Four Seasons 四季
関根信一

●その2●

<<<その1<<<

>>>その3>>>

第二場 秋「ペットと恋人」

 誰もいない庭。秋の午後。いい天気。
 理彦がバーベキューセットを持って登場。

理彦 このへんですか?
太一 (声のみ)いいわよ! キャー!(すごい悲鳴)

太一がやってくる。いろいろと荷物を抱えている。すぐにわかるが、これは、これからここで始まる「バーベキュー大会」のための彼の手料理の数々である。

太一 ああ、びっくりした。猫、猫、野良猫が私の足下走っていったの。見たことある、黒くて、鼻の頭だけが白いやつ?
理彦 ええ。
太一 もう、誰かえさやってるんじゃないかしら? もう、いやだわ、すっかりいついちゃって。
理彦 猫、嫌いなんですか?
太一 やだ、あんたなの?
理彦 いえ、でも……
太一 でも、何?
理彦 別に。
太一 いいから、言いなさい。
理彦 平谷さんが、そこのローソンで猫缶買ってるの見ました。
太一 猫缶?
理彦 モンプチ。
太一 これね?

と猫缶の空き缶を出す。

理彦 何で持ってるんですか?
太一 そこに落ちてたのよ。やっぱりそうだったのね。もう、とっちめてやらなくちゃ。
理彦 あの、ここってペット飼っちゃいけないんですか?
太一 野良猫はペットとは言わないでしょ? 飼うなら飼うでちゃんと責任持たなきゃだめよ。さ、じゃ、さっさと支度しましょ。

太一、風呂敷に包んだ重箱を広げる。

理彦 すっげー!
太一 これ、そっちに置いて。
理彦 あ、一品持ち寄りって言われたんで、こんなものしかないんですけど。

とポテトチップスを出す。

太一 あら、「チップスター うすしお」! これって、並べ替えると「おすうし」になるのよね。
理彦 ……。
太一 パペット、マペット。(または「ジャンカジャンカジャーン!」)
理彦 ……。
太一 いいのよ。別に、何か食べるのが目的ってわけじゃないんだから何だって。相庭さんから聞いてると思うけど、二月に一度ね、こうやって集まって、みんなでご飯食べましょって。それだけなんだから。
理彦 今日はバーベキュー大会って田口さん。
太一 そうよ、もう平谷くんと二人して盛り上がっちゃって。今日だって、ホームセンターにバーベキュー用の燃料とか買いに行ってるんでしょ? もう、やーよ、バーベキューって、獣くさくなるから。
理彦 なんかすっごい久し振りです。こういうの。
太一 春はお花見、夏はビアガーデンって、理由つけちゃ、イベントにしたがるのよ、あの二人が。お花見なんて言ったって、ここからは桜なんて見えないのよ。
理彦 (目の前の木を見て)これ、桜じゃないんですか?
太一 違うんじゃない。花咲いてるの見たことないし。ねえ、先にちょっと飲んでない?
理彦 飲み会っていうよりは、ミーティングだって聞いたんだけど。
太一 いいのよ。ミーティングっていうよりも、結局は飲み会なんだから。はい(と缶ビールを渡す)。
理彦 あ……
太一 乾杯!

太一、ビールをおいしそうに飲んでいる。理彦は缶ビールを持て余している。

太一 ああ、おいしい。ビールって、なんで昼間飲むとおいしいかね。
理彦 あの、さっきの話なんですけど。
太一 何?
理彦 ペットって、やっぱりだめなんですか?
太一 何、何か飼いたいの?
理彦 いえ、そうじゃないんですけど……
太一 別にいいんじゃないの? 人に迷惑かけるんじゃないなら。ペットぐらい。別に男連れ込むわけじゃないんだし。そうよ、気にしない、気にしない。
理彦 あの?
太一 何?
理彦 いけないんですか、男連れ込んじゃ?
太一 何、誰か連れ込みたいの?
理彦 そうじゃないんですけど……、契約書には何も書いてなかったし。
太一 当たり前でしょ。契約書に「男を連れ込むことを禁ず」なんて書けるわけないじゃない。
理彦 それはそうだけど……
太一 私も初めはそう思ってたのよ。ゲイばっかりが住んでるんだし、真夜中に男連れ込もうが何しようがおかまいなし、やった、天国ね!って。でも、そうじゃなかったのよね。
理彦 へ?
太一 何て言うか、微妙なのよ。たとえばさ、家族と同居してるときに、突然、恋人連れてきて、一緒に泊まっちゃうって、むずかしいでしょ? ああいうかんじなの。
理彦 そうか……
太一 やだ、誰かいるの? 私には話しなさい。悪いようにはしないから。
理彦 あの、平谷さんから、聞いたんですけど、相庭さんと田口さんって前つき合ってたってほんとなんですか?
太一 そうよ。
理彦 そういうのはいいんですか?
太一 あそこんちは何ていうのかね。もう、きれいさっぱり何もない関係。ほら、ただの友達が、一緒に住んだりすると、もしかして、これからそういう関係になったらどうしようって心配になるじゃない? だから、一番安心なのは、やってみたけどダメだったってことがはっきりしてるパターンなのよ。あそこんちみたいに。
理彦 あの、太一さんってつき合ってる人とかいないんですか?
太一 なんで、否定の疑問文なの?
理彦 あちゃ……、つき合ってる人っているんですか?
太一 いません。もう、無理なのよ、デパガに恋はできないの! これまで何度転職しようと思ったか。売り場じゃ、ゲイのカップルがうれしそうに買い物してんのよ。それを見て「いらっしゃいませ」ってにっこりしてる私は何なわけ?
理彦 でも、そういう人もいないと。
太一 私は、そうじゃない人になりたいのよ! こっちの人に!
理彦 ……
太一 まあ、いいわ。で、何、あんたはどうなのよ?
理彦 ま、適当に。
太一 あーあ、いいわね、適当にしてて、恋人ができるなんて。ああ、若いってすばらしい……

と言いながら、新しい缶ビールに手を伸ばす。
理彦も缶ビールを開けて、太一に近づく。

理彦 あの、太一さんって、ここで一番古いんですよね。
太一 悪かったわね。
理彦 そうじゃなくて、これまで、彼氏と一緒に住んでた人とかっていないんですか?
太一 いないわよ。
理彦 (独り言)そうなんだ……
太一 何、あんた、まさか彼氏と一緒に住もうと思ってんの?
理彦 あ、それは……
太一 だめよ。きまりなんだから。
理彦 さっきと言ってることが違くないですか?
太一 いいのよ、とにかく、男は厳禁なの。ここは、男子禁制の清らかな修道院のようなアパートなの。
理彦 男子禁制って……
太一 ってことは、やっぱりそうなの? やだ、何? そういうことなの?
理彦 違いますって……

賢と茂雄がバーベキューセットを持って、登場。

賢  ちょっと、どうして待ってられないわけ?
太一 遅過ぎよ、あんたたち。何時だと思ってんの?
茂雄 弘毅も来てないじゃない。
太一 ちょっと買い物行ってくるんで遅くなるって電話あったわよ。それより、平谷さん、これは何ですか?
賢  空き缶。
太一 そうじゃなくて、あそこに落ちてたのよ。どういうこと?
賢  じゃあ、捨てとく。
太一 そうじゃないの! なんで、あんなとこにモンプチの空き缶が転がってるの?
賢  だから捨てとくよ、燃えないゴミは木曜日でしょ?
太一 そうじゃなくて!! あんた野良猫にえさやってるでしょ?
賢  うん。
太一 うんじゃないでしょ。やめてよ、そういうの。
賢  どうして?
太一 飼うならちゃんと部屋に上げて世話してちょうだい。
賢  だって、あがりたがらないんだよ。今のままじゃだめなわけ?
太一 だめよ。ペットは厳禁。そんないい加減な飼い方認められるわけないでしょ。
茂雄 何言ってんのよ、あんただって、飼ってるじゃない。ペット。
太一 あれはペットじゃありません。
理彦 何飼ってるんですか?
茂雄 金魚。
理彦 金魚? それってどんな?
太一 どんなってふつうのよ。
賢  こんなに大きいやつ。
理彦 すごいな。
太一 最初は、こんなに小さかったんだけどね。元々は、アロワナ飼ってたんだけど、あれってエサで金魚食べるのよ。生きてるやつ。で、毎日こうやってやってるうちに、なんだか憎らしくなっちゃってね。肉食っていうの? 肌にあわないのよね。残酷じゃない? だんだん金魚かわいそうになっちゃって。情が移るっていうの? あんまりエサやらないでいるうちに、アロワナ死んじゃって。で、金魚が残ったの。
茂雄 あんたの方が残酷よ。
太一 そんなことありません。
賢  金魚はペットじゃないっていうわけ?
太一 呼んでも返事しない生き物はペットとはいいません。
賢  そんなのズルだ!
太一 とにかく野良猫の餌付けは禁止です。
賢  そんな……

と言い合っていると、弘毅がやってくる。

弘毅 ごめんね、遅くなって。
太一 こういう時は大家さんに決めてもらいましょ。ちょっと聞いてよ、この人、野良猫に餌付けしてんのよ? ゴミも片づけないで。
弘毅 野良猫ってニャオンのこと?
太一 は?
弘毅 黒くって鼻の頭だけ白い。
賢  そうそう。
弘毅 かわいいよね。この頃さ、ニャオンって呼ぶと返事するようになったし。
太一 ……。
弘毅 何、どうかした?
太一 もういいです。
弘毅 みんなそろったし、じゃ、始めようか?

賢と弘毅、ビールを注いでみんなに渡す。

賢  (理彦に)あれ、友達来てるんじゃないの? 部屋にいたよね。呼んできたら?
理彦 え?
太一 友達?
理彦 そんな、誰もいないですよ。
賢  いたよ、さっき挨拶したもん、ベランダごしに。
弘毅 怪しいな、隠すところ見ると、彼氏だったりして?
茂雄 昨夜からいたよね。昨夜帰ってくるとき、二人で部屋に入ってくの見た。コンビニの袋持って。あれがそうなんだ?
弘毅・茂雄・賢 へええ!!
理彦 ……。
太一 (理彦に)このアパートの恐ろしさがわかったわね。こういうことなのよ!
理彦 ……。
弘毅 呼んでおいでよ。別にかまわないから。
太一 ちょっと待って、その前にはっきりさせましょう。それって友達なの、彼氏なの?
弘毅 いいじゃん、どっちだって。
太一 よくない!
茂雄 あんた、何ムキになってるの? みにくいわね。
太一 (理彦に)どっちなのよ?
理彦 ……彼氏です、一応。
弘毅・茂雄・賢 おーっ!
弘毅 いいねえ。
賢  うらやましいね。
茂雄 (太一に)あんたも喜びなさい。
太一 ふふ、やるわね、若いのに。
賢  若さ関係ないんじゃない?
太一 何ですって!
理彦 (弘毅に)あの、あの、しばらく僕の部屋にいさせちゃいけないですか? うちで親ともめて飛び出してきちゃって、それで行くところがないって。別に内緒にしてるつもりはなかったんですけど。
弘毅 あ、それってずっとなのかな? って、別にかまわないんだけど。
理彦 よかった。
賢  呼んでおいでよ。一緒に飲もう。
理彦 じゃ。

理彦、走っていく。

太一 あんたたちってほんとに若い子に甘いわよね。
茂雄 いいじゃない。あんただって、若い頃はただ若いってだけで、そこそこいい目にあったでしょ。今度は、あんたが若い子にやさしくしてあげる番なのよ。
太一 やめてよ、年寄りくさい。もう、何でうちにいるときまで、若くないってこと自覚させられなきゃなんないのよ。
茂雄 じゃあ、年寄り集める? あんたそれはいやだっていつも言うくせに。
太一 大体、生意気よ。若いからって、いい気になっちゃって。もう少し遠慮とかそういう気持ちはないわけ?
茂雄 やつあたりはやめなさい。
太一 そんなんじゃないわよ。
茂雄 くやしかったら、あんたも男連れ込んでごらんなさい。誰も、邪魔しないわよ。
賢  ていうか、応援するよ。
太一 けっこうです。
弘毅 これって、応援ってことになるのかな?
茂雄 なるでしょ? 親ともめてる若いゲイの子に居場所を提供するんだから。
弘毅 そうか。
賢  そうだね。
弘毅 こういうのってやってみたかったんだよね。何かの役に立ってるっていうの?
茂雄 そんな大したことじゃないと思うけど。でも、何か困ったときに、相談できる誰かがいるのって、すごくいいんじゃないのかな?
太一 余計なお世話だってうるさがられておしまいよ。そういうもんよ。
茂雄 それはあんただからでしょ?
太一 そんなんじゃないです。
賢  あ、来た。来た。

理彦がウワサの恋人、二階堂渉を連れて登場。
みんなも微妙に緊張のおももち。

理彦 (紹介する)二階堂渉。
渉  どうも。
みんな どうも。
理彦 えーと(一人ずつ紹介)平谷さん。
賢  やあ。
理彦 田口さん。
茂雄 よろしく。
理彦 清水さん。
太一 ……(ゴージャスにお辞儀)
理彦 相庭さん。大家さん。
渉  どうも。
弘毅 ……。
茂雄 学生なの?
渉  はい。大学院に。
賢  何学部?
渉  医学部です。親が開業してるんで。
賢  すごいじゃん、エリートじゃん。
太一 (いやみっぽく)玉の輿ね。
茂雄 親ともめてるって、どうしたの?
渉  僕一人っ子なんですよ、それで、こないだカミングアウトしたら、どういうことだって。後継がないのかって。だから、ちゃんと医者にはなるって言ったんですけど、そういうことじゃないって。結婚して子供を産んでっていうのが、後を継ぐってことだって言われて。そんなんじゃないですよね?
賢  うーん、微妙だな。
茂雄 そうだよね、一人っ子ってむずかしいよね。
太一 何言ってんのよ、いらいらするわね。親なんてどうせ先に死んじゃうんだから、それまでひっぱっとけばいいのよ。そのうちそのうちって言ってるうちに、どうでもよくなるんだから。そういうもんよ。
渉  そうでしょうか?
太一 そうよ、ま、どういう状況かよくわかんないけど、親御さんも取り乱してるだけだと思うわよ。時間かけて、ゆっくり何とかしてくのね。とりあえずもめちゃってるんだから、これ以上悪くなるわけはないんだし。ま、しばらくここにいて、ほとぼりがさめるの待つがいいわ。
茂雄 すごいじゃん、大人じゃん!!
太一 私はいつだって、大人よ。この中じゃ、一番若いけど。
賢  よし、じゃあ、飲もうか。
茂雄 オッケー。

みんな、それぞれ缶ビールを手にする。

弘毅 あ、ちょっと待って。
茂雄 いいじゃん、さくっと乾杯。
弘毅 そうじゃなくて……ここに住むっていうのは、ごめん。かんべんして。
茂雄 何、どうしたの?
弘毅 とにかく帰って。もし、ずっとここにいるっていうんだったら、考えがあるから。

弘毅、母屋の方へ歩いていく。

茂雄 ちょっと!
太一 何、あれ?

渉、弘毅の後を追っていく。
残されたみんな。

賢  さっきはあんなに盛り上がってたのに。
茂雄 どうしたんだろう?
太一 あやしいわね?
一同 え?
太一 あやしすぎるわよ。
賢  あやしいって?
太一 あの二人、初対面じゃないわね。
茂雄 どうしてそんな?
太一 見たでしょ、今の? なんていうか? 目と目で会話しちゃってるみたいな。
賢  何それ?
太一 (茂雄に)相庭さんって、最近、男関係ってどうなってんの?
茂雄 何、そんなの知らないよ。
太一 元彼でしょ? そのくらいの情報交換してないの?
茂雄 してないよ、元彼ってそういうことしなきゃいけないわけ?
太一 怠慢ね、全く。
賢  ねえ、もしかして、それって、相庭さんとあの子に何かあったってこと?
太一 そうよ、アタシのにらんだところじゃね。
茂雄 まさか……
太一 そりゃあんたには信じられないかもしれない。でもね、人は変わるモノなの。あんたでいいって思ってた人だって、いつの間にかやっぱりああいう子がいいと思うようになるのよ。
茂雄 あんた「で」って何?
太一 いつかはこういうことが起こるんじゃないかと思ってたのよ。たまたま来た新しい住人が誰かの昔の男だった。やっぱり世間はせまいわね。(理彦に)まあ、運命だと思ってあきらめなさい。
理彦 そんな……。
太一 人生にはね「そんな」って思うような理不尽なことがいっぱいあるのよ。あんたはまだ若いからそんなのに出っくわしてないだけで。どこで知り合ったの?
理彦 そんなこと言わなくちゃいけないんですか?
太一 わかったわ、言えないようなところね。OK。
理彦 違います。二丁目のバーで。
賢  いつからなの?
理彦 もうじき一ヶ月。
賢  そうだよね。こないだまで、実業団がいたんだもんね。
理彦 ……。
賢  あ、ごめん。
理彦 僕もうちの親ともめて、それで東京に出てきたんです。だから、すっごい気持がわかって。できることなら力になってあげたいなって、そう思って。
太一 当然よね。わかったわ。私にまかせなさい。
理彦 え?
太一 私が何とかしてあげるから。
茂雄 何とかって何?
太一 いいのよ。私は弱いモノの味方よ。
賢  なんだそれ? それよりも、そろそろ始めちゃわない? 降水確率60%って言ってたし。
太一 そんなことしてる場合じゃないでしょ。
賢  じゃあ、どうするの? これ?
太一 ドラマを楽しみましょう。「火サス」?「渡鬼」?
茂雄 そんなの味方じゃないじゃない!
太一 いいのよ。
理彦 ちょっと見てくる。

そこへ、渉が登場。続いて、弘毅も。

理彦 (渉に)何?
渉  ……行くよ。
理彦 そんな……、なんで?
弘毅 そういうこと。
太一 帰ることないわよ。いいから、いなさい。

太一 あんたたちの間に何があったのか、知らないけど、そんなの昔のことでしょ? 私がここに来たとき、あんたは言ったわよね。どこにも行き場のないゲイが集まるようなところになればいいって。私、それ聴きながら、ちょっとそれってどういうことよ?って思ったけど、云いたいことはわかる気がしたわ。だから、こんな小さな集まりだけど、ここは特別な場所なのよ。少なくとも私はそう思ってる。この子が来たとき、ここにいなさいって言ったのはあんたでしょ? どうしてこの子がよくって、この子はだめなの?
弘毅 そういう問題じゃないの?
太一 じゃあ、どういう問題? そりゃ、こんな狭いところに昔の男が二人もいたら、そりゃ、どうかと思うわよ。でも、忘れるのよ、昔のことは、明日を生きるのよ。
弘毅 だから、そういうことじゃないの。
太一 わかったわ、じゃあ、この子たちが一緒に住むことが気に入らないのね。OK、あんた、私のとこにいらっしゃい。だいじょぶよ、誰にも文句は言わせないから。
賢  どんどん話が遠くなってるんですけど。
太一 じゃあ、どうすればいいのよ?
茂雄 (弘毅に)いつからの知り合いなの?
弘毅 ……え?
茂雄 別にどうこういうんじゃないけど。ちょっと知りたいなと思って。
弘毅 いつからって、すっごい昔。
茂雄 別れてすぐってこと? そんな年が合わない。
弘毅 もっと昔。
茂雄 え?
弘毅 この子が生まれたときから。

賢  何それ?
弘毅 甥っ子だもん。姉貴の息子。
理彦 ほんとなの?
渉  うん。
理彦 知ってたの?
渉  うん。
太一 すごいじゃない。親戚ってこと?
弘毅 まあね。
太一 ちょっと、じゃあ、喜びなさいよ。何も悩むことないじゃない。お姉ちゃんに報告すればいいでしょ? うちにいるって。そしたら安心するでしょ? 全部丸く収まるじゃない。
弘毅 そういうわけにはいかないの。
茂雄 カミングアウトしてないとか、そんなことないよね。
弘毅 ずっと昔にしてます。姉とはとっても仲良しでした。
茂雄 そうだよね、僕も何度か会ったことある。
弘毅 結婚してからはね。あんまり会わなくなって。この家の相続のときも、ちょっとだけもめて。まあ、解決はしたんだけどね。とにかく、面倒なことに巻き込まれるのいやなの。もめごとはもうたくさん。
茂雄 かわったね。昔はもめごと大好きだったのに。
弘毅 昔はね。でも、今は違うの。そりゃ、ひさしぶりに会って、ゲイだってことがわかれば何だかうれしいような気もするけど、だったら、何もここに来なくてもいいじゃない。
太一 野良猫の面倒は見るけど、行き場のない甥っ子は見放すんだ。

賢  あ……

雨が降ってくる。

賢  なんだよ、まだ始めてもいないのに。
太一 いいから、アタシの部屋で続きやろう。ほら、さっさとかたづける。
賢  うん。
太一 (茂雄に)あんたもよ。
茂雄 でも……
太一 いいから。(弘毅と渉、理彦に)話はあと。まずは腹ごしらえよ。

太一、賢、茂雄、バーベキューの荷物を持って退場。
弘毅と渉、それに理彦が残った。

弘毅 (渉に)なにしてんの、風邪引くよ。
渉  そっちこそ。
弘毅 (理彦に)あんたはいいから、先に行っててて……

理彦、渉のとなりに立つ。

理彦 もし、一緒に住めないんだったら、僕もここ出ていきます。
渉  え? いいよ、無理しなくて。
理彦 無理じゃないから。
渉  え?
理彦 いいから、どっか他の部屋さがそう。
渉  う、うん。

弘毅 わかった。わかったよ。いればいい。もう、僕がすっごい悪者みたいじゃない? じゃあ、いていいけど、そのかわり、条件がある。ちゃんとお姉ちゃんたちには連絡して。ここにいるって。
渉  その方が、めんどくさくない?
弘毅 どうせめんどくさくなるんだったら、余計なウソはつかない方がいい。もしそれでガタガタ言うようだったら、僕が話するから。
渉  うん。
弘毅 でも、なるたけおだやかにまとめてね。
渉  やってみる。(理彦に)よかった。
理彦 うん。
弘毅 ほれ、行くよ

そこへ、茂雄が傘を差してやってくる。

茂雄 何してんの、ずぶ濡れじゃない。
弘毅 ちょっと青春ってかんじ。
茂雄 バカなこと言ってないで、早く太一の部屋。
弘毅 うん。
茂雄 (バーベキューコンロを見て)やだ、炭が水浸しじゃない。(理彦に傘を渡す)備長炭よ、備長炭。遠赤外線よ。
弘毅 (理彦と渉に)肉どっさりあるから。早く来てさっさと食べ尽くして。じゃ……。

弘毅と茂雄、退場。
理彦、渉に傘をさしかける。
間。

渉  子どもの頃、よく、ここで遊んだんだ。一緒に。昔はもっともっと広くてね。向うにちょっとした林みたいなところもあって。もう売っちゃったんだけど。この木にも登ったんだよ。二人して。夏休み。猫追いかけてさ。でも、降りられなくなっちゃって。大声で助け呼んでさ。泣きながら。ハシゴ車来て、ようやく救出されて。弘ちゃん、すっごい怒られて。
理彦 弘ちゃん?
渉  あ、あの人のこと。……そう、弘ちゃんって呼んでたんだった。

理彦 なんで早く言ってくれないのかな?
渉  弘ちゃん?
理彦 そうじゃなくて。
渉  なんだか言い出しにくくってさ……
理彦 なんで?
渉  いやがるかなと思って。なんか急に親戚づきあいしなきゃいけないみたいじゃない?
理彦 なんだそれ?
渉  ほんと言うとさ。一度ちゃんと話したかったんだよね。親にカミングアウトするときも、電話しようかと思ったんだけど、なんだかできなくて……。ありがとね。
理彦 僕に言うことないじゃん。行くよ。

理彦、退場。渉、追いかけていく。

暗転 

<<<その1<<<

>>>その3>>>