Four Seasons 四季
関根信一

●その3●

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第三場 秋「フリマは終わった」
    
秋の午後。夕方近く。誰もいない庭。
茂雄と賢が登場。大きな収納ケースを二人で抱えている。

茂雄 ストップ、ここで一休み。
賢  もう少しだから、持ってっちゃおうよ。
茂雄 あんたねえ、そっち側だから、そんなにさくさくと歩けるんでしょ。後歩きしてる私の身にもなんなさいよ。
賢  しょうがないじゃない、そこ狭いんだから。横になったら通れないじゃない。
茂雄 とにかく一休みよ、一休み。

二人、荷物を置いて、座り込む。
弘毅が登場。同じく手に大荷物。

弘毅 何してんの? 早くかたづけちゃおうよ。。
茂雄 わかってるわよ。
弘毅 ほれ、早くしなよ。
茂雄 何よ、怒ることないでしょ。
弘毅 怒ってないじゃない。いいから、早くしよ。日が暮れちゃう。
賢  よし、じゃ、行こうか。
茂雄 別にいいじゃない。もう終わったんだから。のんびりしましょう。

茂雄、椅子に腰を下ろす。弘毅も、ベンチに腰を下ろす。

賢  どうしたの?
弘毅 僕も一休みする。
賢  あのさ、さっさと片づけて、みんなで打ち上げって、そういう話になってたでしょ?
弘毅 ねえ、やめない、打ち上げ。もう、このまんま解散ってことで。
賢  じゃあ、何のためにフリマ行ったかわかんないじゃない。儲かったお金でみんなで飲もうって。そういう企画でしょ。
弘毅 もういいからさ、みんなで山分けしておしまいっていうのはどう? もうそれでいいんじゃないの?
賢  だって、太一たちだってもう来るでしょ、レンタカー返したら。近藤くんにも声かけてみんなで飲もうって……
弘毅 わかった。じゃあ、みんなでやって。僕はパス。
賢  (茂雄に)ちょっと、何とかしてよ?
茂雄 何で振るわけ?
賢  さっき、もめてたじゃない。あれからだよ、おかしいの。
茂雄 まったくもう。いつまでも根に持つ女ね。
弘毅 聞こえてるんですけど。
茂雄 聞こえるように言いました。だから、悪かったって言ってるじゃない。まだ、許してもらえないわけ?
弘毅 許すとか許さないとかって問題じゃないの。僕はただショックだったってこと。
茂雄 ああ、そうですか。
弘毅 何、その言い方。
賢  また始まったよ……

太一と渉が登場。

太一 お疲れ。
渉  あれ、何してんの?
賢  それがさあ……
茂雄 車どうした?
渉  返却無事終了。領収書。

と領収書を賢に渡す。

賢  了解。じゃ、これも経費でワリカンね。
渉  すごい儲かったよね。あんなに売れるとは思わなかった。
賢  甘いな。となりすごかったじゃない。あれに比べたら、うちなんて、全然だって。
太一 あら、けっこういいセン行ったと思うわよ。私たちって、商売の才能あると思うの。
渉  たしかに、太一さん、すごい呼び込みしてたよね。アメ横かと思った。
太一 失礼ね。私は、看板娘として、にっこりほほえんでただけよ。
茂雄 あんた、職場でもあんななの? 老舗デパートとしてクレーム来たりしないわけ? 品がないって。
太一 来るわけないでしょ? 私の接客は完璧にノーブルよ。
茂雄 猫かぶってるのね。
太一 かぶってません。
賢  はいはい、わかったから。それよりもさ、これどうする? こんなに売れ残っちゃって。
弘毅 出した人が持って帰ればいいんじゃないの?
茂雄 めんどくさいから、弘毅んとこでまとめてあずかってくれない? フリマまで。
弘毅 やだ、何で?
太一 そうね、それがいいかも。このまんまじゃ納得いかないもん。リベンジしなくちゃね。
渉  いいかも。
賢  じゃ、荷物運びがてら、相庭さんとこに移動。そのまま打ち上げに流れると。店は、駅前の「居酒屋・大自然」ということで。
太一 了解!

弘毅以外の全員、荷物を持って、上手に向かう。

弘毅 ちょっと待って。
茂雄 いいから、行こう。
弘毅 ねえ、根本的な問題が解決してないと思うんだけど。
茂雄 根本的な問題?
弘毅 これってさ、売れ残ったものでしょ? 売れ残ったのには、理由があると思うのね。それをまたしまって、次回までストックって意味ないんじゃないかと思うんだよね。
賢  あ、そうか。
渉  うん、それは言えてる。
弘毅 はい、じゃ。ここで整理します。ほら、こっちに持ってきて。
太一 いいじゃないよ、早く片づけて、飲みましょう。
賢  たしかに、そうだよね。よし、じゃ、さっさと片づけよう。

みんな、運びかけた荷物をまた中央に持ってくる。

太一 片づけるってどうすんのよ?
弘毅 一つずつチェック。
太一 やだ、めんどくさい。
賢  いいから、やっちゃおう。じゃ、まずこれから。これは誰の?

賢、一つの収納ケースを開ける。

太一 はーい、私でーす。
賢  これ全部?
太一 これでも減ったんだって。最初はこれ3つだったんだから。
賢  これ何よ?

賢、ケースからど派手な衣装の数々を取り出す。

太一 私のドレス。
賢  これは売れないわ。
太一 ちょっとどういうことよ。結構高かったんだから。
弘毅 (一つを手にとって)やだ、これも売ろうとしてたの?
茂雄 これ私たち作ったやつじゃない。モー娘。の衣装。
太一 いいじゃない、もう着ないんだから。
茂雄 ちょっと待ちなさいよ。これ、お揃いで作ったんでしょ? あんたが売っちゃったら、もうできないじゃない。
太一 ああ、よかったじゃない、売れなかったんだから。あんた、持ってく、そんなに大事なら?
茂雄 いいわよ。自分の持ってるから。
太一 セットにしたら売れたかもね。
賢  どうだろう?(ドレスを手に)このサイズでモー娘。やろうっていう人はそんなにいないんじゃないかな?
太一・茂雄・弘毅 なんですって?!
賢  あと何、これは?

賢、マンガを取り出す。

渉  「ガラスの仮面」? もしかして、全巻そろってる。
太一 オカマのバイブルよ。
賢  何で売れなかったの?
太一 それは売れなかったっていうか、売らなかったっていうか……
茂雄 あんた……!
太一 暇な時間に読み始めちゃったのよ。一巻から。そしたら、止まらなくなっちゃって。「たけくらべ」まで読んだんだけど、やっぱり「二人の王女」のところ読みたくなって、久し振りに。
弘毅 アルディスとオリゲルド。
太一 皇太后ハルドラ! 「ロザリオを授けましょう」
弘毅 「おばあさま!」
賢  売り惜しむなら、なんでわざわざ持ってくわけ?
太一 だから、これ、うちに大きいのがワンセットあるのね。
賢  なんで二つも持ってんの?
茂雄 じゃあ、よかったんじゃない、売っちゃっても。
太一 そうなんだけど、何て言うか。止まらなくなっちゃって。
渉  そういえば、後半ずっと静かだったもんね。
太一 だから、これは、次回までとっといてもだいじょぶ。これからじっくり読んで見切りつけるから。
賢  はーい、じゃ次。これは誰?

賢、セーターを取り出す。

茂雄 僕の。
渉  何で売れなかったの?
太一 やだ、手編みだったりする?
弘毅 違います。
渉・太一 へ?
賢  もしかして、これって、相庭さんが茂雄ちゃんにあげたもんだったとか?
弘毅 ねえ、茂雄ちゃん、どうして、これがフリマに出ちゃうわけ?
茂雄 だって、もう着ないし。
弘毅 一度も着たことないじゃない。
茂雄 趣味じゃないの。
弘毅 あげたときは、わあ、ありがとう!って喜んだくせに。
茂雄 そうだったっけ?
弘毅 なんでおぼえてないの?
茂雄 (みんなに)セーターってさ、かさばるんだよね。毎年、衣替えの時に出すんだけど、結局着ないで、またしまって。何かの本で読んだんだけど、それを三年くり返したら、もうその服は捨てていいんだって。
太一 たしかに、正論ね。
茂雄 でしょ? 捨てるよりはいいじゃない。売るんだから。また誰かに着てもらえるんだから。
賢  まあ、そうだよね。
茂雄 なのに、弘毅「これは非売品なんです」なんて。もう少しで売れるとこだったのに。
弘毅 あんなおじさんに着られるなんて納得できなかったの。
茂雄 そんなこと言ってたら、フリマなんかできないって。結婚式の引き出物とかお葬式の香典返しとか、そういう、もらったんだけど使い道がないものっていうのを、有効利用するために循環させる、フリマってそういうもんなんじゃないの?
渉  香典返しは、ちょっとどうかと思う。
賢  え、だめなの? タオルとかけっこうたまってたから、みんな売っちゃったんだけど。
太一 いいのよ。供養よ、供養。
渉  そうなの?
茂雄 そうよ、そういうもんなのよ。だから、いいじゃない、ね?
弘毅 じゃあ、茂雄ちゃん、どうして、あの目覚まし、自分で買ったの?
太一 何、目覚ましって?
弘毅 これ。

と箱から古い目覚まし時計を出す。

茂雄 それは……
弘毅 (太一と渉と賢に)これね、二人で住み始めたとき、茂雄ちゃんが買ってきた目覚ましなわけ。別れたとき、自動的に僕のとこに残って。
茂雄 何で売るわけ?
弘毅 もう壊れてるんだって。
賢  壊れてるもの売るのはよくないんじゃない?
渉  僕もそう思う。
弘毅 壊れてるから売れ残ってここにあるんじゃないよね、これ。茂雄ちゃんが買ったんだもん、自分で。
太一 いくら?
弘毅 五十円。
みんな やすー。
茂雄 ちょっと待って。これは、もともと僕が買ったものなの。たしかあの頃で3千円くらいしたんだと思う。それを、今、また五十円で買って、何でぶーぶー文句言われなきゃならないわけ?
弘毅 どうして、僕があげたものは、すぐ売っちゃうくせに、自分が買ったものは、大事にするわけ? ねえ? これって納得いかなくない?
賢  ま、理屈はわからないでもないけど。
太一 どっちもどっちってかんじよね。はっきり言って。
渉  うん。
弘毅 そんなことないって。どう考えたって、茂雄ちゃんの方がクールすぎるでしょ?
茂雄 いいじゃない、もう昔のことなんだから。あんたこだわりすぎよ。
弘毅 そっちこそ、こだわらなさすぎよ。
渉  ねえ、フリマのコンセプト、もう一回考えてみない?
賢  そうだね。いるものは売らない。これが大原則でしょう。
太一 あんたたちさ。余計なお世話かもしれないけど、まだ、いろいろ引きずってるもんあるんじゃないの?
茂雄 そんなものないって。
弘毅 あるわけないでしょ?
賢  じゃ、どうするの? 時計は茂雄ちゃんが買ったわけだけど、セーターは? 相庭さん、買う?
弘毅 僕は、一度人にあげたものを自分で買うほど、未練じゃないです。
茂雄 だったら、さっき売れてたのに。
弘毅 だから、何で売ろうとするわけ?
賢  また話が戻ったよ。
渉  きりがないね。
太一 はい。じゃ、これは、私が預かります。それでどう?
茂雄 預かるってどうするの?
太一 知らないわよ。とにかく、もうめんどくさいから、この話はここまで。
賢  OK、じゃあ、太一の部屋にもっていこう。
渉  はーい。
太一 あ、そうだ! 私んとこね、今ちょっとスペースがないんで、ほら、こないだキングサイズのベッド買っちゃったじゃない? だから、しばらく相庭さんのとこに置いておいてもらえないかしら?
弘毅 は?
茂雄 あんた、わけわかんないわよ。
太一 だって、しょうがないじゃない。ベッド見たでしょ?
渉  解決する気あるんですか?
太一 あるわよ、これで解決。ね?
弘毅 だめ。納得いかない。
太一 やっぱり、だめか?
茂雄 当然でしょ。
賢  うん。

理彦がやってくる。

理彦 何してんの?
渉  フリマは終わったんだけどね。ちょっともめちゃってて。
理彦 ふーん。何、これ、売れ残ったやつ?

理彦、荷物に近づく。一同、理彦に注目。

理彦 ……こんちは。
太一・茂雄・賢・弘毅 ……こんにちは。
太一 あんたも来ればよかったのに、フリマ。すっごいおもしろかったわよ。
理彦 バイト休めなくて。
賢  これから打ち上げ行くんだけど、どう?
茂雄 今日の上がりみんな使っちゃおうって企画だから、飲み代はいいから。
太一 そうよ、ご招待、ご招待。
渉  いかない?
理彦 ……じゃあ、行こうかな?
太一・茂雄・賢・弘毅 よし!
太一 あら、あなた、ちょっとこのセーター似合うんじゃない? あら、すっごいいいかんじ!
理彦 かなりでかいんじゃ?
太一 この頃、カラダ鍛えてるんでしょ。聞いたわよ。若いんだから、すぐにムキムキ。マッチョなカラダにぴったりよ。悪いこと言わないから、もらっちゃいなさい!
理彦 別にマッチョになりたいんじゃなくて、目指してるのはスジ筋なんで。
太一 スジ筋?
理彦 いいです。
太一 あらそう。残念ね。じゃあ、これは?

太一、目覚ましを取り上げる。

賢  それは壊れてるんじゃ?
太一 そう、壊れてます。でもね、壊れた目覚ましっていいのよ。おちおち寝てられないっていうか、そこがみそ!
渉  なんだそりゃ?
太一 バイト忙しいんでしょ? 低血圧で朝弱いんでしょ? 聞いたわよ。さ、これを使って快適な朝を満喫してちょうだい!
茂雄 あんた、すごいわ。
太一 ね、どう?
理彦 目覚ましあるんで、いいです。それに、鳴らない目覚ましなんて意味ないし。
太一 「鳴らない」じゃないの、「鳴るのか鳴らないのかわからない」のよ。そこがみそ!
理彦 いいです。
太一 じゃあ、「ガラスの仮面」は、読んだことある? 特別に最新刊もつけてプレゼント。
理彦 あの、もしかして、フリマの売れ残り、僕に押しつけようとしてます?
太一 そんな、ささやかなプレゼントよ。ねえ。
茂雄・賢・弘毅 うん。
賢  もらってくれると、すっごいたすかるんだよね。
茂雄 どうかな?
太一 あんた、少しは協力しなさい。せっかく一緒に住んでるんだから。
弘毅 そんな言い方よくないって。いいよ、無理しなくて。
太一 無理しなくていいって言われても、無理するのが、ご近所づきあいの常識よ。(渉に)ほれ、あんたからもすすめる!
渉  え?
理彦 いいです、いりません。
太一 あ、そう。もう、じゃあどうすんのよ、これ?
賢  しょうがない。それぞれの部屋に持ち帰り。
太一 じゃあ、今までの議論はなんだったわけ?
茂雄 時間のムダだったわね。
弘毅 あ!
茂雄 何?
太一 何か思いついた?
弘毅 え? 何でもない。
太一 何でもないって顔じゃないじゃない。何よ、言いなさいよ。
弘毅 でも……
茂雄 いいから、ほれ。
弘毅 あのね、すっごいバカみたいな思いつきなんだけど、埋めたらどうかなって?
一同 は?
弘毅 だからね、埋めちゃうの。この木の下に穴掘って、埋めるの。思い出の品物を。
渉  タイムカプセル?
賢  ていうか、お墓?
弘毅 そうじゃなくて。いいじゃない、どこにあっても邪魔だけど、でも捨てるのは惜しい、そんなもの他にもいっぱいあるし。そういうのみんなで集めて、埋めちゃうの。
太一 あんた、バカじゃないの?
渉  埋めたら、それっきりになっちゃうんじゃないの?
賢  ていうか、それって、限りなく「捨てたこと」に近いんじゃない?
弘毅 いいんだって、時々思い出せば。この木を見て。ああ、この下にあれが埋まってるんだなあって。

風が吹いて、木の梢を揺らす。

弘毅 どう?
茂雄 いいんじゃない?
太一 ばかばかしいけど。おもしろそう。
賢  ちゃんとした箱作ろうか?
茂雄 何十年経っても、そのまんま保存されてたりするの?
弘毅 モー娘。のドレスとセーターと時計と。
太一 ガラスの仮面と。
賢  これもいいかな?

賢、箱の中から、本を取り出す。古ぼけた参考書。

渉  何それ?
賢  受験の時に使った参考書。なんだか捨てられなくって、授業に使えるかと思ったんだけど、やっぱり古いからさ。ブックオフでも引きとってくれないんだよね。
弘毅 よし、じゃ、これも入れよう。
茂雄 うん。
太一 もしかして、これで全部片づくってこと?
賢  ナイスアイディア!
弘毅 でね、この企画のすごいところはさ、掘り出すときにイベントになるってこと。
茂雄 たしかにそうかも。
渉  何十年も経って、またみんなで掘り出すんだ。
賢  いいねえ。
太一 あ、でも、全員はそろわなかったりすんのよ。
茂雄・賢・弘毅 やめてよ。
賢  ねえ、決めない? 何年後って?
弘毅 それもなんだかつまんなくない?
太一 そんなこと言ってたら、みんな死んじゃうわよ。
茂雄 それもいいんじゃない?
賢・太一・弘毅 え?
茂雄 何十年か経ってさ、誰かがたまたま掘り出すの。そうすると、中から、出てくるわけよ。
弘毅 ドレスとセーターと時計と参考書。
太一 それから、「ガラスの仮面」。

笑う一同。

茂雄 これって、謎なんじゃないの? 遺跡みたいで。
賢  ていうか、わけわかんないよね。
弘毅 よし、じゃあ、やろうやろう。
太一 決定!!


少し離れて、理彦が見ている。
空は夕焼けに染まっている。

弘毅 (理彦に)「馬鹿なことしてるな」って思ってる?
渉  え?
太一 ダメよ、一緒になってばかばかしいと思わなきゃ。
茂雄 ダメだからね、ここにコレが埋まってるのは、秘密なんだから。勝手に掘るのも禁止。
弘毅 (茂雄の腕時計を見て)やだ、もうこんな時間。よーし、飲もう、飲もう。大自然、大自然。
 (荷物を見て)これどうしようか?
弘毅 いいよ、どうせ埋めるんだから、ここにおいておこう。
太一 そうね。

みんな上手に向かう。渉は残っている。

賢  素材は何がいいかな?
太一 梅干し漬けた瓶が余ってるんだけど。
弘毅 入りきらないんじゃない?
茂雄 やめてよ、「骨壺」みたいじゃない。
弘毅 (渉と理彦に)何してんの、行こう。いいから、問題は解決したんだから。気にしないでくればいい。
理彦 あ、僕……
渉  わかった。じゃあ、先行ってて。

一同退場。
取り残された荷物。

理彦 ねえ、なんでみんなあんなに僕のこと知ってんの? 筋トレやってることとか、朝弱いとか。
渉  僕が話したからじゃない。
理彦 なんで話すの?
渉  秘密にしてること?
理彦 そうじゃないけど……。行くの、打ち上げ?
渉  行かないの?
理彦 どうしようかな?
渉  バイトだなんてウソつかないで、行きたくないんでって、普通に言えばよかったのに。
理彦 なんかめんどくさくて。
渉  何してたの今日?
理彦 映画見てた。。一人で見てもなんだかね。
渉  じゃあ、フリマ来ればよかったじゃん。
理彦 そうなんだけどさ。

理彦 ほんとに埋めるのかな、これ? あの人たち?
渉  やるんじゃない? 妙な実行力あるから。
理彦 ……。
渉  ねえ、埋める前に「ガラスの仮面」読んじゃいたいんだけど、部屋に持ってってもいいかな?
理彦 は?
渉  だいじょぶだって、すぐに読むから。読んだら、元に戻すから。

渉、重いケースの片側を持ち上げる。
理彦、しかたなく反対側を持つ。
歩き出すが、理彦が後歩きになるので、途中で向きを変える。
二人、退場。

暗転 

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