「Love Song」稽古日記
関根信一

●3月前半●

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 3月3日(土)
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 ひなまつり。
 今日の稽古から台本!のはずだったんだけど、「ごめん、この次はかならず!」とみんなに謝る。
 ぎりぎりまでああでもないこうでもないとやっていたんだけども、これまで考えてた設定を全部なかったことにした。
 今回の「Love Song」当初のプランは、テレビドラマにありがちな、何ヶ月or数週間にわたる、ゆるやかな流れの中で、シンプルなラブストーリーをってことだったんだけど、それをやめることにした。
 で、新しいプランは‥‥
 週末の夕方から翌日の朝までの約12時間のお話にすることにした。
 とにかく凝縮してしまう。
 繰り広げられる物語は、ほとんど変わらないんだけどね。
 この凝縮しちゃうってところは、舞台ならではなんだと思う。
 古典演劇には「三単一の法則」っていうのがあって、それはギリシヤ悲劇や17世紀フランス演劇なんかでは、むちゃくちゃ厳密に守られてたりする。
 別にそれをやろうっていうんじゃ全然ないんだけど、ちょっと思いついたんで書いてみます。
 まず「場所の統一」、舞台になる場所は動いてはいけないってこと。それから、「時間の統一」、物語は一日のうちに終わらなきゃいけないってこと。最後が「筋の統一」、ストーリーは一本で脇筋なんかがあっちゃいけないってこと。
 これに全然あてはまらない古典劇は、シェイクスピアなんだよね。全然自由にやっちゃってる。
 僕は、もともと、古典が好きで(特にラシーヌとかね)、フライングステージの台本を書くようになってからも、できるだけ、始まったら終わりまで一貫した時間が流れるものを書くようにしてた。
 でも、だんだん、芝居の嘘とお約束がおもしろくなって、時間も場所もどんどこ変わってく、お客様の「想像力」を頼りにしたフットワークの軽いものをどんどん書くようになった。
 僕の中で、この変化と開き直りは、実はとっても大きな変化だった。登場してくる人物も、だんだんストイックな人達から、ある種「いいかげんな」人達に変わってってる。
 作品的には「陽気な幽霊」っていうのが、そんな「変わり目」にあたる芝居。
 今回は、別に昔に戻るっていうんじゃなくって、限られた時間の中で何がどう変わってくのかってことをやってみたいなと思ったんでした。
 主人公の職場から、二丁目に遊びに行って、出会って、そして、始発が動き出すまでの時間をどう過ごすかっていうのが、今回の「Love Song」の時間軸。
 いつもは、人物と物語を描くことに一所懸命なんだけど、今回は、そんな「時間」が書けたらいいなと思ってます。
 終業間近のけだるい夕方。まだ早い夜のバーのなんだか「若い」時間のかんじ。終電間近の夜のあわただしさ。電車がなくなっちゃった真夜中の開き直り。
始発が動くまでの時間って昔はとっても長かったのに、この頃はどうしてこんなにアッという間に朝になっちゃうんだろうか? そんないろいろが、書けたらおもしろいなと思ってます。
 みんなには、それぞれのキャラの説明をして、基本的な組み合わせの二人組でエチュードをやってもらう。
 いわいわとよしおは職場の同僚。森川君と早瀬くんは年の離れた友達同士。まみーとマッスーは、店のマスターとお客さん。
 でも、そんなことは関係なく、二人で話してもらう。
 いわいわはこの頃、痩せてきてて、ダイエットor倹約生活はかなり成功してるみたいなんだけど、よしおを並ぶととっても小さく可愛く見えて、なかなかいいかんじ。
 森川くんと早瀬くんは、完全に早瀬くんがリードしてる会話が、妙におかしかった。
 マッスーは今日もなんかはじけていて、とんちきなことをいろいろ言って、今日も僕等を笑かしてくれた。
 次回はきっとと約束して、今日はここまで。
 初日まで、あと40

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 3月5日(月)
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 初日まで、あと38
 ついに台本を持っていく。
 といっても、最初の5ページだけなんだけど。
 プロローグと主人公の職場の場面。
 いわいわと職場の同僚よしおの二人が登場する。
 よしおは今回、OLの役。女装じゃなくて、ほんものの「女子」の役。
 あのガタイで女子の役っていうのはかなり冒険なんだけど、なかなかおもしろくなりそう。
 今日の稽古場は9時までしか使えないので、さくさくと読んでもらって、それからエチュードをしてもらう。
 プロローグでは、いわいわ扮する高橋くんが次々といろんな人に「振られまくる」という場面が続くんだけど、そんな「別れの場面」をやってもらう。
 いわいわは別れたくないんだけど、別れ話を切り出されてしまう、という設定。稽古場に「この線を越えたらもう追いかけちゃだめ」という線を作って、順にどんどんやってもらう。
 みんな、なんだか「リアル」でプライベートが透けて見えてるみたいで、見てる人達は「こわーい!」を連発してた。
 別に演じてとも演じなくてもいいとも言わなかったんで余計そうだったかも。
 延々、振られ続けるいわいわがなんだか可哀相でね。
 一見、すっぱり捨てちゃいそうなよしおが、いわいわに説得されそうになったり、早瀬くんがむちゃくちゃクールだったり、いろんな発見があっておもしろかった。
 今週から、だんだん稽古が増えてきます。
 次の稽古は水曜日。
 台本進めないとね。
 

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 3月7日(水)
 初日まで、あと36
 こないだ持ってった部分の決定稿(?)を持っていく。
 次々にいわいわがフラれる場面のバリエーションをこないだのエチュードからいろいろいただき、長ゼリフを整理。よしおと二人の場面もていねいに書き込んだ。
 基礎トレが終わった頃に稽古場について(ごめん)、すぐに読み合わせをしてみる。
 いわいわを振っていく男達1〜6を、決めていく。
 演出でどう動いてもらうかはまだわからないけど、それにしてもいわいわは「可哀相」だ。
 それこそいろんな理由で振られていく。
 その後の長セリフは、「でも悲しくならないで」とお願いする。
 自分の悲惨な状況を笑っちゃうみたいな、そんなノリでと。
 だからと言って、「つらいけど、笑う」みたいなもんじゃなくって、もっと前向きなやつ。「自分のことかわいそがらないで」って僕はよく言うんだけど、やっぱりそんなかんじかな。
 今回の「Love Song」は、主人公がいて、彼がとにかくお話をひっぱるってことにおいては、「陽気な幽霊」や「ヌード」の流れを汲むお話だ。
 だから、いわいわにはとことんしゃべってもらう。
 独白長セリフで進めていくっていうのが、かなり「ずるい」手だってことは十分承知してるんだけど、やってしまう。
 稽古場でも言った。「これだけのことを全部、セリフの中で説明することもできるし、そういうことをやってる人はたくさんいますが、僕はしません。途中で『あ、そうだったの!』とかって気付いてもらうより、始めからみんなわかってるって前提で一緒になって動いていってほしいので」って。
 肝心のいわいわの相手役、ゲイ大好きなOL町田弘子役のよしおがタイ舞踊のン稽古でいないので、僕が相手をする。
 書いてるときは気付かなかったけど、なんだか、とっても「陽気な幽霊」の幽霊のようなキャラになってる。僕がやってるからかもしれないけども。
 1場終わりの「もう恋なんてしない」といういわいわ=高橋央樹(ひろき)のセリフも「悲しくならないで」とお願いする。何度かやってもらって、大体のかんじはつかんでもらえたみたい。
 あとは、芝居全体をひっぱってく覚悟と根性だわ。舞台を背負ってるってことの気持ちよさを楽しんでちょうだい。よろしくお願いしますです。
 最後に頭から通して読んでおしまい。
 続きは土曜日。
 僕は、その後、二丁目のブルーオイスターラウンジにメロディアスさんとブブ・ド・ラ・マドレーヌさんの「愛の歌」ショーを見に行く。
 ブルーオイスターラウンジ(以下「ブルオイ」)は、ドリンクチャージだけでショーが見れる、何とも気楽なイカしたバーだ。
 去年の暮れにオープンしてから、僕はなんだかんだとよく遊びに行ってて、おかげで二丁目出勤率がこの頃とっても高くなってる。
 水・木・金の夜十時半から、いろんな人がショーをやってるので、みなさんもどうぞ。土曜日はメンズオンリーだけど、他の日は女子もいっぱい(かなりドラァグさんのおっかけっぽい)。あと、外人さんも多いかんじ。
 ショーを見るのは初めてのブブさんは、カルメンの「セギディーリャ」や「ニナ・ハーゲン」の「tear dropos」のカバーものなど。むちゃくちゃ素敵だった。
 今日のテーマは「愛の歌」ってことだったんで、「何かネタがひろえんじゃないか?」ってなさもしい根性で出かけた関根でしたが(白状)、そんなの関係なく、ほんとに、ほんとに楽しかった。
 水曜日ということで、お店が休みのタックさんにラピスのひろしさん、それにメゾフォルテのみつおさんたち、豪華なママたちも客席に集合(?)。ジャスミンさんや山縣くんとも会えて、楽しい夜でした。その後寄ったアイランドでは高校の同級生の水島くんたちと会い、タックスノットでゆきやさん&金丸さんと、このところハマっている「笠置シヅ子」について熱く語ってきました。
 笠置シヅ子は、年末のgaku-GAY-kaiでジオラママンボガールズでたぶん使うんだけども、ずっと聞いてると、頭の中にずっと「ブギー」が流れるようになってしまって‥‥。それも「黒田ブギー」とか「エッサッサマンボ」とかそんなんばっかり。
 くわしくはまた。ていうか、年末をお楽しみに。

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 3月10日(土)
 初日まで、あと33
 よしおが来たので、頭からもう一度やってみる。
 荒く立って動きながら、いわいわには、ちゃんとしゃべることよりも、セリフを前に出すこと、キャラクターを説明するような身体の動きはつくらなくていいよと話す。
 よしおは、UCでの女装修行が役に立ってるみたい。
 無理に身体を小さくして女を演じようとしなくていいよと話す。自然体でいるほうがよっぽど、女の子に見えるはずだから。
 なかなかのびのびとやってていいかんじ。
 今日は、続きの台本はお休み(?)。
 伏線の張り方で頭の中がウニになってしまってる。
 説明しておかなきゃいけないこと、そのことを知ってる人と知らない人の出会い。これはコメディのプロット作りと同じだと気が付く。
 コメディと言えば、昨日見た「絶対王様」の「地底人と恋」はとってもおもしろかった。
 地球が滅ぶ直前三日間の出来事。ひなびた民宿に集まった人達。そこのロビーのいっぱい道具で繰り広げられる、誰とでも寝る女の子と地底人の恋のお話。
 みんなが出入りするロビーと、いくつもの出入り口を使った、すれ違いのおもしろさ、たくみさは、それは見事なものだった。
 ありがとう、笹木くん。いいもの見せてもらいました。
 僕もがんばらないと。

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 3月12日(月)
 ずっと台本書き。
 なんとか書き上げて稽古場に行ったのは、9時を回った頃。
 今日の稽古場は、9時以降は延長使用扱いになるので、表玄関が閉まってしまって、横っちょのドアからこっそり入る。
 「遅くなってごめん」のこそこそ感がひとしおだ。
 僕が行くまで、みんなはこないだ渡したところをずっと稽古しててくれた。
 ひとでなしの作者・演出家だ。
 持ってったのは、主人公いわいわと元恋人で今は同居人の僕の二人の場面。
 とにかく読んでみる。
 メインのストーリーとしては三人目の登場人物。
 思い切って書いた「むちゃくちゃ」なキャラクターだ。
 お話も急に「むちゃくちゃ」な方向にねじまげられる。
 いわいわとの芝居から、少し余計な力が抜けてきたかんじ。
 何度か読んだら、もうおしまいの時間。
 ついさっき通ったばかりの通用口を出ていく。
 稽古が短かったので日記も短めに。
 初日まで、あと31
  

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 3月14日(水)
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 次の場面、二丁目のバーのシーンの台本を途中まで持っていく。
 流れを見たかったので、頭からを通してみる。
 まだ、細かい動きはつけないでね。
 バーにはマスター役のまみーといわいわ、よしお、それにいわいわの友達役のマッスーがいる。
 マッスーがいわいわに恋の相談をしてる場面。
 「キャラクター作らないで自然にやってくれればいいから」と言ったんだけど、何度かやってもらううちに「かなりつくりこんでもらわないと成り立たない」ものを書いてしまったことに気が付く。
 書いてるときにはとっても自然だった人達なんだけども、実際やってもらうと、まっすーやよしおが立ち上げてくれた人達はとっても「まだまだ」なかんじだ。初見だからしかたないんだけど。
 ああしてこうしてといろいろだめを出す。基本的には「もっともっと」ってことだ。
 いつもは、「ただ読んでれば成り立ってしまう」僕の台本なんだけど、今回はちょっと違うものを書いてしまっている。
 ていうか、お話の周辺にいる人達にその傾向は強かったんだけど、今回、登場人物7人みんなに、僕は、お話のまんなかにいるような複雑さと大変さをのっけてしまっている。
 僕は、いつもなんで、やっててもあんまり「違うことしてる」かんじはしないんだけど。
 よしおやいわいわやまっすーには、違和感があるかもしれない。
 ていうか、見ている僕に、とってもいつもと違う感がある。
 がんばってもらおう。
 こないだからずっとやってたトレーニングがどう生きてるか?
 いつもは、普段の基礎トレから自然な流れで稽古に入っていくんだけ、今回は特に意識してやってってもらわないといけないみたいだ。
 誰に話してるのかとか、その場面の話の中心はどこかとか、そういったこと。
 時間が来て、終わった頃、ますだいっこうちゃんが来てくれる。
 こないだお貸しした「クィアー・アズ・フォーク」というイギリスのテレビドラマのビデオを持ってきてくれた。これはとってもよくできたドラマ。くわしくいはまたいつかですが‥‥。
 森川くんと三人でごはんを食べる。
 プラスいろいろなおしゃべり。
 外に出たら、フライングステージのお客さんのHさんに声をかけられる。
 僕達がいることずっと気がついてたんだけど、外に出るまで気を使ってってくれたんだって。とっても嬉しくお話をする。ありがとうございました。
 初日まで、あと29

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 3月15日(木)
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 稽古場に行ったら、僕が行く直前にトラブルがあったらしい。
 今日の稽古場は、杉並の地域区民センターの集会室。部屋は2階にあるんだけど、部屋の外のエレベーターホール=喫煙コーナーにたむろしてた浮浪系の人達に「因縁」をつけられたんだって。発声練習をしてたら「うるさい」って。
 僕達はちゃんと手続きをして使用料を払って、規則を守って、部屋を使ってるわけなんで、そう言われても困ってしまう。
 お酒を飲んでるその人達にからまれて、どうにも埒があかないので、館の事務所に連絡をしたら、110番に通報して、おまわりさんがやってきた。
 しばらく部屋の外でいろいろ言い合いがあって、三〇分くらいしてようやく静かになった。
 おまわりさんに事情を聞かれたりして、その間、僕等は「待機」なかんじだった。
 今日は夜になってから急に冷え込んだし、いるところがないのもわかるんだけど、やっぱり困るよね。ただ、黙っているだけならかまわないと思うんだけども。
 で、おそるおそる稽古を始めた。
 台本の稽古はしないで、基礎トレを少しちゃんとやって、それから、「お話聞かせて二人バージョン」をやる。
 昨日の稽古でどうにもやりとりが成り立ってないんで、じゃあ、セリフじゃない言葉をしゃべるときはどうしてるんだろうってことを、確認してもらいたくって。
 いわいわとよしお、まっすーとまみー、森川君と早瀬君。劇中でコンビになる(?)二人にチームを組んでもらって、話してもらう。
 いわいわチームは「引っ越し」、まっすーチームは「二人暮らし」、森川チームは「温泉」について、語ることに。
 セリフをしゃべるととっても落ち着かないみんなの身体が、余計な動き=緊張を逃そうとする動きをしないで、何もしないで、ちゃんとそこにあるのが発見だった。特に、いわいわとよしお。
 まっすーは、ただ、しゃべってるだけでおかしいってことが、改めてわかる。
 早瀬くんと森川くんの「年齢差」コンビは、微妙なかみあわなさが、とてもおかしい。森川くんは、セリフをしゃべると堂々としてるのに、自分の言葉をしゃべるときには、うってかわってとってもシャイな人になる。早瀬くんの「しっかりしてる」かんじが急に立ち上がって見えてくるのがおもしろい。
 続いて、三人組で同じことを。まっすー、いわいわ、よしお組は、「ピザ」について、森川君、早瀬君、まみー組は、「記念日」について話す。
 まっすー組は、「くせ者」が三人ってかんじ。「誰か一人がしゃべり続けてしまわないように」って言ったら、ちゃんと「三人の会話」が運んでる。
 森川組は、ややおとなしめ。子供の頃の誕生日会の話をいろいろしてくれてた。
 ほんとは、「四人でしゃべってるところに二人が加わる」ってことをやりたかったんだけど、次回の稽古にまわすことに。
 セリフをしゃべって芝居をしようとすると、今日見たような自然さ=大胆さがなくなるのはどうしてだろう。
 想像力である状況をつくりだして、その「場」にいようとするのが役者の仕事なのかもしれないけど、今日はとりあえず、自然にある場にいるときどんなふうにしてるんだろうかってことをわかってほしかった。
 どうして違くなっちゃうのかなとか、何で身体が変わってしまうんだろうかとかそんなことに気が付いてほしかった、そんな稽古でした。
 次の稽古は土曜日。
 初日まで、あと28
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