美女と野獣
Kiss changes everything?

第5場・第6場

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 翌朝。
 朝日が射している。
 リュウジはソファで夕べのまんま。グロリアはテーブルに突っ伏して眠っている。
 やがて、グロリアが目を覚ます。
 立ち上がり、リュウジの額に手を当ててみる。
 熱は下がったらしい。
 もう一度さわってみる。
 リュウジが目を覚ます。
 グロリア、あわてて知らん顔をする。

グロリア 気分はどう?
リュウジ ああ。
グロリア また見た? 怖い夢?
リュウジ いや。
グロリア よかったわね。熱下がったみたいで。よっぽどやだったのね、病院に連れてかれるの。

 リュウジ、起きあがろうとする。

グロリア まだ、寝てなさい。無理しないで。

 リュウジ、ソファの上に起きあがる。

リュウジ 朝だな。
グロリア そう。なんだかすっごいいい天気みたいね。こここんなふうになるんだ、朝。初めてなの、朝までここにいたの。

 リュウジ、グロリアを見ている。

グロリア やーね、何見てんのよ。朝日浴びたら、溶けてなくなるとでも思ってた、私。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」みたいに?
リュウジ ああ。
グロリア 悪いけど私不死身なの。でも、眠くて死にそう。
リュウジ ずっと起きてたのか?
グロリア そうよ、あんたの寝顔見ながら。
リュウジ ……。
グロリア ウソよ。私、そこまで尽くすタイプじゃないの。
リュウジ なんだか借りつくっちまったな。
グロリア 本当よ、いつか返してね。まあ、当てにしないで待ってるから。そんなことより、さっさと治って出てってちょうだい。私の願いはそれだけだから。
リュウジ オレだって。
グロリア じゃあ、行くわね。
リュウジ ああ。
グロリア いいわよね、あんたは一日何もすることなくて。私なんか、これから、家帰って着替えて、会社行くのよ。ラッシュにもまれて。もう信じられないわ。……じゃあね。

 グロリア、出ていこうとする。

リュウジ じゃあな、グロリア。

 間
 グロリア、リュウジのそばに戻ってくる。

グロリア 何か欲しいものある? あるなら言いなさい、買ってきて上げるから。
リュウジ いいって。
グロリア サービスのついでよ。いいから、言いなさい。
リュウジ ……そうだな、じゃあ、新聞。それからマンガ、スピリッツかモーニング。ジャンプでもいいや。
グロリア それから、着替えもいるわね。サイズはM?
リュウジ ああ。でも……
グロリア 私の持ってきたりしないから、ちゃんと新しいの買ってくるわよ。それから……?
リュウジ それから、タバコ。マルボロがいいな。それから……そんなとこか。
グロリア OK、かしこまったわ。夜まで覚えてたら持ってきて上げる。じゃあ、リュウジ、それまでおとなしくして待っててね。そうだ、あんた、あんまり退屈だったら、そのへんのドレス着て遊んでてもいいわよ。
リュウジ するかそんなこと。
グロリア あら、遠慮しっこなしよ。
リュウジ 遠慮じゃねえよ。
グロリア そうね、サイズが合わないか。じゃあね、……行ってきます。

 グロリア、梯子を上って出ていく。
 リュウジ、グロリアを見送っているが、やがて窓の方に目を向ける。
 朝日がまぶしい。

暗転

*          *           *

 その日の夜
 グロリアが、いくつも持ってきた袋から、いろいろなものを取り出している。

グロリア どういうことよ、もう一度話せって。
リュウジ 最後の方、何だか、うろおぼえなんだよ。いいじゃん、な?
グロリア 失礼しちゃうわね。どこまで覚えてるの?
リュウジ ガキがいろいろ質問するところ。
グロリア 「僕のこと好き」って?
リュウジ そうだった。
グロリア じゃあ、しょうがないわ。再放送ね。いい? フィルは聞くの。「大きくなって強くなったら、怖いものなんかなくなるかな」「私は平気よ」「怖い夢も?」「全然」「夢見ないの?」「見ないわ」「目を閉じたら終わり?」「一体何が言いたいわけ、あんた?」グロリアは尋ねるわ。そうすると、フィルは言うの。「ねえ、恋したことある?」グロリアは言うわ「よしてよ、子供のくせに。私はあんたの倍も体重があるのよ。黙って寝なさい」そう言って、フィルを押し退けるの。フィルはベッドから転がり落ちるんだけど、すぐにはい上がってきて、グロリアのとなりで眠るの。
リュウジ ……。
グロリア 言っとくけど、私はあんたの倍も体重ないわよ。
リュウジ 何も言ってねえよ。
グロリア 何か言いたそうな顔してたから。
リュウジ お前はいないのか、恋人とか?
グロリア 何なの突然?
リュウジ 素朴な疑問だよ。毎日、毎日、ここにばかり来てるし、どうなのかなと思って。
グロリア いないわよ。だから、こうやって毎日、あんたの世話やいてても、誰にも文句言われないってわけ。
リュウジ そうだ。前から聞こうと思ってたんだけどさ、あの写真、誰なんだ?
グロリア 写真? あんた、ガルボもディートリッヒも知らないの? 本当話にならないわね。
リュウジ そうじゃなくて、あれ。お前と二人で写ってるやつだよ。
グロリア え? ああ、それ。友達。
リュウジ いや、嘘だ?
グロリア 何なのよ。何、決めつけてんのよ?
リュウジ 俺が気がつかないとでも思ってるのか。わかったんだ。お前が嘘付いてるときの癖。腕組んで唇触りながらしゃべる時は、大抵嘘だ。
グロリア やーね、もう、何観察してんのよ。
リュウジ 図星だろ?
グロリア
(ため息)そうね、その通りよ。
リュウジ 恋人なのか?
グロリア 昔のね。
リュウジ 別れたのか?
グロリア まあね。遠くに行っちゃったの。
リュウジ 死んだのか?
グロリア もっと遠くよ。結婚して田舎に帰ったの。思い出しても腹が立つわ。
リュウジ マトモに戻ったってことか?
グロリア そういうこと。私は、一時の気の迷いだったってわけ。むかつくわ。
リュウジ でも、じゃあ、何でいつまでも写真持ってるんだ?
グロリア 決まってるじゃない。私がよく撮れてるからよ。隣は単なる背景。
リュウジ どのくらい付き合ってたんだ?
グロリア もういいじゃない。始めるわよ。
リュウジ いや、こっちの方がおもしろい。
グロリア やめてよ、もう。わかったわよ。簡単にね。別れたのは、去年の今頃。付き合ってたのはちょうど三年かしら。以上。
リュウジ それから?
グロリア それから? ……わかったわよ。その男ね、ここに住んでたの。この上に。だから、しょっちゅう来てたの、このマンション。一度、そいつが会社に部屋の鍵忘れてきたことがあってね、入れなくて、まわりうろうろしてたときに、ここの入口見つけたの。おもしろそうだって、恐る恐る二人で入ってみたのが、ここに来た最初。こないだ久しぶりにここに来てみたとき、驚いたわ。このマンションが取り壊されるだけになってたんで。
リュウジ 何で来たんだ? わざわざここに?
グロリア わざわざじゃないのよ。ついでがあったからよ。そういうとこってない? ちょっと懐かしくって、よせばいいのにと思いながら、ついつい、ふらっと行っちゃうところ。
リュウジ よくわかんねえな。
グロリア 私にはここがそうだったのよ。それでね、もしかしたらと思って、周り歩いてたら、やっぱり、ここの入口だけ、開いてたのよ。どういうわけだか。だからね、ちょっと忍び込んでみたわけ。
リュウジ よくやるよな。
グロリア でしょ? 最初は、ちょっと怖かったの。でも、平気。だって、前に来たことあるんだもん。それからは、もうしょっちゅう。私もあんたも便利に使ってるってわけ。
リュウジ で、今は一人ってわけか?
グロリア まあね、そういうこと。でもさ、この頃しみじみ思うのよ。一人が一番だなって。
リュウジ どうして?
グロリア だって、友達ならたくさんいるし、何も困ることなんかないわ。一人でだって全然生きていける。そうじゃない?
リュウジ まあな。
グロリア それに、いいのよ、私、どうせモテないから。もう年だし、オネエだもん。
リュウジ 何だよ、オネエって。
グロリア 女っぽいゲイのこと。しかもコテコテの。そういうゲイはモテないのよ。基本的に。
リュウジ 何で?
グロリア ゲイはみんな「男」が好きだからでしょ。だから、私たちみたいな豪華な「女」はお呼びじゃないの。とにかく、需要と供給のバランスがとれてないってことは確かなの。だから、世の中には、私みたいな豪華な女が死ぬほどあふれてるのよ。
リュウジ だったら、やめればいいんじゃないのか。わざわざ女っぽくするの。
グロリア 話はそんなに簡単じゃないのよ。「私は私らしく生きていきたいの。自分を偽って、若く、男っぽくしてまで、どうにかしようとは思わないわ」なんて言っていられるうちはいいのよ。正直、今はもうどうでもいいの。面倒くさいだけ。自分を変えるのが。それに比べたら、一人でいることなんて、何でもないわ。
リュウジ それって、年取ったってことじゃないのか?
グロリア 失礼ね。それが私の選んだ生き方なの。それだけのことよ。
リュウジ ふん。
グロリア あんたはいないの?
リュウジ 何が?
グロリア 恋人よ。決まってるじゃない。だって、ここに隠れてもう一週間よ。連絡もしないで、心配してる女の子とかいないわけ?
リュウジ いねえよ。
グロリア あらそうなの。何だか意外だわ。あんたたちって、激しいドロドロの恋愛繰り広げてるもんだとばかり思ってた。「極道の妻たち」みたいな。
リュウジ そんな暇ねえんだよ。
グロリア だって、クラブなんて、そういうやりたがりの女の子でいっぱいなんじゃないの? 誘惑されたりしないわけ?
リュウジ 苦手なんだよ、ああいう女は。
グロリア じゃあ、どういう女なら得意なわけ?
リュウジ 聞いてどうすんだよ?
グロリア 参考にしようと思って。
リュウジ ……。
グロリア ウソよ。ねえ、恋したことある?
リュウジ うるせえな。
グロリア いいじゃない。そういう話するの嫌い?
リュウジ 下らねえよ。
グロリア でも、私は、話したのよ。
リュウジ そんなことより、いいから、話せよ。グロリアの続き。
グロリア もう、はぐらかして。……わかったわよ。でも、ちょっと待ってて、着替えるから。マンガでも読んで待ってて。

 グロリアは、ついたての陰で着替えを始める。

リュウジ あれは、お前がいないときのために取っておく。いいから、始めろよ。
グロリア あんた、本当に私のこといいように利用してるわね。グロリアはフィルをタクシーに乗せて、墓地に行くの。ピッツバーグへ逃げる前に、お祈りしましょうって言って。何だかそういうところ古臭いっていうか、義理堅いっていうか、そういう女なの、グロリアって。義理と人情で生きてるっていうか、そのわりには、昔の知り合い、バンバン撃ち殺しちゃうんだけどね。
リュウジ めちゃくちゃな女だよな。そんなことしたら、すぐにやられるぜ、マジな話。
グロリア まあね。だから、グロリアは追われてるんだけど。でも、しょうがないのよ。フィルを守るためなんだから。フィルは、自分の目の前でグロリアがマフィアの連中を撃ち殺すのを見て「ありがとう、僕のためにしてくれたんだね」って言うの。グロリアは言うわ。「私を殺そうとするやつは殺すのよ」って。あれ、これって、もっと後のシーンで言うんだったかしら。ちょっと待って……。
リュウジ いいから、続けろよ。
グロリア ちゃんと聞いてるの?
リュウジ 聞いてるって?
グロリア そうね。二人はタクシーを下りるの。フィルは聞くわ「ここはどこ?」「どこでもいいわ」「ここにパパたちがいるの?」グロリアは答えるわ。「いないけど、祈りなさい。死んだ人の魂は同じ所に集まるんだから、お別れを言うのよ」って。「さあ、どれも立派よ。好きなの選んで、お祈りしなさい。私はここで待ってるから」。フィルはお墓の前で話しかけるの、もちろん誰のお墓か知らないのよ。「パパ、元気? とっても会いたいよ。みんなの夢を見たよ」って。それだけ言って、グロリアのところに歩いて行くの。ねえ、あんたって、どこの生まれ?
リュウジ 何なんだよ、突然?
グロリア ちょっと聞いてみたくなったの、どこ?
リュウジ ……金沢。
グロリア あら、いいところじゃない。
リュウジ そうでもねえよ。
グロリア 昔、遊びに行ったことあるわ。きれいな公園があって……
リュウジ 兼六園か?
グロリア そうそう。
リュウジ もう、ずいぶん帰ってないな。
グロリア どのくらい?
リュウジ 五年? 六年か……
グロリア 待ってる人はいないの?
リュウジ ……。
グロリア いいのよ、別に。何でもないの。
リュウジ どうしたんだよ、急に?
グロリア だって、そういうことっていろいろあるじゃない、家族のこととかって、結構微妙で、触れられたくないことってあるから。
リュウジ 俺、別にないぞ。
グロリア そう。なら、いいんだけど。
(着替えて出てくる。ふざけて)恋したことある?
リュウジ ねえよ。
グロリア 何てかわいそうなの。しょうがないわね。じゃあ、いいわよ、私に恋しても。
リュウジ するかよ。
グロリア あら、遠慮しっこなしよ。

 などと言いながら、メークを始める。
 リュウジはグロリアを見ている。

リュウジ 恋じゃないけど、付き合ってたやつならいたな。
グロリア 何よ、恋じゃないけど付き合ってたって?
リュウジ 俺何とも思ってなかったから。高校の頃。手紙もらってさ。そいつ、すっごいおとなしい、勉強できるやつでさ。何で俺なのかよくわかんないんだけど。まあ、いいかなと思って、つきあってみたんだよな。
グロリア ふーん。
リュウジ そいつも映画が好きでさ、お前みたいに。見に行ったぜ、何度か。
グロリア どんなの?
リュウジ アニメ。ディズニーの。
グロリア 可愛らしいんだ。健全な高校生のデートってかんじ。
リュウジ そうか。俺、ああいうの苦手なんだよな。
グロリア 子供っぽくてやってらんない?
リュウジ それもそうなんだけど……。みんな最後ハッピーエンドで終わるじゃん。
グロリア まあ、そうね。
リュウジ 俺さ、あの後、どうなっちゃうんだろうなって考えちゃうんだよな。
グロリア は? どういうことよ?
リュウジ だから、二人はいつまでも幸せに暮らしましたってやつ。そんなにうまく行くわけないとか、思っちゃうんだよな。どうしても。

 間

グロリア ……あんたって変なこと考えるのね。
リュウジ 考えないか、普通?
グロリア 考えないわよ。
リュウジ 気になるんだよな。あんなにうまくいくわけないとかって。
グロリア ばかね。だから、いいんじゃない。キスひとつするだけで、すべてが変わる。そこがああいう映画のいいところなのよ。
リュウジ まあ、そうなんだろうけどな。
グロリア あんたって、変なところで、妙に想像力があるのね。「二人はいつまでも幸せに暮らしました」か……。まあ、確かにキスしただけですべてが変わるんなら、話は簡単なのよね。
リュウジ だろ?
グロリア でもさ、それは、私たちが、そんなものすごいキスにまだ巡りあってないだけの話かもしれないじゃない。
リュウジ そんなことあるわけないだろ。それに、ものすごいキスってどんなキスだよ?
グロリア 想像できないくらいすごいの。
リュウジ 勝手に言ってろ。
グロリア でも、だから、そこで映画は終わるのよ。いい夢を見たわって。みんなそう思って、映画館を後にするの。
リュウジ 無責任だよな。
グロリア いいのよ、それで。
リュウジ なんで?
グロリア だって、そんなこと言ってたら、どんな物語だってみんな、ちょっと後味の悪い、シリアスな大河ドラマになっちゃうじゃない。映画は夢よ。あんただって、そんなのいやでしょ?
リュウジ まあ、そうだけど……
グロリア ねえ、あんた、もしかして、その子にそんなこと言ったわけ?
リュウジ ああ。
グロリア びっくりしてたでしょ。
リュウジ ちょっと、ショックみたいだった。
グロリア バカね。で、終わったんだ?
リュウジ 終わったも何も、手もつないでないんだぜ。
グロリア 今どうしてるの、その子?
リュウジ 知らねえよ。もうとっくに結婚でもしてんじゃねえか。
グロリア それに引き替え、あんたは(言いかけて止める)……
リュウジ ……
グロリア こんなとこでオカマの世話になってる。

 間

リュウジ あーあ、映画みたいにうまくいかないかな。
グロリア え?
リュウジ 何だか、とんでもなくいいことがあって、俺が超ハッピーになる。
グロリア 何なの、あんたの超ハッピーって?
リュウジ とにかく、今みたいじゃないってことかな。
グロリア 言わせてもらうけど、あんた、今、ここでこうしてられるの、超ハッピーじゃなくても、「そこそこ」ハッピーだとは思わないわけ?
リュウジ 何でだよ?
グロリア 放っといたら、あんた、そのケガがもとで死んでるか、ヤツラに捕まって死ぬか、警察に捕まるかのどれかよ。それが、ここでこうやっていられるんじゃない。
リュウジ でも、お前につかまってる。映画好きのおしゃべりなオカマに。
グロリア 感謝しなさい。映画みたいにゴージャスでハッピーだって。
リュウジ 確かに現実ばなれしてるよな。そうか、これは映画だったのか?
グロリア もう、何言ってんのよ。バカね。

 間

グロリア ねえ、リュウジ。ここ出てから、どうするつもり?
リュウジ さあな。
グロリア ……。
リュウジ まだ決めてないんだ。マジで。部屋に戻ったら、ヤツラが待ち構えてるだろうし。どうするかな?
グロリア ねえ、ずっとここにいるっていうのは?
リュウジ こんなとこにいつまでもいられるかよ。
グロリア じゃあ、うちに来たっていいのよ。もし、どこにも行くとこないんだったら。そりゃ、それだって、いつまでもってわけにはいかないけど……。
リュウジ そんなことできるかよ。
グロリア あら、私、本気よ。皆で飼ってた野良犬が、うちの犬になるだけの話だもん。そういうのもう慣れっこだから。
リュウジ ……。

 間

グロリア ずいぶんおしゃべりしちゃったわね。やだ、もうこんな時間。さてと、じゃあ、始めようかな。

 と、ラジカセに近寄り、テープを選び始める。

グロリア ねえ。悪いけど、また、今日も感想言ってちょうだいね。
リュウジ 何度も言うけど、俺、何にも、わかんないぞ、そういうこと。
グロリア いいのよ。別に、大した意見求めてるわけじゃないから。今の私には、誰かに見られてるってことが大事なの。別に誰だっていいのよ、犬でも、猿でも。
リュウジ 何だよ、猿って……

 グロリア、テープのスイッチを入れる。流れだす音楽。
 やがて身振りをつけて歌い出す。
 リュウジ、グロリアをしばらく見ているが……

リュウジ なあ、グロリア。お前が言ってたあれだけど……
グロリア 何?
リュウジ 俺、誰に似てるんだ?
グロリア どうしたの急に?
リュウジ 前に言ってたじゃないか? 俺誰に似てるんだ?
グロリア そんなこと言ったかしら?
リュウジ 言っただろ? 初めて会った時。
グロリア そうだっけ。もう忘れたわ。だから、いいのよ、もう、あんたも忘れて。

 グロリア、歌っている。

暗転

 

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