「ゴッホからの最後の手紙」
「gaku-GAY-kai 2000」
日 記

★10月後半★

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 10月17日(火)
 池袋演劇祭表彰式。
 演劇祭事務局から、「何の賞かはまだお教えできませんが、入賞しているので、表彰式には出席して下さい」という電話をもらっていたので、今年も、いそいそとドラァグして行くことにする。
 2回目の参加、1996年の「美女と野獣」のときの「もし、入賞してたら、ドラァグしていくわ!」という何だかわからない宣言(!)に端を発して、ドラァグ・クィーン姿で表彰式に参加するのは、3度目になる。
 いつもは、ジャスミンさんと二人、芸術劇場の近所のカラオケボックスで、入るときは普通の人、出ていくときは豪華な人という「苦労(?)」をしているのだけれど、さあ、今回はどうしよう。
 僕がぎりぎりまで仕事だったせいで、カラオケボックスでゆっくり支度はできない。
 じゃあ、芸術劇場のどっかのトイレでも‥‥というのが、僕の提案だったのだけれど、待ち合わせ場所の芸劇の地下に行ったらば、ちょっと辛そうよというジャスミンさんのお言葉。
 結局、ダメもとで、表彰式の会場に行って、「部屋の隅を使わせてもらえません?」とお願いをしたのだった。
 そしたらば、事務局のみなさんったら、「あ、フライングステージさんですね。どうぞ、どうぞ!」とスタッフの控え室を快く貸して下さった。
 ジャスミンさんと、僕と、それから、同行してくれたますだいっこうちゃんは、おかげでゆっくりのんびり、支度をすることができたんでした。
 どうもありがとうございました。
 表彰式には、どのくらいの人が集まってたんだろう?
 200人くらいだろうか? 区議会の議長さんだとか、区長の代理の助役の方だとか、ちょっとお堅いかんじ。でも、ごあいさつはみなさんとってもいい意味「軽く」って、なかなかいいノリ。
 僕は、他の演劇祭って知らないんだけれども、なんだか暖かくっていいなと、いつも思う。
 僕達のドラァグ姿も、もしかしたら、毎年恒例の名物になってるのかもしれないけど、みんな「冷ややかに見てる」かんじじゃなくって(もちろん、そういう人もいるんだけども)、一緒になって楽しんでってくれてるみたい。
 で、表彰式。
 下から順に発表されて、フライングステージは「としまテレビ賞」ということに。
 賞状と賞金の五万円をいただいてくる。
 式の後は、祝賀会。
 みんなで乾杯した後、立食のパーティが始まった。
 ドラァグ姿で手袋なんてしてると、どうしてもぱくぱく食べるわけにはいかないのが残念。
 ビールを片手に、「婉然」と微笑んでるしかないからね。
 って、それだけしてたわけじゃなくって、いろんな人と話したなあ。
 久しぶりにお会いした豊島区舞台芸術振興会会長の浅川さん、女優の阿部寿美子さん。
 うちの芝居を以前見てくれてからおつきあいがある、今回の参加劇団の代表田村みみこさん。
 それから、「オープニング・ナイト」を見てくれたという審査員の方たち。
 「いや、一番よかった! 僕は一番いい点をつけたんですよ!」と言ってくれた方。どうもありがとうございました。
 何人かの方からは名刺をいただく。演劇祭のいいところは、こうして、それまで縁もゆかりもなかった人と知り合いになれることだ。
 受賞劇団の挨拶の順番が回ってきて、みんなでマイクの前に立つ。
 僕が話したのはこんなことだ。
 「いつもこんな恰好してるわけじゃないんですけど。今日は特別な日なので‥‥。今から5年前、初めて参加したとき、フライングステージの観客動員数は、200人ちょっとでした。それが、この間のオープニング・ナイトでは926人までになりました。池袋演劇祭に参加して、演劇祭に育ててもらったなあ、と思っています。またいつか来ますので、どうぞお楽しみに!」
 「育てられてる」というのは、このごろ、よく思うことだ。
 挨拶したような演劇祭のみなさんもそうだけれど、ずっと見てくれているゲイやレズビアンやその他のお客様たち。
 ぼくたちだってがんばってきたけれども、それでもやっぱり支えてくれているお客様がいるからこそ、僕等は芝居を続けられてる。
 かなり当たり前な、ちょっとまっとう過ぎて嫌みかもしれない、そんなことを改めて思った。
 「ジャンクション」という優秀賞を受賞した劇団が挨拶をしていて、もう終わりかな?と思って拍手してたら、「あの、すいません!」と二人いたうちのもう一人の方が、話し始めた。
 「僕はゲイなんで、ゲイとして芝居をもっともっとやっていきたいと思ってます(要約)」みたいなことを話してる。まだ若いその子は、ちょっとお酒が入ってるみたいで、二丁目あたりの若いゲイが「キャーキャー」しゃべるみたいなノリで、そんな「イカしたこと」をしゃべってる。
 「この中にゲイの人はいますか?」なんて聞くもんだから、僕達はいっせいに手をあげてやったわ!
 挨拶が終わって、人混みに紛れた彼に早速アタック! 「ジャンクション」という劇団の中でゲイなのは彼一人だけっていうことなんだけれども、彼らが言うには「ゲイの人にたくさん会えるって楽しみにしてたんですよ」ですって。  「ダ・ヴィンチ」の記事を見ててくれた彼女もいて、なかなか盛り上がって話したあと、きっちりと、例の男の子から携帯の番号を教えてもらう。今度、一緒に遊ぼうねと約束して。
 三本締めでパーティは終わって、僕とジャスミンさんは、メークを落とし始める。
 阿部寿美子さんと、またいろいろ話してしまう。
 「フライングステージは実力があるんだから、ゲイの芝居にこだわらないで、いろいろやってみたらいいのに」と言ってもらう。
 阿部さんは、「美女と野獣」をとっても気に入ってくれて、会う度に、「あれはよかったわねえ」と言ってくれる、ベテランの素敵な女優さんだ。
 「そうですね。そのうちに‥‥」と答えながらも、実は僕は「ゲイの芝居にこだわらなくなったら、それはもうフライングステージじゃないよ」ってな気持ちでいたんだった。ごめんね、阿部さん。
 「そしたら、もっと上位に入賞できるのに!」ってなことも言っていただいたけども、「陽気な幽霊」はそれでも大賞をとったんだもん。やってみるさ、これからも、このまんまでね。
 出張で大阪からきているミチヤくんが花束をもってかけつけてくれた。どうもありがとう。
 その花束は今玄関先と、トイレと、大きな花瓶3つに分かれて、咲き誇ってるよ。
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 10月23日(月)
 新宿文化センターの下見に行ってきた。
 明治通りと靖国通りの交差点、クィーンズシェフの角から、明治通りを大久保方向に向かって歩いて最初大きな角を右に曲がる。
 朝から降ってた雨が、思い切り降ってる。6時にアポをとってたんだけど、もう真っ暗。いつの間にか秋なんだね。昼間はそうでもなかったのに、夜になってから、とっても寒くなった。
 この暗い遠い道を、歩いて見にきてもらうのねと、考えながら歩く。
 前にここに来たのは、いつだったろう? すっごい昔に、HIVがらみのパレードで来たことがあるのを思い出した(ホールの予約は、別の事務所で済ませたので。新宿文化センターは、この夏いっぱい「改装中」で、10月15日に再オープンしたところなのですよ)。
 約束してたますだいっこう氏とロビーで会い、2階の事務所へ。
 小屋付きさんに連れられて、3階のホールへ。
 初めて見た小ホールは、いいかげんに「くたびれた」なかなか味のある小屋でした。
 大きさも手頃。ちょっとたっぱがないのが難だけれども、50センチ高の舞台はフラットな客席の後ろからもよく見えそう。
 楽屋もそれなりだし、シャワーもあるし。受付まわりのゆったりしていること。「受付しなさい」と言わんばかりね、といっこう氏が言ってました。
 舞台下手袖にお約束の姿見があるんだけど、なぜだか縁取りが「色ガラス」でできていて、なんだか可愛らしかったよ。舞台に立つ人は必見ね。ていうか、みんな見ると思うけど。
 舞台に張るリノもあるということなので、かなり大助かり。
 てなわけで、器材表をもらって帰ってきました。
 ちゃんとした打ち合わせは、来月の末に、もう一度ということで。
 この「眠ってる」小屋がどんな風に起きあがってくるのか、楽しみ楽しみ。
 いっこう氏と向かいのフレッシュネスバーガーでお茶をする。
 この陽気に、オープンカフェはちょっとつらかったかも。
 でも、明後日からの札幌はもっと寒いのだろうか?
 帰りに、タックスノットで「ゴッホ」の最後の営業。
 バディの表紙を書いてるジョナサンくんと会い、この頃話題の「岐阜の幽霊(?)騒動」の話で盛り上がったんでした。
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 10月25日(水)
 札幌に来ちゃう前にやっておくことを、あらかた片付けて(ていうか、先送りにして)、それでも、なんだかんだと眠ってしまうことができなくて、徹夜明けの今朝。スペースシャトルの着陸の実況とか見ちゃったりして(6:00)。
 11:45羽田発で、昼過ぎに千歳に到着。
 大荷物(ほとんど着替え)に傘さしての東京出発は、寝不足なせいもあって、かなりしんどかった。札幌が「晴天」だったらもっとブルーだったんだけど、こっちも雨降りだったので、まあいいかと。
 札幌駅前から大通りまで少し歩いてみた。カートに大きなバッグくくりつけて、がらがらひっぱって。
 結構あったかいかんじ。
 半そでで歩いてる人もいる。ほんとに。
 春にお世話になったホテルに今回もお世話になる。
 途中で電話を入れてみる。まだ2時過ぎなんだけども、チェックインできるかどうか。
 電話に出てくれたのは、さんざんお世話になったかあさんで、「これから子供迎えにいかなくちゃいけないんで、31号室開けてあるんで、勝手に入ってて下さい」だって。
 ホテルは、地下鉄東西線西18丁目駅の上。
 荷物かかえて地下鉄の階段を上ったり降りたりするのはもう体力的に無理ってかんじだったで、いさぎよくタクシーを拾う。大荷物に嫌な顔もしないで、トランクを開けてくれる。
 で、ホテル着。
 こないだ40日泊まってた部屋のとなり。
 荷物を片付けて、4時からの稽古の前に、シャワーを浴びる。
 外ではぜんぜんだいじょぶだったのに、こうして部屋で一人で「しん」としていると、寒いじゃないか!!
 そそくさと着替えて、稽古場に向かう。
 今回の稽古は、ホテルから歩いて3分のAGSの稽古場で全日程が組んである。
 懐かしい道を「さむいよお」とつぶやきながら歩いてたら、向こうから歩いてきた斎藤歩さんに出っくわす。これからちょっと仕事なんで、稽古には少し遅れるとのこと。
 で、稽古場。
 歩さん以外のめんめんがみんな集まってくる。
 なつかしい。
 4月の最初の稽古のときの「緊張したかんじ」がなつかしく思い出されるけど、今回は、すっかりうちとけたムード(僕的に)。
 看護婦役の宮田さんが「ファッションチャンネルニュース見ました」と言ってくれる。
 旦那さんが札幌のケーブルテレビで仕事してるんで、いつも見てくれてるそう。
 「関根さんがやってるなんてぜんぜん知らなかった!」といわれる。
 宮田さんが見てびっくりしたのは、「シネマ特集2」っていう回。
 映画をいろいろ紹介した最後に、「関根信一は実は役者だった!」っていうテロップが出て、「ゴッホからの最後の手紙」の案内が流れるってやつ。
 東京にいたときに録音したんだけども、「これって・・・いいの?」ってなくらい「いっちゃってる絵」なんだこれが。映画館の予告編見てると「特報!」って字が出てくるのがあるでしょ。まさにあんなかんじ。
 でも、見てくれてとってもうれしい。札幌で放送されてるの知ってたんで、「何らかの」リアクションはあると思ってたけど、こんなに早くとはね・・。
 歩さんがなかなかこないので、先に稽古を始める。
 車座になって、テキストレジ(台本直し)をする。
 5月の初演をふまえて、今回は大幅なレジをするとの本間さんからのあいさつ。
 ゴッホと弟のテオ(僕の役)が中心になる2場が、「大幅にカット」される。
 「えーっ!!」ってかんじ。
 最後にわかればいい二人の関係を説明しつくしてしまわなくていいということ。
 さくさくどんどこ切っていって、「じゃ、たってみましょう」ということになった。
 で・・・
 何もできない。
 初演の時の芝居が体にはいってしまっているので(セリフは出てこないんだけども)、カットされた場面を追っていくのがせいいっぱいだ。しかも、気持ちが悪い。
 途方にくれるけど、稽古はしなきゃいけない。
 今回は再演なんで、わりと楽に楽しく稽古ができるんじゃないかなと、勝手に僕は思ってた。
 でも、そんな予想は思い切りひっくりかえる。
 大変だ!!!!!
 説明しない。相手役とちゃんとやりとりする。
 当たり前だけども、同じことをしようとしない。
 結局、初演の時と同じくらい、いや、もしかすると、初演の時以上に「真剣勝負」な稽古場になってってる。
 今回支配人役をやってくれる堂下(どのした)さんと、初めてやりとりする。
 こういう「初めてな場面」がかえってやりやすい。
 ってことは、ついつい「なぞる」身体になってるのねと、気がつく。
 歩さんに「セリフをしゃべるためにいる体になってる」と言われる。
 そんなことわかってる。だって、ほんとに「いっぱいいっぱい」なんだから。
 でも、そうじゃない身体で舞台にいなきゃいけないってこともわかってる。
 ただ、できてないだけ。
 むちゃくちゃくやしい。
 いろいろ言われていろいろやってみるけど、気持ち悪さと納得のいかなさは消えない。
 明日に持ち越し。
 終わった後、みんなで稽古場で飲み会。
 なんだかんだと芝居の話をしつつ、終わったのは2時過ぎ。
 結局、今日はホテルのかあさんとは会えなかった。
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 10月26日(木)
 昨日は、遅く部屋に戻って、寝付けなくって、朝方まで台本読んだりいろいろしてた。
 で、今日起きたのは、昼の2時過ぎ。ひどすぎる。いくらおととい徹夜だったからって!
 やろうと思ってたことが何もできない。
 あきらめて、台本をも一度ちゃんと読んで稽古場に向かう。
 今日は、看護婦役の宮田さんと吉田さんが途中で抜けるので、予定していた2場の通しはなくなって、2場の小返し稽古。
 歩さんが今日も最初のうちいないので、みんなでアップをする。
 3人ずつに分かれて、一人の身体を二人でむちゃくちゃにする、ってことをやってみる。
 グーバーの結果、僕は宮田さんと吉田さんと一緒。もうひとつは、山野さん、堂下さん、永利さんの「男性チーム」。
 「痛い」「いやだ」「やめて」とだけ言っていいということで始まったんだけど、男性チームはのっけから「痛い!」の連発。ほとんどプロレスの技のかけあいになってる(山野さん中心)。
 僕達は野口体操の寝にょろの発展系な、「やさしい」かんじ。
 本間さんは、「こういう寄せ集めのチームなので、こういうことを今回はいろいろやってみようと思います」と言ってた。 
 そうだよね。そういえば、初演のときは、こういうことぜんぜんやってなかった。
 たしかに、チームなかんじはできあがってってるみたい。何より、楽しいし。
 で、稽古。
 昨日「周章狼狽」してしまったカットされた場面、まだスムーズには流れないけど、昨日よりはましになってる。
 何もしなくてもちゃんといられるテオでいることが、僕には一番大きな問題。
 僕はわりと、しゃべってる間だけ舞台にいられる的な追いつまり方をしてる体が好きだ。
 ラシーヌのセリフのようなね。
 僕が自分で書く芝居にも、自分でしゃべってるってこと、この場にいるってことを、ちゃんと実感したくって、とにかく「しゃべってる」人たちがいっぱい登場する。
 とにかくむちゃくちゃ強烈な「自意識」を抱えてて、ほとんどそれをもてあましてるような人たち。僕にとっては、そんな人の身体が「リアル」なんで、つい、そういう芝居をしてしまう。
 でも、今回は、それはしない。
 最終的にここまで持ってこうなんていう「演出的」なプランも持たない。
 ただただ、その場にいて、相手とやりとりする。
 フライングステージの稽古場でも「やりとりして!」とか「一人で芝居しない」なんてダメをよく出してる僕なんだけど、今回は、かなり真剣に「何もしない」ことに取り組んでみようと思う。
 今日は2場の稽古中心だったけど、昨日よりはよくなってるみたい。
 気持ち悪さも、ずいぶん薄まる。
 今日は歩さんのゴッホとの場面をはじめてたってみる。
 2場が終わりまで通ったところで今日はおしまい。
 ほんと、こんなに大変だとは思ってなかった、今回の札幌の稽古。
 でも、僕は、今までやったことのないことにチャレンジできて、新鮮な気持ちで毎日の稽古ができそうだ。
 たしかに、同じことをなぞる芝居はおもしろくない。
 きっと新鮮な身体は新鮮な舞台を生み出してくれるだろう。
 で、最後にどこに行くのか?
 まだぜんぜんわからないけど、これは結構おもしろい「旅」になりそうだ。
 いい仲間と、いい旅ができそうで、今、僕はわくわくしてる。
 稽古のあと、山野さんの車ですすきのまで送ってもらって、5月に行きつけだったインターネットカフェでこの日記を書いてる。
 車から眺める札幌の夜の町も、この店の若い子も、みんななつかしい。
 遠い北の街におじゃましてるかんじじゃなく、帰ってきたかんじがする。
 落ち着いて、のびのびと芝居ばかりをしてやろうと思う。
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 10月27日(金)
 山野さんが一時間遅れるとの電話があった。
 昨日の稽古で「腕がはれた」そうだ。
 そんなむちゃなことしてないはずなのにね。
 やってきた山野さんに聞いてみたらば、左の手首がはれてるとのこと。それは、山野さんが「自分で人をいためつけて、かってに痛くした」ことが判明。
 「まったくもう」とかみんなで言いながら稽古が始まる。
 ゴッホとのからみを中心にやってみて、最後には2場を通してみた。
 でも、今回カットされた台本と体が微妙になじんでない、いやなかんじ。
 理屈ではわかってるんだけども、せりふが出てこない。出てきても、せりふになってなかったりして。
 ゴーギャンの歩さんとのやりとりは、今回も楽しい。
 台本が増えてはいるけどカットされてないせいもあるんだけど、動いてみたら、半年振りなせりふが結構すらすら出てきた。
 もっとも、前半が変わってるから、後半も変わってなきゃいけないわけで、そういう意味ではここでも、その場にいることと、やりとりをすることだけを考えて舞台にいるよう心がける。
 目標は何もしないこと。
 最後に通した2場は、「僕が何もしない」ようがんばってしまったせいで、むちゃくちゃあっさり、さくさくと終わってしまった。
 「こういうもんなのか?」と納得しかけてたらば、本間さんから、「これだったらカットしない方がよかったかも」というコメントが!
 歩さんからも「朝だからね・・・」というダメだし(?)が。
 も少しのんきにやってみようかな?
 でも、今日はこれでおしまい。
 これから、来週の水曜日まで、歩さんと本間さんは、「逃げてゆくもの」の道内ツアーのためいない。僕たちは自主稽古だ。
 気が重い。
 日曜日からは3日間、作者の宇都宮さんが来てくれる。
 どうなるんだろう?
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 10月28日(土)
 今日から4日間の自主稽古開始。
 本間さんは、いない間のメニューを書き残してってくれたんだけど、「それはそれとして」いろいろなことをやってみようということになった。
 お互いにどんなトレーニングをやってるかっていう話をだらだらして、あちこちにワークショップでこんなことをした!ってな話になってった。
 山野さんが言い出したエチュード(?)は、みんなが部屋中を勝手に歩き回るんだけども、どこにも隙間がないように気をつけるっていうもの。
 フライングステージでやってるのととっても似てるんだけど、好きに歩いていいところがちょっと違う。
 始めてすぐはなかなかうまくいかなかったんだけど、だんだんいいかんじになってきた。
 あ、今日の顔ぶれは、山野さん、堂下さん、永利さん、宮田さんに僕。
 歩くスピードをどんどん早くしてって、息が切れたところでおしまい。
 次にやったのは、後ろを向いてならんだ人たちの一人に後ろから「気(?)」を送って、誰に送ってるか当ててみようというもの。
 何気なく始めたんだけど、これがどんどこ当たるんだよね。
 最初は山野さんが、送り手だったんだけど、送られてた永利さんは当ててしまった。
 横にいる宮田さんや、堂下さんも「永利さんじゃない?」なんていってるし。
 面白くなったんで、どんどこやってみることに。
 「不正」がないように、紙切れにみんなの名前を書いて一枚選ぶという方式を導入。
 送られた人が、次は送るという順番でどんどんやってみる。
 続いて、宮田さんも僕も山野さんもみんなあててしまう。
 異様に盛り上がって、最後にそれまでずっと「送られなかった」(くじびきだからね)堂下さんが送り手になっておしまい。
 この回だけが微妙にあたらなくて、それでも90%ぐらいの的中率だったと思う。
 で、一息いれて、稽古。
 今日は、今回一度も読んでない6場を読んでみることにした。
 初めて読むような新鮮さだ。
 4場の僕と山野さんのからみも確認する。
 まあ、こんなところだろうというあたりで、今日はおしまい。
 明日は、ルーラン役の滝沢さんが主宰する劇団極(きょく)の芝居を見に行く。
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 10月29日(日)
 予定通り、滝沢さんの劇団極の芝居を見に行く。
 5月に「ゴッホ」を初演した「ルネサンスマリアテアトロ」。その前にフライングステージはここで2回札幌公演をやってるけども。会場は、その3階のスタジオUNOっていう劇場だ。
 受け付けに行ったら、5月にスタッフをやってくれた中川原さんが受付をやってた。
 なつかしい。
 堂下さん用に東京から送ってもらった「モーニング」一式を預けて会場に入る。
 間口は広いけどもこじんまりしたスペース。
 芝居は「仕立屋とカモメ 〜お茶で一服〜」というもの。
 春先からずっと滝沢さんが「書かないとね・・・」と言ってた本がついに上演される。
 宮田さんと永利さんがいっしょに見てて、僕たちはおなじところでけらけら笑ってた。
 滝沢さんは昔、状況劇場にいた人で、せりふの叙情的なかんじとか、テンションでもってく演技スタイルとか、とっても昔の状況劇場っぽくっておもしろい。
 滝沢さんは、運送屋役でちょこっとしか出てこないんだけど、いっしょに出てくる相方のガリバー中川さん(女優さん)との思い切り力の抜けた芝居感がなんともいえずいい!! せりふだかアドリブだかぜんぜんわかんない。
 あと、すごかったのは、西山美紀子さんという女優さん。
 この人の芝居はむちゃくちゃすごかった。
 出てきた瞬間からもう見ないわけにはいかない。
 そのくらい「力」がある。
 自分の息子を返してほしいと言ってくるカモメのかあさんの役(たぶん)なんだけど、ずっと話をしながら、パンをかじり、チーズを食べ、ワインを飲み、女の子を手錠でテーブルにしばりつけてしまう。その「途切れないかんじ」はすさまじかった。
 終わってから、外で滝沢さんと話してたら、西山さんを呼んでくれて、僕はどぎまぎして「お若いんですか?」なんてバカな質問をしてしまった。
 「ええ、20歳は超えてます」って劇中のせりふで答えてくれて。申し訳なかったです。
 劇場を後にして、宮田さんと二人で、稽古場までの道を「思い切りしゃべりながら」歩く。
 札幌にはいい年をした男の役者がいないという話が出る。
 たしかに、女優陣の充実ぶりに比べ、男優はいまいちかもね。
 そんな中、劇団の主宰をするでもなく役者だけをやってる永利さんは貴重な存在だ。
 で、稽古。
 今日から、作者の宇都宮さんがきてくれてる。
 堂下さんの支配人の場面を小返ししながら、だんだん2場の稽古になってく。
 実は、夕べ、眠れなくて、台本を読んでたら、ふと、愕然として目がさえて眠れなくなってしまった。
 2場がぜんぜん違う芝居になったのに、そのあとの4場と6場(僕の出番ね)が同じわけないじゃない!!ってことに、朝方気が付いたら、もうだめで、おもいきりもんもんと眠れぬ夜をすごしたんだった。
 きょうは、そんなことをつらつら話してみる。
 そんなあたりまえのことに、気が付かないで、初演をなぞる読みをしてた昨日の稽古は何だったんだろう?
 新しい2場のテオでいくと、ゴッホに本を読んで聞かせる4場も、ゴッホの絵を奪いにきた支配人にナイフで切りかかる6場も、今まで通ではぜんぜん成り立たない。
 その成り立たせ方をどうするのか?
 違ったいき方で全部いくのか、それとも、どこかで初演のラインに「沿わせて」いくのか?
 演出家に聞いてみないとわからない。
 でも、本間さんはいないし。
 ほとんどパニックになる。
 今日は、しかも宇都宮さんが細かく演出してくれるので、僕はどうしていいのかわからない。
 ていうか、何をしていいのかがわからない。
 今やってることが正しいのかどうか?
 不安だ。
 久しぶりに会った宇都宮さんにも、ぶっきらぼうな不機嫌な顔を見せてたと思う。
 少し落ち着こう。
 だいじょぶ。なんとかなるさ。
 いっしょになってこんぐらがってくれてる山野さんがいてくれることがとんでもなく、心の支えになってる。
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 10月30日(月)
 昨日の続き。
 稽古が終わってから、札幌に遊びにきてる山縣くんとオサムちゃんと遊びに出かける。
 まず、初めていくラーメン横丁でラーメン。どこにしようか迷って、「反町隆史」のサインがあった店にオサムちゃんが決定。なかなかおいしかった。
 大阪からきてる卓ちゃんと合流して4人でまず「ルミエール」へ。
 ちょうど店に入ってた竹村くんといろいろ話す。
 そのあと、バーで飲もうかどうしようかという話になって、今日たまたまやってる「HOLE」っていうゲイナイトにいってみることにした(@CLUB 
VOUG)。
 オーガナイズしてるのは、札幌の古い知り合いのケンタ(でも、彼は若い
の!!)。
 日曜の夜だっていうのに、混みこみの場内。「どうして札幌の男の子はみんなかわいいんだろうね?」と、山縣くんと二人おじさんな会話。
 何人もの知り合いとあって、一様にびっくりされて、「稽古で来てるの」と説明。
 ホステス役の「ビューティフル・ジュエリーズ」の三人とおしゃべりする。
 彼(彼女)たちはとっても若いドラァグクィーン。3人そろいのコスチュームがとってもかわいい。
 ひとしきり踊って、1時前に帰ることに。
 みんな明日があるからね。
 僕は、爆睡でした。
 で、月曜日の稽古。
 今日も、堂下さんが早く来て、支配人の稽古をしてる。
 その流れで支配人のからみを一通りやって、それから、全部を通して読んでみようということになった。
 今回、一度も通して読んでない。
 初演の時もそう何度も読んだってわけじゃないんだけどね。
 今日から、稽古に参加してる滝沢さんといっしょに、ゴーギャンとメットを代役にして、とりあえず、頭からおわりまで読んでみた。
 少しほっとする。
 パニックしてた頭が少し冷静になれた気がする。
 どのくらい、何もないのか。どのくらい何もしなくてもだいじょぶなのか?
 そんないろいろの「めど」が立った。
 そのあとは、2場の稽古。
 今日も宇都宮さんの細かいダメだしで僕らはいろいろやってみる。
 演出家がいないところで細かく作るのが僕は苦手だ。
 どうせ、ひっくり返されてしまうってわかってるようなことをやってみるってことがね。
 でも、今日は最後には確信犯で「これは違うだろう」ってなことまでをいろいろやってみた。
 「何もしない」「説明しない」の反対の「きっちり何かしてしまう」ってことをね。
 その間で、僕が考えてた「何もしない」具合もずいぶんと幅を持てたような気がする。
 とりあえず、楽に舞台にいられるようになった気はしてる。
 昨日の西山さんのいかたは、むちゃくちゃ参考になったなあ。
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 10月31日(火)
 今日で宇都宮さんは東京に帰る。
 明日の稽古は休みなので、自主稽古の最終日だ。
 今日も、堂下さんの支配人の場面を中心に。
 そこから2場のゴッホとテオの場面。
 最後に、今回変更になった、吉田さんの幻覚の女の場面とルーランの滝沢さんとの6場。
 今回テオは、芝居の冒頭で、ゴッホの絵を油紙で包んで麻ひもでしばってる。
 そのひもを宮田さんが持ってきてくれたので、実際に「しばる」作業をしながらやりとりをしてみる。
 山野さんに「こうするとプロっぽいんだわ」と教えてもらった結び方が、芝居の中では結局できず、「プレゼント結び」をしてしまう(だんだんできるようになったけどね)。
 何かをしながらっていう芝居は、考えてるとむちゃくちゃ大変そうな気がするんだけど、実際やってみると、ふっと体を軽くしてくれる。
 今回もそうだ。
 僕は、結局、このむちゃくちゃはんざつな段取りに助けられて、さらさらとそこにいることができそうだ。
 堂下さんの支配人が今日はむちゃくちゃおかしくなった。
 2場ではずいぶんいろいろとてこずってたみたいだけど、6場は、もうとばしまくってる。
 本人は「これでいいのかな」と心配そうだけど、全然だいじょぶ。だって、おかしいもの。
 相手をしてるテオとしては、むちゃくちゃなテンションでひっぱってくれてるほうが助かるので、大歓迎だ。
 まあ、あさって以降どうなるかはわからないんだけどね。
 堂下さんは、緑摩子さんと石橋蓮司さんの「劇団第七病棟」に長いこといた役者さん。
 ずっと昔に蜷川さんがやってた「桜社」の舞台にも出てたそうだから、とんでもないキャリアだ(でも、むちゃくちゃ若く見える)。
 前回支配人役だった永利さんは、秘書に回って、いつでも支配人にプロンプがつけられる秘書もいかしてる。
 明日は一日休み。
 残ってるDMを書いて、メールを送って、コインランドリー「あしか」で洗濯。
 あさってからの本格的な稽古開始にそなえよう。
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