美女と野獣
Kiss changes everything?

第2場

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 翌日の深夜。真っ暗闇。
 舞台奥の梯子段から、懐中電灯の光が射してくる。
 やがて、グロリアの姿が見える。片手に懐中電灯とコンビニの袋を持ち、苦労しながら、梯子を降りてくる。

グロリア ヤッホー! ……私よ!

 返事はない。
 グロリアは、緊張した面持ちで、部屋の中を懐中電灯でゆっくりと照らす。
 やがて、ソファに横になっているリュウジの姿を見つける。

グロリア 生きてる?
リュウジ ……何とかな。
グロリア もう、いるなら、いるって返事して。ドキドキしちゃうじゃない。電気つけるわね。

 グロリア、電気のスイッチを入れる。明るくなる室内。

グロリア 元気だった?
リュウジ 元気なわけねえだろ。
グロリア 怖くなかった、真っ暗な中一人で?
リュウジ やつらに見つかること考えたら、何でもねえよ。
グロリア ふん、強がっちゃって……
リュウジ 何だと?
グロリア 何でもないわよ。偉かったわね。

 と言いながら、コンビニの袋から食べ物を取り出し、リュウジの前に置く。

グロリア 食べなさい。お腹空いてるんでしょ?
リュウジ ……。
グロリア そう? じゃあ、私、食べるわよ。晩ご飯まだなの。
リュウジ 上の様子はどうだ? 誰かいなかったか、怪しいやつら。
グロリア 怪しいってどんな?
リュウジ いたのか?
グロリア さあ、気がつかなかったけど。
リュウジ 本当だな?
グロリア 本当よ。
リュウジ 誰にも話してないだろうな、俺のこと。
グロリア 昨日も言ったでしょ。私を信じなさいって。
リュウジ ピストルは? どうしたんだ?
グロリア 大丈夫、ちゃんとしまってあるから。
リュウジ どこに?
グロリア ……秘密。
リュウジ ……。
グロリア 食べなさい。これは命令よ。夕べも言ったと思うけど、ここで死なれるの、すっごい迷惑だから。
リュウジ 死んでたまるかよ。

 リュウジ、仕方なく、パンを食べ始める。実は相当空腹だったらしい。すごい勢いで食べ始める。
 グロリアは、そんなリュウジを満足そうに見ている。

リュウジ(気付いて)何見てんだよ?
グロリア ……子供の頃ね、近所の子と一緒に、野良犬を飼ってたことがあるの。公園の滑り台の下で、ご飯の残り物持ち寄ったりして、みんなで。でも、そのうちにみんな飽きちゃって、一人減り、二人減りして。その上、どこかのおじさんに「公園で犬を飼うな!」って言われて、結局、うちに来ちゃったのよ。本当に私って、貧乏クジ引く巡り合わせなのよね、昔から。

 リュウジ、話の途中で食べるのを止める。

グロリア あら、もういいの?
リュウジ 俺は野良犬か?
グロリア それ以下よ。
リュウジ 何!
グロリア いいから、食べなさい。そうだ、これは私のおごりね。
リュウジ ……。
グロリア そう、じゃあ。ここに置いておくわね。足の具合はどう?
リュウジ よくねえよ。
グロリア
(嬉しそうに)うちから救急箱持ってきたの。ちゃんと消毒して、包帯巻きましょ。

 袋から救急箱を取り出し、リュウジに近づくが、リュウジは救急箱を取り上げる。

リュウジ 一人でできる。
グロリア そう。

 一人で手当てを始めるリュウジ。グロリアは、その様子を見ている。

リュウジ 見てんじゃねえよ。血、嫌いなんだろうが。
グロリア ちょっと怖いもの見たさ。
リュウジ ふん。
グロリア そうだ。これ、飲んでね。

 とバッグから薬を取り出す。

リュウジ 何だよ、それ?
グロリア 精神安定剤。これ以上、暴れないように。
リュウジ ……。
グロリア 嘘よ。抗生物質。化膿止め。
リュウジ 本当だろうな?
グロリア やだ、冗談も通じないの?
リュウジ どうしたんだよ、そんなもの?
グロリア 薬剤師の友達にもらったの。
リュウジ おい、お前……。
グロリア 大丈夫よ、あんたのことは何も話してないから。
リュウジ ……。
グロリア 信じなさい。
リュウジ 信じられるかよ。
グロリア まあ、いいわ。とにかく、早く治って、早く出てってよね。私の願いはそれだけだから。
リュウジ 俺もだ。

 リュウジは怪我の手当をしている。
 少し離れて見ているグロリア。

グロリア ねえ、何してたの、今日一日。
リュウジ 何も。何ができるっていうんだよ、こんな格好で。
グロリア そうよね。
リュウジ お前は?
グロリア え?
リュウジ お前は何してたんだよ、今日一日?
グロリア 別に何も。会社行って、仕事して、帰って来て。
リュウジ
(驚いて)サラリーマンなのかよ?
グロリア ていうかOLだけど。何か文句ある?
リュウジ ……ねえよ。

 間

グロリア 昼間考えてたの、仕事しながら。これって、とっても「ミザリー」みたいだなって。
リュウジ これって何だよ?
グロリア 今の私たち。
リュウジ 何だ、その「ミザリー」って。
グロリア 映画。知らないの?「ミザリー」?
リュウジ アクションものか?
グロリア 違う、ちょっとホラー。
リュウジ どんな話なんだ、それ?
グロリア 聞きたい?
リュウジ 聞きたくねえよ。どうせ下らないんだろ?
グロリア そんなことないわよ。原作がスティーブン・キングだから、とっても怖いの。知ってる、スティーブン・キング? 「シャイニング」とか「スタンドバイミー」とか。
リュウジ 聞かれたことだけ話せよ。
グロリア そう。流行作家が雪の山道で事故に遭うの。でね、意識を失って、目が覚めるとベッドにいるの。彼は足に大怪我をしてるんだけど、きちんと手当をされてるのね。一体、誰がこんなことをしたんだって思うと、女が現れるの。その女はその作家の熱狂的なファンでね、甲斐甲斐しく看護をするの。だけど、そのうちに作家がずっと書いてる小説の主人公、彼女の名前が「ミザリー」っていうんだけど、彼女が悲惨な結末を迎えちゃうってことがわかると、その結末を変えるように命令するの。命を救ってやったかわりに、小説を書き直せっていうわけ。その女っていうのが、ものすごく太ったブスな女でね、気に入らないことがあると、ヒステリーの発作なんか起こしちゃうわけ。こわいのよ、これが。でね、作家はそのブスから何とか逃げ出そうとするんだけど、絶対無理なの。足に怪我してるし、そこは人里離れた山小屋だから。
リュウジ ラストは?
グロリア まあ、何とか逃げ出すんだけどね。
リュウジ そうか……。
グロリア 何、ほっとしてんのよ?
リュウジ 他人事とは思えない。
グロリア あら、私、そんな手荒なことしてないじゃない。それに、私、デブでもブスでもないわ。
リュウジ ……。
グロリア 信じなさい。
リュウジ よく見るのか、映画?
グロリア うん。大好き。あんたは?
リュウジ たまにビデオ見るくらいだな。
グロリア ビデオなんかだめよ。ちゃんと映画館に行かなきゃ。映画館に行って、椅子に座って、暗い中で、映画だけを見るの。ビデオなんて、だめよ。
リュウジ 映画館なんて一々行ってられねえよ。カップルばかりでむかつくぜ。
グロリア ねえ、あんた、彼女いないの?
リュウジ うるせえな。お前に関係ねえだろ。
グロリア そうね。最近何か見た?
リュウジ 映画か?
グロリア ビデオでも。
リュウジ ああ、「スターウォーズ」。
グロリア 「ファントムメナス」?
リュウジ いや「ジェダイの復讐」。
グロリア 話にならないわね。
リュウジ 放っとけよ。そうだ「グロリア」が出てくるのは、どんな映画なんだ?
グロリア 知りたい?
リュウジ いちいち聞き返すなよ。知りたいから聞いてるんだろうが。
グロリア わかったわ。でも、ちょっと長くなるわよ。
リュウジ あらすじだけでいいぞ。
グロリア そんなの無理よ。長い映画なんだから。それに、大好きな映画だから、簡単になんか話せない。大好きなシーンがいっぱいあるの。
リュウジ いいから、話せよ。
グロリア そうね、わかった。じゃあ、話すわね。舞台はニューヨークのブロンクス。ボロボロのアパート。父親がマフィアの会計士をやってる一家の部屋。この父親ったら帳簿を誤魔化してたうえに、警察にたれこんでたのね。ところが、それがばれちゃって、一家が皆殺しになっちゃいそうなわけ。いかつい男が何人もアパートの入り口のところに張り込んでるの、銃を持って。一家は、逃げ出す支度で大忙し。母親は父親を責めるの。「みんなあんたが悪いのよ」って。みんなハラハラしながら支度をしてる。そうすると玄関のチャイムが鳴るの。父親は言うわ。「おい、開けるんだ」「いやよ、あなた開けてよ」父親がビクビクしながらドアを開けると、そこに彼女が立ってるの。それがグロリア。「コーヒー切らしちゃって」それから、部屋の様子を見て「取り込んでるみたいね」って言うの。グロリアは四十代後半のおばさん。でも、ただのくたびれたおばさんじゃない。ジーナ・ローランズって女優がやってるんだけど、若い頃はすっごいビッチな女だったに違いないって感じなの。
リュウジ なんだよ、ビッチって?
グロリア ああ、何て言ったらいいのかな。あばずれ。ちょっと違うかな。でも、私たちは、すっごいイカした女のことを「ビッチ」っていうの。グロリアは、お化粧も濃いし、アイラインなんか上下しっかりひいてる。このシーンでは、パジャマの上にトレンチコートを羽織ってる。もういい加減昼間なのに、そういう女なの。髪もブロンドなんだけど、染めてることは間違いないってかんじ。父親は彼女に頼むの。フィルっていう六歳になる下の子を連れて逃げてくれって。必死なのよ。でも、グロリアは断るわ。「私、子供は嫌いなの。特にお宅の子供たちは」。ちょっとイカしてるでしょ。こういうこと平気で言っちゃうの。それでもね、結局、グロリアは引き受けるの。しょうがないから。父親は帳簿の秘密が書いてあるノートをフィルに渡して、二人を送り出すと、ドアを閉めるわ。フィルはいやがるの。だって、こんなおばさん大嫌いなんだもん。でも、父親はドアの向こうから叫ぶの。「言うことを聞け! 強くなって誰も信じるな」って。フィルはグロリアの部屋に行くわ。小綺麗に住んでるちょっと洒落た雰囲気の部屋。一人暮らしの大人の女の部屋よ。殺し屋たちは階段を上がってくるわ。フィルは父親のところに電話をするの。「帰っちゃだめ?」って。父親は「おばさんと一緒に逃げるんだ」って言うの。それから「おばさんに代われ」って。グロリアがフィルから受話器を受け取ると、そのとたんに電話の向こうからものすごい爆発の音が聞こえるの。やつらが爆弾を投げ込んだのよ。窓枠も吹っ飛んだわ。グロリアは黙って電話を切るの。そう黙って。フィルは言うわ「お姉ちゃんに会いたい。パパに会いたい。おばさんなんか大嫌いだ」って。グロリアは言うの。「こう思いなさい。これは夢だって。よくあるでしょ。夢の中で殺されたり、ものすごく怖い思いをする。でも、目が覚めると何でもないの。そう、全部夢だと思いなさい」
リュウジ 悪夢だな。
グロリア そうね、家族がみんな殺されちゃったんだから。
リュウジ 本当に悪夢だぜ。俺がオカマの世話になるなんてよ。
グロリア 私だって、そうだわ。ドジなチンピラの世話しなきゃなんないなんて。
リュウジ
(強く)お前、チンピラ、チンピラって言うのやめろよな!
グロリア
(強く)じゃあ、あんたも、オカマ、オカマって言うのやめて!
リュウジ ……。
グロリア ……いい? 私はグロリアよ、今のところ。ミザリーじゃなくて。だけど、あんまりいつまでも威張ってばかりいると、ミザリーにもなれるんだからね。覚えときなさい。
リュウジ おもしれえじゃねえかよ。オカマに何ができるっていうんだよ。
グロリア そうね、こんなのはどう? 外に出て、あんたによく似た安っぽい格好したチンピラに声かけてみるの。「ちょっとあんたこういう若い男知らない?」って、あんたの特徴話して、「その男なら、町外れのマンションの地下室で足に怪我してうなってるわよ」って親切に教えてあげるの。
リュウジ ……。
グロリア
(笑って)嘘よ。そんなことしないって。だから、ねえ、リュウジ。
リュウジ 気安く呼ぶな!
グロリア 話してくれたっていいじゃない。何でこんなことになったのか。悪いけど、私、あんたの命の恩人よ。少しぐらい感謝してもらったっていいと思うんだけど。
リュウジ うるせえな。少し黙ってられねえのかよ。ペラペラペラペラいつになったら黙るんだ。
グロリア 私ね、しゃべってないと生きてる気がしないの。しゃべらないで黙ってるのは一番の苦痛。今日一日何だか元気が出ないのは何でかしらって考えると、朝から誰ともしゃべってなかったりするの。一人旅なんか絶対できないわ。気が狂って死ぬと思う。
リュウジ じゃあ、独り言でも言ってるんだな。
グロリア 言ってたのよ。あんたがここに来るまでは、ずっと。でも、あんたがここにいるんだもん、一人でしゃべってるわけにもいかないじゃない。
リュウジ 俺のことなら気にするな。
グロリア 悪いけど、私の話し相手になってもらうわ。
リュウジ ……。
グロリア じゃあ、続きね。グロリアは、フィルを連れて部屋を出るの。フィルはグロリアを振り切って、廊下を駆け出すの。自分の家に向かって、叫びながら。グロリアは追いかけるわ。何が起こったのかと思って怪訝そうに見てる近所のおばさん連中の前を。やっとの思いで捕まえて、フィルを何とか抱きかかえるの。片手には、ウンガロのドレスが入った大きなバッグ。グロリアは、このバッグをいつも持ち歩くの。

 リュウジは、わざとグロリアに背を向ける。

グロリア ……そう。じゃあ、しょうがないわね。

 グロリア、立ち上がり、ラジカセのスイッチを入れる。
 豪華な音楽が流れ出す。

リュウジ よせよ!
グロリア やーよ!
リュウジ いいから、止めろ。頭に響くんだよ。

 グロリア、音楽を止める。
 長い間

リュウジ お前、こんなとこで何してんだよ。
グロリア 練習してるの。
リュウジ 練習って何の?
グロリア ショーよ。
リュウジ ……。
グロリア 別に大したことじゃないのよ。毎年、仲のいいゲイが集まって、クリスマスにパーティをやるんだけど、その練習。
リュウジ それ金になるのか?
グロリア なるわけないじゃない、何言ってんのよ。
リュウジ 下らねえな。
グロリア そうよ、すっごく下らないし、すっごく意味がないの。でも最高に楽しいわよ。
リュウジ わかんねえやつらだな。
グロリア 結構よ、別にあんたにわかってもらおうとは思ってないから。
リュウジ でも、なんでわざわざこんなとこに潜り込んでるんだよ?
グロリア そんなの私の勝手でしょ! じゃあ、今度はあんたの番。
リュウジ ……。
グロリア 何で追われてんの?
リュウジ ……。
グロリア 私は話したのよ。
リュウジ ……。
グロリア 男らしくないわね、本当に。
リュウジ お前に言われる覚えはない。
グロリア 約束したじゃない、私が話したら話すって。
リュウジ いつしたんだよ、そんな約束?
グロリア したわよ、さっき。
リュウジ お前なあ‥‥

 などと言い争っていると、梯子の上でドアの閉まる音がする。
 緊張する二人。

グロリア 見てくる。
リュウジ おい……。
グロリア わかってるわよ。

 グロリア、梯子を上がって上の様子を見に行く。
 リュウジは、何とか立ち上がり、部屋の隅に隠れる。
 しばらくして、グロリアが下りてくる。

グロリア 誰もいない。風ね、きっと。猫かもしれない。
リュウジ ……。
グロリア 明日、外から鍵かけておくようにするわ。そうしたら誰も入ってこれない。
リュウジ ……!
グロリア 平気よ、誰も見に来たりしないから。その方があんただって安心でしょ? 違う?
リュウジ ……まあな。

 間

グロリア コーヒー飲む? 煎れて来たの。

 グロリア、返事を待たずに袋の中から魔法瓶をとりだし、紙コップにコーヒーを注ぐ。

グロリア 誤解しないでね。私が飲みたかったからだから。

 二人、黙ってコーヒーを飲んでいる。

リュウジ クソッ!
グロリア ……。
リュウジ つまんない話だぜ。
グロリア 何が?
リュウジ 何で逃げてるかだよ、オレが。
グロリア いいわよ、別に期待してないから。どうせ大した話じゃないでしょ。ウソ、本当はすっごい期待してんの。
リュウジ オレ、渋谷とか六本木とかで、ずっと遊んでたんだ。そしたら、ダチってほどじゃないけど、よく顔見てたやつがさ、「いいバイトあんだけど」って。そいつ結構やばいことやってんのは知ってたんだけどさ、カネも欲しかったし、ま、いいかと思って。
グロリア やばいことって何?
リュウジ クスリ。
グロリア って覚醒剤?
リュウジ オレは車運転してただけなんだけど。
グロリア ちょっと何よ、それ? じゃあ、あんた「ヤクの売人」ってわけなの?
リュウジ だから、車運転してただけなんだって。
グロリア ……。
リュウジ はじめのうちはさ……
グロリア ……。
リュウジ そのうちにいろいろと……
グロリア いろいろって何?
リュウジ え? ハッパとかピストルとか、いろいろあんだよ。
グロリア じゃあ、あんたももしかして、人間やめてるクチなわけ?
リュウジ オレはやってねえよ。
グロリア そう、エラかったわね。
リュウジ でも、そのうちにそうもいかなくなって。誰かが警察にたれ込んだらしくってさ。事務所にガサ入れがあったらしいんだよ。そのときは誰も上げられなくてすんだんだけど、誰がたれ込んだんだってことになって。オレ、もうめんどくさくなってさ、いつまでもこんなことやってらんないしとか思って、しばらく連絡とんないでバックれてたら、久しぶりに顔出したクラブでとっつかまって。無理矢理事務所連れてかれて。ヤキ入れるとかって話になって。オレもうマジ切れしちゃってさ、もみ合ってるうちに、気がついたら、オレ、兄貴のピストル持ってたんだよ。まずいと思ったけど、もうこうやって突きつけてて、そのまま事務所飛び出して走ってた。オレ、何もしてないんだぜ。マジで。なのにあいつら、オレのこと……

 間

リュウジ 何黙ってんだよ。何かしゃべれよ。
グロリア ……。
リュウジ そうだ、グロリアはそれからどうなるんだよ?
グロリア グロリアは、フィルを連れて逃げるの、アパートを出て……
リュウジ それから? 
グロリア ……。
リュウジ どうしたんだよ、話せよ。聞いてやるから。話してないと気が狂って死ぬんだろ? 話せよ。映画の続きを。
グロリア ……ごめんなさい。また明日ね、
リュウジ 明日?
グロリア ちゃんと思い出せそうにないの。でも、心配しないで、全部話してあげるから。だって、最高にイカした映画なんだから、本当に。
リュウジ ……。
グロリア お楽しみはこれからよ。

 グロリア、ラジカセのスイッチを入れる。
 流れ出す、明るい音楽。


                               暗 転

.

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