Four Seasons 四季
関根信一

●その4●

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>>>その5>>>

第四場 「冬・入れないクリスマス」
    
冬の夕方。
十二月二十四日、クリスマスイブの午後四時過ぎ。
茂雄と弘毅がうろうろ歩いている。

茂雄 ねえ、ちょっと遅くない? いくらクリスマスだからって。
弘毅 だから「クリスマスだから、ちょっと遅くなる」って言ってたんでしょ。
茂雄 誰よ、今年は暖冬って言ったの? 石原良純? ほんとにあてにならないんだから。
弘毅 やつあたりしないの。昨日まではあったかかったじゃない。
茂雄 雪降るかもしれないんでしょ? 何がロマンチックなイブよ。大きなお世話よ。

茂雄、そのへんを歩き回る。

弘毅 いいの、仕事?
茂雄 一応、これも仕事だし。ていうか、ヒマで死にそうだったから。でも、さっさと片付けて戻るからね。
弘毅 何か約束?
茂雄 そうじゃないけど……。 ねえ、もしかして、みんな出かけてんの?
弘毅 うん。太一と平谷くんはデートだって。それぞれ別々にね。
茂雄 あの女、また仕事休んだんでしょ? よくクビにならないわね。
弘毅 今日、初めて会うんだって、気合い入ってたよ。
茂雄 イブに初デートって、何よ、それ? 相手は?
弘毅 知らない。でも、今度こそバッチリって言ってたけど。
茂雄 「フフフ、今年のクリスマスは一人じゃないのよ」って言ってたけど、どうせ間に合わせってかんじなんでしょ?
弘毅 ていうか、すべりこみセーフってかんじ?
茂雄 アウトよ、アウト。
弘毅 茂雄ちゃんってさ、今どうしてんのよ?
茂雄 どうって、男?
弘毅 そう、男。
茂雄 そっちこそ、どうしてんのよ?
弘毅 どうって、何も?
茂雄 あんたさ、太一見習えとは言わないけど、少し外出たら?
弘毅 いいじゃない、わざわざ暮れの忙しい時期に何しなくっても。ほら、大掃除とかさ、いろいろとあるし。
茂雄 いいの、そんなんで?
弘毅 いいよ。だめかな?
茂雄 だめじゃないけどさ。なんかこうイライラしちゃんだよね。
弘毅 僕が男作らないと?
茂雄 そうじゃないけど、なんとなく。
弘毅 じゃあ、茂雄ちゃんも新しい恋人作んなよ。人のこと言ってないで。
茂雄 人のこと心配する前に、自分のことなんとかしたら?
弘毅 それそっくりそのままお返しするわ。

弘毅 前もさ、よくクリスマスに喧嘩したよね。
茂雄 そうだっけ?
弘毅 そうだよ。誕生日とかさ。旅行に行ったりとかさ。そのたびにいつも喧嘩して。
茂雄 ああ、あれね。
弘毅 だから、こうして、何もしないでのんきにしてるほうがずっといい。そう思わない?
茂雄 かもね。ちょっと、マジで寒くない?
弘毅 そうだね。
茂雄 良純め!
弘毅 だから、やつあたりはやめなって。
茂雄 (正面の木を指して)ねえ、これ点けてみない? イルミネーション。せっかく飾ったんだし。
弘毅 まだ明るいのに。ていうか、ほんとに点くの?
茂雄 点く点く。昨日、平谷くんと試してみた。
弘毅 ねえ、これってどこから電気ひっぱってきてるの?
茂雄 平谷くんの部屋のコンセント。すごいよ、彼、こういう仕事得意だから。
弘毅 でも、なんだか、やりすぎってかんじしない?
茂雄 そんなことないって。うちで管理してるマンションのエントランスの飾り付け、持って来ちゃっただけだから。
弘毅 いいの、そんなことして?
茂雄 いいの、いいの。
弘毅 びっくりしてるよ。この木もきっと。
茂雄 よし、じゃ、ちょっと電源見てくるわ。

と言って、歩き出すと、帰ってきた太一に出くわす。

太一 あ……
茂雄 あら、早いじゃないよ、どうしたの? さては、振られたのね。だから、言ったじゃない。
太一 やだ、なんであんたこんな時間にここにいるのよ?
茂雄 仕事です。
太一 どうせ油売ってるんでしょ? こんなやつの給料のために金使うことないわよ。まったく。

太一、椅子に座る。
弘毅と茂雄、顔を見合わす。

弘毅 別に、無理矢理聞き出そうってわけじゃないんだけど、もしよかったら、何があったのか話してみない?
太一 もう聞いて!!! 騙されたのよ!
弘毅 何、それ?
茂雄 懲りない女ね。
太一 新宿の南口で待ち合わせしてたんだけど、なかなか来ないのね。で、それでも、待ってたの。で、十五分経っても連絡ないから。メールしたのね。とにかく、初対面だから、どんなかっこしてるって? そしたらね。となりに立ってたおじさんの携帯が鳴ったの。
弘毅 おじさん?
茂雄 あんた、いつから老け専になったの?
太一 そうじゃないのよ。三十歳のリーマンって言ってたのよ。何度かメールのやりとりしてたし。お互いのプロフちゃんと確認して。
弘毅 老けてる三十歳なんじゃないの?
太一 そんなことない。あれは絶対四十代です。ていうか、ちょっとくらい年サバ読んでてもしょうがないとは思うのよ。でも、あれはだめ。あれは犯罪。
茂雄 で、どうしたの?
太一 どうって、何も。丁寧にお断りして帰ってきたわよ。
弘毅 丁寧って?
太一 「ごめんなさい。無理みたい。じゃ!」
弘毅 全然丁寧じゃないじゃない。
太一 もう、動揺してしまったのよ。
茂雄 ちょっと、待って。となりにいて、向こうも気がつかないってことは、あんたもかなりいいかげんなデータ渡してたんじゃないの?
太一 いいのよ、向こうに比べれば、全然かわいいもんよ。
弘毅 開き直ってるし。
茂雄 だから、言ったじゃない。十二月は「強化月間」なんて言ったって、無理なモノは無理なのよ。この時期売れ残ってるもんなんて、どうせみんな訳ありの粗悪品なんだから。そんなのばっかがバーゲンセールのたたき売りしてんのよ。
太一 その言葉そっくりそのままお返しするわ。訳ありの粗悪品のあなたに。
茂雄 ごめんなさい。これは、非売品なの。
太一 売っても売れない言い訳ね。
茂雄 なんですって!!!
弘毅 やめなって。もう。でも、めずらしいね。そんな話、わざわざ言いに来るなんて。
太一 そうじゃないのよ。アタシのことはどうでもいいの。話したいのは、平谷くんのことなの。
弘毅 平谷くんがどうしたのよ?
太一 私、あの人に会っちゃったのよ。
茂雄 どこで?
太一 東急ハンズで。
茂雄 やだ、これの飾り?
太一 そうじゃないの。それがね、なんかプレゼント買ってるのよ。大きな包み。ラッピングもして。アタシ、ヤケになって、高島屋で買い物しようと思って南口から歩いていったのね。さすがに自分とこ行くわけいかないし。
茂雄 そうよね、風邪で四十度の熱があることになってるのよね。
太一 そしたら、あの人、一人で歩いてて。これは、デートねと思ったから、つけてみることにしたの。
弘毅 やめなさいよ。
茂雄 あんた。最低ね。
太一 だって、声かけたのに、気がつかないのよ。
茂雄 相手は?
弘毅 茂雄ちゃん……
太一 ずっと後つけてったら、タカノのフルーツパーラーに入ってったわ。私も、後から、見つからないようにこっそりと。それにしてもタカノでデートってどうよ? クリスマスイブよ? あの人らしいっていうかなんていうか。どんな男が相手かと思ってたら……
二人 うん。
太一 女だったの。
二人 え?
茂雄 女ってどんな?
太一 たぶん三十代のきれいなかんじ。見てみる?

太一、携帯を取り出して、写真を見せようとする。

茂雄 あんた何してんのよ?
太一 こういうときのための携帯でしょうよ。大丈夫。こっそり撮ったから。
茂雄 そういう問題じゃないの!

太一、写真を見せる。

太一 ね?
弘毅 ほんとだ。
茂雄 なんだか深刻そうなかんじね。
太一 録音にも挑戦したんだけど、さすがにそれは無理だったわ。席離れてたし。一応、聞いてみる?
茂雄 けっこうです。
弘毅 長くしゃべってたの?
太一 十分かそこいら。女の方が先に出ていって。平谷くん、それから、しばらく一人で座ってた。で、そのうち出てったの。何だかすっごい落ち込んでるみたいだったわ。
茂雄 その後は?
太一 すぐに追いかけたんだけどね、見失っちゃったのよ。
弘毅 何、話してたんだろうね?
太一 ていうか、あの女はなんなわけ?って思わない?
弘毅 ……うん。思うけど。
茂雄 まあね。
太一 自分で言うのも何なんだけど、私、すっごい口軽いじゃない? 放送局って言われてるくらい。たいていのことは、公共の財産!だと思って、みんなにしゃべっちゃうんだけど、ずっと黙ってたことがあるのね。実は、平谷くんね、バツイチの子持ちなのよ。
二人 ……!
太一 びっくりでしょ? 私もマルさんに聞いたときはほんとにおどろいたの。平谷くん、あんまり自分のことしゃべる方じゃないし、カミングアウトなんて誰にもしてないし、この業界にデビューしたのだって、とっても遅かったって言ってたじゃない。だから、なるほどねと思ったんだけど、やっぱりショックね、目の当たりにして見ると。
茂雄 じゃあ、相手は別れた奥さんってこと?
太一 そうよ。決まってるじゃない。どう、びっくりした?
弘毅 びっくりした。
太一 (茂雄に)あんたは?
茂雄 びっくりしたわよ。
太一 でしょ?
茂雄 あんたが知ってたってことに。
太一 え?
弘毅 ていうか、知ってたのにずっと黙ってたってことにかな?
茂雄 うん。
太一 何よ、あんたたち、ご存じってわけだったの?
茂雄 当たり前でしょ、大家さんなんだから。
太一 あんたは何でよ?
茂雄 教えてもらったのよ。
太一 何で、私に言わないのよ。
茂雄 今、自分で言ったでしょうよ、すっごい口軽いって。だからよ。
太一 何、それ、どういうことよ?
弘毅 平谷くん、すっかり音信不通なんだけど、年に一度だけ、奥さんと子供と会ってるって言ってたから、今日がそうだったんだね、きっと。
茂雄 あんたの言葉を信じるなら、何で落ち込んでたのかね?
太一 ほんとよ、ほんとに沈んでたんだから。ほら。

と言って、また携帯を見せる。

弘毅 あ、ほんとだ。がっくりってかんじ。
茂雄 肩の線に哀愁がただよっちゃってるわね。
太一 あの人、ほんとは今日、子供も一緒に会うことになってたんじゃない? だから、プレゼント買って。でも、待ち合わせのタカノには別れた妻しかいなかった。で、彼女の話はこう。もう子供には会わないでほしいの。
弘毅 そんな?
茂雄 でも、あり得る。
太一 でしょ? そうよ、きっとそうよ。
弘毅 持ってったプレゼントはどうしたの? 奥さん持ってったの?
太一 え? 待って。

太一、また携帯をチェック。
三人で見る。

茂雄 あ、置きっぱなしだわ。
太一 持ってかなかったのね。
弘毅 ていうか、渡さなかったのかも?

茂雄 どこ行ったのかしらね。
太一 ヤケ酒でも飲んでるんじゃない?
弘毅 そんなに?
太一 目が何て言うか、思い詰めてたもん。あ!
茂雄 何よ?
太一 もしかすると、もしかするかも……。
弘毅 やめてよ、そんなことあるわけないでしょ。
太一 わかんないわよ。
弘毅 (太一に)ちょっと電話してみて。
太一 やーよ、もしつながらなかった、もっと心配になるじゃない。
弘毅 何言ってんの? じゃあ、茂雄ちゃん。
茂雄 うん。

茂雄、携帯を取り出し、電話をかけようとする。
と、上手から平谷賢がやってくる。
ラッピングした大きな袋を持っている。淡々としている。

太一 (気づいて)あ!

みんな、ふと見つめ合ってしまう。

弘毅 おかえり。
太一 おかえりなさい。
茂雄 寒いね。
賢  どうしたの? 三人そろって?
茂雄 えーと……
弘毅 ちょっと見てたの、イルミネーション。暗くなるの、すっごい楽しみ。

賢、無言で木を見上げている。
彼を見ている三人。
やがて、賢、下手へ退場。

弘毅 行っちゃった。
茂雄 やっぱり様子が変ね。
弘毅 うん。
太一 一人にするのまずいんじゃない?
茂雄 一人って……?
太一 いいから、ちょっと呼んできなさいよ。
茂雄 でも……
太一 見たでしょ、今の。早く!!
茂雄 わかったわよ。

茂雄、あわてて、下手に退場。

弘毅 なんなんだろうね、あの包み?
太一 だめよ、聞いちゃ。とにかく、今は一人にしないことよ。
弘毅 うん。

茂雄が賢を連れてもどってくる。

賢  何か用かな?
弘毅 あ……、ちょっとおしゃべりしない?
茂雄 クリスマス、暇なもん同士。
太一 (小声で)バカ!
賢  ここで? 寒くない?
弘毅 そうなんだけど、ちょっとだけ。
太一 実は、これから、私たち、大人だけのクリスマスパーティっていうのを渋く開催するんだけど、あんたもどうかしら?と思って。
賢  ……俺はいいや。
茂雄 そんなこと言わないで。
賢  ちょっと一人になりたい気分なんだ。
三人 ……。
賢  なんつって。
三人 ……。
賢  じゃ。

賢、歩き出す。

太一 (大声で)あ、ごめん。言い忘れてた。
賢  (立ち止まって)何?
太一 アパートね、入れないの。停電しちゃって。
茂雄・弘毅 え?
賢  停電?
太一 そうなのよ。ま、入れないっていうか、寒くて寒くてしょうがないし、どんどん暗くなってくるから、しょうがなくてこうして外でおしゃべりしてるのよ。
賢  何、また、水槽にドライヤー落とした?
太一 そうそう。
賢  今度こそ死んだ、金魚?
太一 生きてます。
賢  すごいよね。ヤツ。
太一 それでね、またブレーカー上げればいいのねと思ったんだけど、だめなのよ。上げてもすぐ落ちちゃうの。で、しょうがないから、不動産屋に電話して、この人に来てもらったの。でも、全然役にたたなくて。電気屋に電話して、見てもらうことになったんだけど、クリスマスでしょ? なかなか来ないのよ。で、こうしてずっと待ってるってかんじなの。
茂雄 あんたって……
賢  ちょっと見ようか?
太一 あ、いいから。ここで待ってましょう。あ、でも、寒いわね。そうだ! 相庭さんのとこで「みんなで」お茶でもしない? 停電してるのこっち(アパート)だけだから。ね? ああ、寒い、寒い。さ、行きましょう。
弘毅 ちょっと待って。それ、だめなんだわ。
太一 何よ、だいじょぶよ。ちょっとくらい散らかってたって、気にしない。そうよ、じゃあ、みんなで大掃除の前倒しよ。さ!
弘毅 あのね、入れないの!
太一 え?
弘毅 鍵なくしちゃったの。
太一 うそ。
茂雄 ほんとよ。
弘毅 さっきビデオ返しにツタヤに行ったんだけど、たぶんその途中で。すっごい探したんだけど、全然なくて。もうどうしようもないから、茂雄ちゃんのとこ行ったんだけど。アパートの鍵のスペアあるけど、大家さんの鍵はないなあって社長に言われて、もどってきたところで……。
太一 何してんのよ?
茂雄 携帯も部屋の中だっていうから、今、鍵の110番に電話したところ。でも、時間かかりますって。クリスマスだから。
太一 何なのよ、クリスマス関係あるの?
茂雄 とにかく、向こうはそう言ってたわよ。
太一 じゃあ、どうすんのよ、私たち。
茂雄 おしゃべりしましょ。
太一 やだ、寒いじゃない。
茂雄 あんたのせいよ!!
賢  ま、いいじゃん。しょうがないよ。ここで待ってよう。
弘毅 ごめんね。
賢  いいって。いいって。

四人、それぞれ座る。
賢の大きなラッピングがとっても気になる三人。
とっても長い間。

太一 ねえ、おしゃべりしましょうよ。黙ってないで。
茂雄 そうね。
弘毅 そうだね。

茂雄 何よ、あんた、しゃべりなさいよ。
太一 そんな……。
弘毅 そうだ、あんたたち、踊ったら、モー娘。ずっと練習してたじゃない。
茂雄 ここで?
太一 私はパスするわ。そうだ、一人でやってみて。私も見たいわ。振りチェック。
茂雄 やーよ。何でそんなことしなきゃいけないのよ。
弘毅 ……!
茂雄 ごめん、ちょっと耳に水が入っちゃって。やめとくわ。
賢  だいじょぶ?
茂雄 だいじょぶ。ありがと。
太一 そうだ! しりとりしない?
弘毅 しりとり?
太一 そうよ。冬の外遊びにはしりとりでしょ。やっぱり。
茂雄 何よ、それ?
賢  いいじゃん。やってみよ。ヒマだし。
太一 じゃ、いくわよ。「ゆうやけぐも」
賢  も、も、「モスラ」。
弘毅 ら、ら「ラッコ」
茂雄 こ、こ「こども」
弘毅・太一 
茂雄 ……じゃないや、「コロモ」。てんぷらのコロモ。
太一 やめましょ。危険すぎ。
賢  え?
太一 思ってたほど、盛り上がらないわね。じゃあ、えーと、次は……
弘毅 何、まだやるの?
茂雄 しりとりやろう。おもしろいじゃない。
太一 あんた才能なし! もう、おそいわね、鍵の110番。
茂雄 電気屋も来ないわね。(太一に)ていうか、来るわけないじゃない。どうすんのよ?
太一 相庭さんとこでしゃべってるうちに修理完了の予定だったのよ。
茂雄 もう寒くて死にそうよ、どうしてくれるの!!

そこへ、下手から、渉がやってくる。続いて理彦も。

弘毅 おかえり。早くない?
茂雄 どうだった、クリスマス・ディナーは?
賢  へえ、クリスマス・ディナー?
茂雄 テーブル予約して、わざわざ行ったんだよね。
弘毅 (小声で)よしなさいよ!
茂雄 (小声で)ごめん。
太一 ちょっと、あんたたち、どっか行ってなさい。私たち、今、ここで大人の会合してるんだから。
渉  ……。

渉、椅子に座る。
理彦、離れて、ベンチに座る。
大人たち、顔を見合わせる。

弘毅 別に、無理矢理聞き出そうってわけじゃないんだけど、もしよかったら、何があったのか話してみない?

理彦 店の人と喧嘩して……
弘毅 喧嘩って、どうして?
渉  だって、すっごい悪い席に通されて。だから変えてほしいって言ったんだけど、予約が入ってますからって。
理彦 しょうがないよ、イブなんだから。
渉  だから、少し早めの時間に予約したんじゃない。男二人ですけどって、初めからちゃんと言ってたのに……。迷惑そうな顔されて。
理彦 そんなの考えすぎだって。
渉  でも、いやだったから、あんなところで隠れるみたいにして二人で食事するの絶対にいやだったから、帰ろうって言ったのに。
理彦 だって、せっかく出かけたのに。
渉  だから、一人で店出て。
理彦 しょうがないから、すぐおいかけて。
弘毅 二人でかえってきたの?
若い二人 うん。
賢  大変だったね。
渉  キャンセル料取られなかったっていうのも、また腹が立ってきて。
茂雄 そんな、悪い方にばっかり考えることないって。
太一 そうよ。そんな、いやな思いして、お金取られるなんてばかばかしいじゃない。
渉  でも、納得いかなくて……。
理彦 部屋に帰ってからも、ずっとふくれてて。
弘毅 まあ、気持はわからないじゃないけどね。
賢  あ、そうだ。電気だいじょぶだった?
理彦 え? 電気って?
賢  停電。ブレーカー全部落ちちゃって原因不明って。
理彦 何、それ?
渉  停電なんてしてなかったけど。パソコンも何ともなってなかったし。
賢  え?
太一 あら、おかしいわね。私の部屋だけだったかしら?
茂雄 じゃあ、もう復活したのかな?
弘毅 もういいじゃない。やめよう。寒いし。
太一 ちょっと……
弘毅 (賢に)平谷くん、一人にするの心配だったんで、そんな嘘ついたの、この人が。停電なんてしてないんだわ。
茂雄 ほんとに余計なこと言うんだから。
太一 とっさのひと言よ!
賢  心配って……?

大人たち、賢のラッピングに目をやる。
賢もその視線を追って……

太一 新宿で、私、見ちゃったのよ、あんたが女の人と会ってるとこ。
賢  ……。
太一 だもんでちょっと心配になっちゃって……
賢  ……そうだったんだ。
弘毅 奥さん……だった人?
賢  うん。
弘毅 ごめんね、平谷君のこと。この人にしゃべっちゃったの、ま、話す前に知ってもいたらしいんだけど。
賢  そんな心配なんてすることないのに。ちょっと会って話しただけだから。再婚するんだって。その報告。ずっと養育費払ってるんだけど、もういらないって。そのかわり、もう子供の親だとは思わないでほしいって。
太一 何なの、それ?
賢  いつかはそういう話になるんじゃないかと思ってたんだけどね。
弘毅 で、決めてきたの?
賢  うん。わかったって言ってきた。言うとおりにするって。そうだよね。年に一度しか会わない父親なんてね。
弘毅 でも、会わないって言ったって、そう簡単にはいかないでしょ。
賢  だから、俺が会おうとしないってこと。だんだん遠くね、もっともっと遠くなってく。それだけの話。

賢  結婚したとき、まだ、全然、ゲイだなんて思ってもみなかったから。そうなんだって気がついたときには、もう生まれてたんだよね。俺さ、若い父親ってあこがれててさ。うちのオヤジ、すっごい老けてて。俺、オヤジが四十二のときに生まれたからさ。だから、あんまり一緒に遊んだこととかなくて……。だから、自分が親になったら、子供がいやになるくらい、遊び倒してやろうって思ってて。野球とかサッカーとか。

賢  こないで電話して、会う約束したとき、言っちゃったんだよね。実はゲイなんだって。別れて五年も経つから、もういいかなと思って。そしたら、もう会わないでくれってどういうことよ。ねえ? うまくいくと思ったんだけどな……。
弘毅 時間をかけてゆっくり話し合っていけば、なんとかなるかもよ。
茂雄 うん。
賢  何だか心配かけて悪かったね。じゃ、行くわ。(渉と理彦に)これ、よかったら、もらってよ。

賢、ラッピングを渉と理彦に渡す。

渉  え?

賢、下手に帰っていこうとする。

太一 だめよ。今夜はクリスマスよ。こんな夜に一人はだめ。みんなでわいわい騒ぎましょう。
弘毅 でも、どこで? うちの鍵が出てくるまではもう少し時間がかかりそうだけど?
太一 ここでやるのよ。
茂雄 やめてよ、凍えて死ぬわ。
太一 寒くなったら、踊るのよ。
茂雄 バカじゃないの?
太一 (賢に)さ、これ点けましょう。アタシね、昔、父親に言われたことあるのよ。男ってもんは、一軒の家と一本の木と一人の息子を持って一人前なんだって。そんなのちゃんちゃらおかしいわって思ってたんだけど、この頃わかる気もするようになったのよ。でも、アタシはいらない。そう思ってるんだけどね。でも、ちょうど、ここに一本の木があるじゃない。豪華に飾り付けられて、そうよ、これがアタシたちよ。それでいいのよ!
茂雄 あんた、何言ってんの。
太一 とにかく、イルミネーションよ。まずはそれから。あとはぱーっと盛り上がればいいの。(賢に)よろしくね。
賢  ……了解!

賢、一旦、下手に退場。すぐもどってくる。

弘毅 あれ点かないよ。
賢  じゃーん。

と言って、小さな機械を出す。

理彦 何、それ?
賢  リモコン。
茂雄 なんでこんなものにリモコンがいるの?
賢  よし、じゃあ、行くよ。
太一 せーの。
賢  スイッチ、オン!

スイッチを押すとイルミネーションが輝く。
見つめているみんなの顔。
しばらくの間。ふいにイルミネーションが消えてしまう。
真っ暗闇。

太一 何これ?
賢  ブレーカー落ちたみたい。

暗転 

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