 川 そんなことないんじゃないかな?
永 山 え?
北 川 だって、みんなわざわざ携帯からメールしてるわけでしょ? 携帯から電話すればいいのにわざわざ。
島 谷 たしかにそうだね。
北 川 みんなさあ、電話で話すより、メールの方がって思うんだよ。わけのわからない顔文字考えて、それでも、なんとか伝えようって思うんだよ。だから、きっとなくならないと思うな。メールの出会い系って。
島 谷 そのとおりかもしれない。いいこと言うね、あんた。
津 田 私たちにも未来はあるってことね。よかった。
島 谷 さてと、じゃあ、仕事をしますか?
永 山 はい。
津 田 じゃあね。お二人はごゆっくり。
古 沢 え?
津 田 何でもない何でもない。

 三人退場。
 古沢、北川を見ている。

北 川 なに?
古 沢 そんなこと考えてたんだ。知らなかった。
北 川 まあね。いろいろ考えたよ。ここに来て。よかったよ、やっぱり。

雅代がやってくる。

雅 代 こんばんは。あら、あなたたちヒマそうね。どう、晩ご飯食べに来ない?
古 沢 あ、社長。ちょっとお話が
雅 代 何?
古 沢 なんて言うか。北川くんのことなんですけど。
雅 代 どうかしたの?
古 沢 僕たちつきあってるんです。

雅 代 そうだったんだ。あ、そうじゃないかなとは思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだ。
北 川 やっぱりって?
雅 代 いつから、どのくらいのおつきあいなの?
古 沢 もう、四年になります。
雅 代 あら、そう。じゃあ、うちのと別れてからすぐ?
古 沢 ええ。一人になって、どうしようかと思ったときに、ネットで知り合って。いつか話そうと思ってたんだけど、なかなか言えなくて。

雅 代 ありがとね、話してくれて。ほんとよ。
古 沢 僕たち一緒に住んでるんです。
雅 代 え? そうなの?
北 川 あ、でも、もうすぐ別々になるんです。
古 沢 え?
北 川 ごめん、言えなくて。でも、そうしようと思うんだ。
雅 代 じゃあ、別れるの?
北 川 そうじゃなくて?
雅 代 どういうことなの?
北 川 だから……
古 沢 それってもしかして私に気を遣ってのことなの。それだったら、気にしないでいいのよ。
北 川 ……違います。

雅 代 わかったわ。あとで、二人でご飯食べにいらっしゃい。待ってるから。(古沢に)後でね。

 雅代退場。

古 沢 そんなことも考えてたんだ。
北 川 さっき、続けて話そうと思ったんだけど。ま、そういうこと。
古 沢 それ逆じゃないの? ここやめるっていう選択はないわけ?
北 川 考えたんだよね、どっちをとるか。こっちとった方が、未来があるような気がして。ちょっとだけ明るい未来が。
古 沢 ていうか、こっちの方が居心地いいからでしょ。
北 川 それもそうだけど。
古 沢 引っ越すあてあるの?
北 川 うん、これから探す。市ノ瀬さんも手伝ってくれるって。時々は遊びにいくから。昔みたいに。
古 沢 昔みたいに?
北 川 そう、もう一度やってみればいいんじゃないかなって。
古 沢 また初めから?
北 川 初めからじゃないけど……
古 沢 またウソはつかないって、約束して?
北 川 ウソはつくかもしれない。でも、ウソでもいいからちゃんと向き合う。話すのが難しかったら、メールする。そんなんでいいと思う。
古 沢  じゃ、やってみようか?

 永山がやってくる。

永 山 あの、面接っていう人が来てるんですけど。
古 沢 何、聞いてないよ。
永 山 真奈美ちゃんが受けてたかもしれない。
古 沢 何また、そんなにいいかげん?

津田と島谷が登場。

島 谷 ねえ、古ちゃん、どうするの?
津 田 おひきとりいただく? ネカマはもうおしまいにするの?
永 山 古沢さん?

古 沢 いいよ、通して。会ってみよう。
永 山 はい、わかりました。

永山、事務所へ戻る。

北 川 ねえねえ、どんな人? また、ノンケかな? ていうか、男?
津 田 うーん、一応、男子だけど。ファーストインプレッションはかぎりなくグレーゾーン。
島 谷 ま、たしかに、あんたみたいにバレバレじゃないね。
北 川 ねえ、僕って、そんなにバレバレ?
古 沢 津田さん、ここ少し片付けて。
津 田 はーい。ねえねえ、ここにいてもいい?
古 沢 どうぞ。
島 谷 じゃ、私、お茶入れるわ、飯岡のかわりに。
古 沢 よろしく。
北 川 じゃあ、僕は……
古 沢 いいから、そのへんにいれば。
北 川 了解!

永山がやってくる。

永 山 どうぞ。

 新人候補を出迎える一同。
 彼が登場する前に……

 幕 

<<<その1<<<